Lv.-14 あきらめ
レベル7。ラッキーセブンという言い回しはこの世界にあるらしい。むしろ、過去に勇者が頻繁に召喚されていた時代もあり、知識チート不要なレベルで色々ある。
「あきらめよう」
魔王の呪いによる残された期間はあと7日間だけだ。そうでなくても、次の女神の日には帰還するつもりだった。
「あきらめるのですか?」
ミナが不安そうにしている。
「ポジティブにいこう。思えば、召喚されてから訓練にレベル上げ、そして、魔王討伐と馬車馬のように働いてきた毎日だった」
魔王討伐が終わってからも、解呪方法や帰還陣、女神の恩恵と調べ物ばかりでずっと王城に籠もっていた。
「よく考えたら、まともに王都観光もしていないんだよ。せっかくの異世界を殺伐とした日々だけで終わってしまうのはもったいないじゃないか」
「確かに。せっかく平和になった世界ですから勇者様にも楽しんでもらう必要がありますね」
なにやらミナが気合を入れている。
◆ ◇ ◆
「で、どうしてまた図書室に来ているんだ?」
王都観光をすることにしたが護衛の手配も必要とのことでアイギスは予定をすり合わせにいってしまった。
そのため、俺とミナは二人で図書室に来ていた。
「もちろん、王都の最新情報を集めるためです。城の図書室には王都で発行される書籍が全て収められるようになっているんですよ」
国会図書館のようなものか。やはりというか、過去の勇者が印刷、製本技術とともに仕組みを作ったそうだ。
『日帰り王都観光案内』
『王都食い倒れ100選』
『デートにおすすめ王都の隠れ家』
『王都結婚式場巡り』
『人気の新婚旅行エリア』
次々に観光案内系の雑誌が積まれていく。
……観光ではなさそうな雑誌が混じっているような気もするが、突っ込んだら負けだ。
◆ ◇ ◆
ミナが観光雑誌を漁っている間に図書室をウロウロしていた俺は勇者コーナーがあることに気づいた。
勇者について書かれた本だけでなく、勇者が書いた本も置かれている。
何冊か手に取り、ペラペラとめくっていく。
この世界に骨を埋めたらしき勇者の中には何冊も著作を残している人もいた。
「勇者様、何か面白い本でもありましたか?」
本を取り出して、後ろを確認しては元に戻すを確認していたのを不思議そうに見ながらミナが近づいてきた。
「そっちはもう良かったのか?」
「ええ、とりあえず、明日の予定は決まりました。後はアイギスとも打ち合わせて詳細を詰めます」
行きたいところは決まったらしい。
「それで、勇者様の方は何を?」
「過去の勇者だが、何人かは聞いたことのある名前がいた。もっとも、本人かどうかはわからないがな」
「知り合いですか?」
「いや、名前を聞いたことがある程度だが、数年前からパタっと話を聞かなくなった人か、逆に急に有名になった人だな」
勇者の名前の傾向からしても、召喚された時期はそこまで古いわけではなさそうだ。せいぜい十数年の間ではないかと思われる。
「つまり、この世界に残った人は元の世界には戻っておらず、おそらく、元の世界に戻った人はそれなりの成功を得ているってとこか」
この世界に残った人は既に寿命で死んでいるはずだが、こちらの世界で死んだ時に元の世界には戻っていないことにもなる。
「……残った勇者様達は元の世界には戻っていないのですね」
「俺の場合がどうなるかは正直わからない。そもそも、レベルが下がった時にどんな状態になるか前例がないからな。案外なんともならないかもしれないし、帰還と同じ扱いかもしれない。まあ、なるようになるさ」
「……」
「ほら、とりあえず、明日のデートの準備でもしようか!」
「デ、デート……はい、明日は案内任せてください!」
残りの7日間は王都観光をしたり、勇者稼業でできなかったことをする。
せっかくの異世界を殺伐としたまま終わらすよりは楽しんで終わりたい。
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