Lv.-12 帰還陣

 レベル9。レベルが10から9へと下がり、ランク0になった。


レベルが9になったということは、タイムリミットが10日を切ったことを表している。

レベルが下がることによる死を回避する方法として、とっとと帰還陣で帰ってしまうのはある意味堅実な方法と考えている。

少なくとも、一旦神域への到れることで女神になんとかしてもらえることを期待しているのだ。


「ところで、帰還陣ってどこにあるんだ?」

 俺が召喚された時に使用された召喚陣は城内の召喚の間にあったのは知っている。召喚陣、帰還陣と呼び分けていることから別な魔法陣と推測できるが見たことはない。

 今、二人と向かっているのは召喚の間である。


「実は、召喚の間の奥に帰還用の魔法陣があるのです」

 召喚陣と帰還陣は対になっており、実際のところは二つの魔法陣が揃って初めて機能するそうだ。


 召喚の間いっぱいに広がっている召喚陣。複雑な図形が所狭しと描かれている。

「召喚陣の解読を試みたり、完全な写しを作成した魔術師もいるらしいですが、魔法陣が発動することはなかったそうです」


 召喚の間の奥の扉の先には同じ規模のよく似た魔法陣がもう一つあった。

 また、召喚陣と帰還陣の間にはこれまた複雑な図形で線が引かれており、明らかに連動している。


「やはり何の反応もしていませんね」

「反応?」

「召喚陣の方は勇者様を召喚予定の数日前からは薄っすらと光を放っていたそうです」

 この世界の勇者召喚は女神によって行われるものである。

 そのため、召喚陣は女神の日と呼ばれる満月の日でなければ発動しない。


 同様に、帰還陣も女神の日でなければ発動しない。

 これまでの帰還者に関して言えば、目的を達成した次の女神の日に帰還陣が発動して元の世界に帰ったとされている。

 女神の日は30日に一度、そして、前回の女神の日は魔王討伐の日であった。

 つまり、21日で死ぬ俺は30日の女神の日に間に合わず、死ぬ前に帰還することはできないのだ。


「勇者殿は女神様と話をされているのですよね」

 何かを考えていたアイギスが言った。

「ああ、ただ、女神はこの世界に干渉できないと言っていた」

 色々突き合わせて考えると女神がこの世界に干渉すること自体が問題になるのと、干渉する場合も何らかのリソースを使うのだろう。

 この世界に勇者を送り込むのが干渉問題の妥協点であり、与える女神の恩恵でリソースが変わるのではないだろうか。

 そのため、強力な恩恵を与えた後は次の勇者召喚までのタイミングを空けざるを得ないと考えられる。


「そうですか、ならば、何らかの神託を頂いたり、こちらから現在の窮状を伝えることは難しそうですね」


 召喚陣も帰還陣も女神により管理されていることは分かった。

「ところで、帰還しなかった勇者の場合はどうなるんだ?」

 目的達成の次の女神の日に間に合わなかった時とか。


「帰還予定の女神の日に女神が夢枕に立って世界に残るか聞かれたと記されていますね」

 あ、一応聞くんだ。

「ですが、前の勇者……、セツナ様の場合は帰還陣が光ることはなかったとありました。そのため、邪竜と相打ちになったとする説もあったそうです」

「……」

「ただ、セツナ様が魔王だったとして考えると、王家の一部はその事実を知っていたのではないかとも思えます」

「知っていた?」

「邪竜討伐後の情報に不自然なものが幾つもあります」


 邪竜討伐の祝い等は大々的におこなわれている。

 一般には勇者は帰還したと伝わっているが、王家では帰還していないことになっており、また、死んだとも伝わってはいない。

 一般には黒髪、黒眼が不吉の象徴との説が広がっている。

 レベル100のモンスターにダメージを与えるには聖剣が必要との情報。


「勇者セツナが魔王になったことを知った上で情報操作をしていたと考えた方が辻褄があいます。ただ、王家の中でもその情報が伝わり切らずに失われてしまっていたっぽいのが問題ですが……」

 確かに、知っていて魔王を殺せる勇者が召喚されるのを待っていたと考えたほうがスッキリはする。

 ただ、その間の魔王の心情を考えると全くスッキリはしないのだが……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る