Lv.-10 前勇者
レベル11。書庫に飽きてきたのもあり、中庭に椅子とテーブルを持ち出してお茶会をしながら勇者について調べていた。
「勇者召喚は女神様からの神託に基づいて王家主導で行います」
勇者召喚については王女であるミナが一番詳しい。
「勇者召喚に対して何か対価というか、デメリットはないのか? 例えば術者の命を対価とか」
よくある異世界物の小説などの展開を思い浮かべる。
「女神様からの神託に基づきますので、そんな悪魔召喚みたいな代償はありませんよ」
もっとも、星、というか、月の運行には左右されるので、召喚も女神の日、いわゆる満月の日の縛りはあるらしい。
「勇者召喚は世界の危機に対応するための女神様からの使徒を導くためのものですから」
「世界の危機か……。今回は魔王、前回は邪竜だったか」
「それ以外だと世界樹の復活や、初代勇者ですと邪神討伐ですね。これらはもう何百年も前の神話とも言えるくらい前です」
「思ったより召喚の回数は少ないのか?」
まあ、勇者召喚が必要な程の世界の危機が頻繁にあっては困る。
「いえ、前の勇者様からの召喚には百年空いていますが、その前は十年おきぐらいで頻繁に呼ばれていたようです」
「そんなに危険な世界だったのか?」
「そういうわけではなく、どちらかと言うと文化の発展という目的だったみたいです。その期間の勇者様の中には帰還しなかった方も多く、それで王家や貴族の中にも勇者の血を引いている者が多いのです」
勇者召喚の歴史と書かれた紙が広げられた。こう見ると割りと定期的に呼ばれている。ただし、本当の世界の危機の後には間隔が伸びているように思える。
「召喚された勇者に付加された女神の恩恵ってわかるか?」
「女神の恩恵ですか? あまり聞いたことはないですね。ただし、前勇者や初代勇者等がかなり強力な恩恵だったと言われています」
「俺の恩恵もある意味とても強力なやつだしな。やっぱり、恩恵の強さと次に召喚可能になるまでの期間に関係がありそうだ」
「強い恩恵だと次の召喚まで時間がかかると。そうすると前の勇者はかなり強力な恩恵だったと考えられますね」
邪竜を倒しているのも考えると戦闘に関連する恩恵、もしくは、俺のようにレベルアップがしやすくなる恩恵と言えよう。
「後は日本からの召喚として時間軸がどうだったかだな」
「時間軸ですか?」
「よくある異世界召喚の話ではここの時間と元の世界の時間にずれがあったりする。俺たちの世界で100年前というとかなり昔だし、それこそ初代勇者とか言い出すとそもそも文化的にはこっちの世界より遅れているはずだ」
少なくとも同じ時間軸でないことは間違いないだろう。
「それなら、歴代勇者様の絵姿を収めた部屋があったはずです。私も見たことはないですけど……」
昼食後、王様に許可を取ってその部屋を訪れることとなった。
「もしかして、俺の絵も飾られることになるのか?」
「もちろんそうですよ。既に召喚時に画家への発注は済んでいます。あ、私用に小さなサイズも追加発注してあります」
そういえば、召喚されてから何日か熱心に何か描いている人が付いて回っている人がいたことを思い出した。
王城の西の端、教会に隣接した位置にその建物はあった。
「こちらが歴代勇者様を祀っている建物となります」
正面には初代勇者と思われるイケメンのどでかい絵画がかかっていた。
「前勇者のセツナ様のお姿がこちらになります」
案内してくれた執事さんが右手の絵画を指し示す。
長いストレートな黒髪に意思の強そうなキリッとした黒眼、現代的な制服に身を包んだ女子高生がそこに居た。
そして、それは俺がよく知る人物でもあった。
「魔王……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます