Lv.-11 レベル9

 レベル10。今日は気分も外の天気もどんよりしていた。


 前の勇者セツナが魔王であった……

 昨日の衝撃的な事実に王城の中も慌ただしかった。


「だが、魔王が前の勇者だったとすればある程度辻褄があう」

 十分に戦力を強化するべくレベルをがっつりと上げたのだろう。俺と同じレベルアップ補正系の恩恵であれば短期間で99まで上がったとしてもおかしくはない。

 ただし、なぜレベル100に達していたかは謎なままだ。


「どうして魔王になってしまったんでしょうか……」

「それに関してはなんとも言えないが、別に人類の敵になったわけではなさそうなんだよなぁ。ほら、そもそも魔王からの攻撃ってなかったじゃないか。それに、あれはほとんど自殺だろ……」


 両手を広げて近づいてきた魔王の姿を思い出す。


「そうですね。それに、魔王の瘴気の影響で魔物が活発化はしたものの、魔王自体が攻めてきたわけではありませんでしたし……」


 悲願であった魔王討伐も急に後味の悪いもやもやした感情を残すものになった気がする。


「仮に魔王が悪でなかったとする場合、この魔王の呪いは何なんだろうな?」


『見事だ勇者よ。褒美にお前を殺してやろう……』


「褒美か……」


 正午の鐘の音が響く頃、体から黒い瘴気が溢れ出てきた。

 ぐっと体から何かが抜けていく感覚がある。

 いつもより強い脱力感。レベル10から9、ランクが1から0に下がったのは流石に弱体化が大きいようだ。

 それでも、レベル9は人類の中で強者と言える。


 場内の訓練場、俺はアイギスと訓練用の剣を持って向かい合っていた。

「ふふ、同じレベル9であれば私とて勇者殿に負けることはありませんよ」

 ミナの護衛でもある近衛騎士団長のアイギスはレベル9であり、通常の範囲内では最強クラスだ。

 また、最初の頃に俺を鍛えてくれたように剣の腕も段違いだ。最近でこそ圧倒的なレベル差で俺が勝っていたが、同一レベルであれば勝てないはずはないと模擬戦をすることになった。


「それでは……、行きます!」

 掛け声と共にアイギスが消えた。


―― カンッ!


「えっ?!」

 左後方へと回り込んで切りかかってきたアイギスの剣を受ける。

「ちょっと、勇者殿レベル9ですよね! もしかして、まだレベル10だったりしませんっ?!」

 得意の三連突きも軽くいなされてアイギスが叫ぶ。


「んー、アイギス遅くなった?」

「そんな事ありませんよ! 午前中も第二騎士団の副団長をボコボコにしたとこです」

 第二騎士団の副団長と言えばアイギスと同門で同じレベル9だったはずだ。

 となると、アイギスはレベル9でも上位に位置し、弱くなったとは思えない。


 ひとしきり模擬戦を行い、アイギスがへたり込んだところで終了した。

 ちなみに、俺は息一つ乱れていない。

「勇者殿、それはレベル詐欺では? たしかに以前より弱くなっているとは思いましたけど、すくなくともレベル9の強さではないですよ」

 確かに弱くはなっているが、レベル相当ではない。


「レベル倍率的な強化は消えているけど、上昇したステータス値はそのままってことかな」

 そう考えると同じレベルであれば圧倒的に強いのも頷ける。もっとも、更にレベルが下がれが弱くはなるだろう。

「そういうことならレベルが下がっても虚弱で動けなくなることはなさそうで少し安心です」

 レベル0で赤ちゃん相当のステータスにならないとわかっただけでも良しとしよう。


「これでレベルが上がるのなら無限にステータス強化ができたかもしれないな」

「あれ? それだとレベルドレインで無限ステータスアップ出来そうですけど?」

 ミナの指摘にアイギスと一緒に首をかしげる。


 確かに疑問も残るがレベルドレインを食らって無事だった人自体がほとんどいないと言う。

「魔王の呪いが特殊か、女神の恩恵に何らかの効果があるかなんだろう」

 とりあえず、今現在問題にならなさそうなことの検証は先送りとしよう。








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