Lv.-16 ミナ
レベル5。西洋風の街並みにジャパナイズされた飲食店。そこだけ見ればテーマパークのようだが、その分むず痒さのような違和感が残る。
そんな中、俺は窮地に立たされていた。テーマパークであれば我慢のしようもあったが、ここは普通の街の中であり、逃げ出すことも敵わない。
「さあ勇者様。こちらもどうぞ、さあ、あ~ん」
隣に座ったミナがマシマシに盛られたリンゴクレェプを差し出してくる。
「自分で食べるから、ほら、そいつを渡してくれ」
チラチラと周りの客に見られながらの羞恥プレイには耐えられない。
護衛の騎士団も少し離れたところからニヤニヤと生暖かい眼差しを向けている。
「駄目ですよ勇者様。昨日、置いていったことに対する罰ゲームなのですから、今日一日は言う通りにしてもらいます」
ニッコリと再度クレェプを差し出してくるミナだが、目が一切笑っていない。観念して一口頬張る。
「美味い!」
たっぷりのクリームに甘く煮込まれた柔らかいリンゴがマッチしていてシンプルではあるが日本で食べたことのあるクレープより美味しい。
「でしょう! ここのクレェプは絶品だってみんなが言ってたんですよ」
にっこり笑うミナを見てちょっとホッとした。
「次はミナの番だな。さあ、あ~ん」
これまたマシマシに盛られたグレェプクレェプを差し出してみた。
「え、あっ……あ~ん、はむっ」
耳まで真っ赤にしつつ、美味しそうに頬張っている。
「あ、おひーさまにゆうしゃさまだー!」
通りの向こうを歩いていた親子連れの子供がこちらに気づいて手を振ってくる。
「みんな明るくなりました」
ミナが子供に手を振り返す。
「ここ数年は瘴気の影響で近隣にもモンスターが出没するようになって、王都の活気も失われていたんです」
増えるモンスターの駆除に騎士団や冒険者ギルドなども対応はしていたものの、特にこの数年はジリジリと生活圏も削られてきていたらしい。
「それが勇者様のおかげで周辺のモンスターは駆逐され、その上、魔王討伐……というべきかは今となっては悩みどころですが、瘴気の問題も解決しました」
走り回っている子供たちを愛おしく見ていたミナが俺を見つめる。
「勇者様にはどれだけ感謝をすればよいのか……」
「それが勇者の役割だからな」
「また、そんな風に言って……。それでも私は貴方に感謝しているの。それに、半年という短い間だったけど、貴方と旅をして回った日々は何にも代え難い思い出よ」
更に体を寄せてきたミナの手が俺の手に重ねられる。
「貴方の事だから、はっきり言わないとわからないだろうから言っておきます……」
有無を言わせぬ決意を秘めた眼だった。
「私は貴方を愛しています。たとえ今後どうなろうとも、貴方と住む世界が異なってしまっても、私の想いは変わらないわ」
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