Lv.-07 凱旋

 レベル14。あの後、様々な解呪も試してもらったが、結局解呪には至らなかった。


「もうすぐですかな」

 正午を前に司教様と向かい合って座っていた。

 俺はというと、机の上に置かれた呪い鑑定とレベル鑑定の水晶に片手ずつ乗せた状態で待機している。傍から見たら滑稽だろう。

「ただいまレベル14、呪いもあるということしかわかりませんね」


―― カーン、カーン……


 町の教会の鐘の音が遠く聞こえたタイミングで黒い靄が生じる。

「おおっ、これは……えっ……」


―― ピシッ


 呪い鑑定の水晶玉にヒビが入る。

 同時におなじみとなったレベルダウンの気怠さが生じた。


「おお、たしかにレベルが13に下がっておりますな。しかし、鑑定水晶を壊すほどとは流石は魔王の呪いと言ったところですか」

 何か納得したかのようにしきりに頷いている。

「瘴気が発生した時、呪い鑑定の水晶が映していたレベルは、1から2、3と急激に増加していきました。そして、98、99となったところで砕けてしまった。これは、普段は勇者様の中で眠っているような呪いですな。そして、特定の時間になると牙を剥く。その威力も99レベル以上。残念ながら、やはり私では解呪はできないようです」

 教会の方でも似た事例や解呪方法がないか急ぎ調査させます。そう言って司教様は戻っていった。


「勇者殿、そろそろ凱旋パレードの準備をするがよろしいか?」

 司教様と入れ違いに入ってきたのは団長と王女さん、それに、何やら色々抱えた侍女の皆さんだった。

「さあ勇者様、勇者様のかっこよさを王都の民に見せつけるときがきました。そして、私との仲の良さもしっかりアピールしましょう」

 王女さんの言うことはスルーし、かれこれ一時間近く物言わぬ着せ替え人形となるのだった。


 王都近郊で凱旋パレード用の金ピカなオープンタイプな馬車へと乗り換えた。ドレスに着替えた王女さんも一緒である。こうやってみると確かに一国の王女らしい美しさがある。

「どうです、見惚れましたか勇者様?」

「……」

 そっと見なかった振りをしたが、小さく、くすくす笑う声が聞こえた。


―― 開門、かいもーん、かいもーん!


 王都入り口の大きな門が開かれる。途端に内側から大きな歓声が聞こえてきた。


「魔王討伐ばんざーい!」「ゆうしゃさまー!」

「姫様万歳!」「勇者軍に敬礼!」


 城へ向かう大通りは勇者軍を一目見ようと詰めかけた群衆でいっぱいになっていた。

 どうやら屋台も出ているようで、大通り以外も人で溢れている。


「この国は私が生まれる前から魔王の影に怯えていました。魔王が直接攻めてくることはありませんでしたが、その影響は大きく、年々モンスターの被害は増えていったのです」

 声をかけてくる人々に手を振りながら王女さんは続けた。

「私が物心つく頃には王都の人々から笑顔がなくなっていました。それが、見てください! みんなが笑顔になっています。勇者様、本当にありがとうございます」

 王女さんは笑顔で抱きついてきた。


「ひゅー、ひゅーひゅー!」「よっ! 色男!」

「勇者様かっこいいー!」


 大観衆の手前、王女さんを引きはがすこともできず、そのまま王城まで辿り着いた。


「勇者よ、魔王討伐ご苦労であった。我が国はそなたの偉業に対し如何なる対価でも差し出すであろう」

「というわけで、私を貰うってのはどうかしら? ね、勇者様。お父様もそれで問題ないでしょう?」

 王女さんがいきなりぶっ込んできた。謁見の間だと言うのに、王様の威厳も何もあったもんじゃない。

「ミナよ、ワシはそれでもかまいはせぬが、勇者は元の世界に戻るのであろう、それに、呪いのことも報告は受けておる……」


『つまり、勇者は21日後に死ぬ』


 既に1週間が過ぎようとしている。残された期間は2週間だ。

 残念ながら帰還陣が使用できる女神の日まではまだ二十日程ある。帰還することで呪いから逃れられる可能性があったとしてもこのままでは間に合わないのである。


「呪いの解呪や帰還を早める方法等についても各所に伝達して至急情報を集めているところだ。気休めかも知れぬが何かわかるまでは魔王討伐の疲れを城でゆっくり癒やしてくれ」

 そう言って王様は再び頭を下げて感謝の意を表した。


 今日はゆっくり疲れを癒やす、そう思っていたのだが……

「勇者どのー、こっちの肉は美味いですよ。さあさあ、お食べください」

「勇者さまー、アイギスばっかりかまってないで私とたべましょー」

 俺は魔王討伐を祝した晩餐会で団長と王女さんに挟まれていた。


「お前ら、羽目を外しすぎじゃないか?」

 二人に両腕を取られて動けなくなっている。料理は……両側からひっきりなしに食べさせてもらっているので、まあ、たべられてはいる。

 城での晩餐会と言えば貴族達に絡まれるイベントと思っていたが、二人にガードされているためか誰も近寄ってこない。

 いや、ひそひそと何か生暖かい目で遠巻きに見られている気がする。


 こうして王城での夜は更けていった……





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