Lv.-09 魔王の秘密

 レベル12。今日も朝から書庫に籠もっていた。


「そもそも、どうして魔王はレベル100に達しているんだ?」

 女神の恩恵があった俺でもレベル20だった。もっとも半年でレベル20なので参考にはならないかもしれない。

 この世界においては、レベル10を超えられる人自体がかなり稀である。成人男性の平均レベルでも4から5だ。

 また、魔物モンスターを倒して経験値を取得したからといって簡単にレベルアップするものでもないのだ。経験値と熟練度の両方が絡んでいるようなシステムである。

 更には、この世界のレベルは最大99である。これは神託等でも確認されている真実なのだ。


「普通に考えて魔王のレベルは本当なら異常ですよね」

「呪いのランクとかをみるにレベル100であるのは間違いないだろう」


 魔王が現れたと言われているのは約百年程前だ。

 それ以前は邪竜が世を脅かせていた。そして、その邪竜を勇者が倒して数年、世界は平和だった。

 しかし、じわじわと世の中にモンスターがあふれるようになってきた。その原因を探った結果、魔王の存在が明らかになったのである。


 なお、魔王の存在は明らかになったものの、実際に魔王の元まで辿り着いた者はいなかった。

 今回の俺たちが初の魔王遭遇、かつ、魔王討伐だったのだ。

 つまり、魔王自体は謎な存在だった。


「うーん、どの資料を見ても魔王の存在を匂わせてはいるものの、具体的に魔王について記述されたものはないな」

「王家の方でも魔王については直接的な被害がなかったためか、あまり関わらないようにしてたっぽいんですよね」

 王家は何らかの情報を掴んでいたっぽい雰囲気があるらしいのだが、それでも既に数代前の話となっており、今の王様もよくわからないとのことだった。


「魔王のレベルですが、やはり、最初に話が出てきた時には既に100だったと考えたほうが良さそうです」

 そう言って示した報告書には魔王が行ったという大規模魔法についてまとめられていた。

 そこには、海で大規模な召喚を行ったとか、一夜にして山脈を作った等、眉唾ものの報告が続いている。

「この報告では魔法のレベルを真面目に検証しています。例えば、召喚されたモンスターのレベルから術者のレベルを逆算するとかですね」

 この世界はあらゆるものがレベルに縛られていると言って良い。つまり、使用された魔法を調べることで術者のレベルが推定できる。

「その結果、術者のレベルは100以上と評価されているのです。当時にはレベルの最大が99というのが知られていたこともあり、この報告書は信用されなかったみたいです」

「魔王がレベル100だったということを考えるとこの報告書は正しかったのですね」

 今になって正しいことが判明したこの報告書の著者はもっと評価されるべきかもしれない。


「となると、魔王は最初からレベル100だったと言うべきか。そして、それからレベルが101に上がっていないというのも重要かもしれないな」

 前人未到のレベル100になるには、その前の段階があるはずだが、そのような話はなかった。また、レベル100に達する実力がありつつ、百年近く経っているのにレベル101にはなっていない。

 考えられる理由として、魔王は短期間でレベル100に至った、または、突然レベル100になった。レベル100以上にはレベルが上がらない等が考えられる。


「結局、魔王については良くわからない存在ですねー」

 読んでいた歴史書や報告書を片付けていく。

「そういえば、魔王は黒髪、黒眼でしたから、人目を避けていたのかもしれませんね」

 アイギスが思い出したようにそう言った。


「黒髪、黒眼は不吉の象徴だったか。俺も黒髪、黒眼なんだがな……」

「勇者様は基本的に、日本?からの召喚者ですので黒髪、黒眼ですね。あれ? そうすると勇者様不吉の象徴?」

「勇者殿達が黒髪、黒眼だとすると不吉の象徴とされているのが変ですね」

 王家の血筋にも召喚勇者が混じっているため、王家にも時々黒髪や黒眼も生まれるという。

「確かに。ちなみに王家では黒髪や黒眼は喜ばれてますよ?」


「召喚勇者か……、そういえば俺以前の勇者はどんな人達だったんだ?」

「前回、そうは言ってもそれこそ百年以上前の勇者は女性だったそうです」


 次の資料を探そうとしたミナをアイギスが止めた。

「勇者殿、姫様、前の勇者については明日にしませんか?」

 気づいたら既に夕刻になっていた。

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