Lv.-06 合流
レベル15。自然あふれる異世界の空気は美味い。時折モンスターが現れることを除けばのどかな街道を結構なペースで進んでいた。
「こうして勇者様と二人っきりでの乗馬も良いものですね」
前に乘った王女さんが密着して体重を預けてくる。
「……姫様、妄想の世界に入るのはそれぐらいにしてください。勇者殿も少しペースを落としていただけますか?」
追いついてきた団長から声がかかる。どうやら少し気が急いていたようだ。
「このペースで進めば昼過ぎには王都手前の町に到着します。王都での準備もあることでしょうから、今日はその町で一泊することになります」
「準備?」
王都に戻るのに何の準備がいるのだろうか?
「勇者殿、お忘れかもしれませんが我々勇者軍は魔王討伐を成したのです。王都に戻る時は凱旋パレードを行うに決まってるではありませんか」
呪いのせいですっかり忘れていたが、魔王討伐を行ったのだった。途中の町もそういえばお祭りムードだったのだが、毎日レベルが下がる身としては中々討伐の実感がない。
「勇者様用の派手な装備とか用意して貰わなければなりませんね」
「いやいや、俺は今のこの装備が気に入ってるからこれでいいぞ」
黒竜の皮で作られたこの革鎧は軽くて強い上に闇夜を思わせる漆黒が良いのだ。
「確かに、勇者殿の防具は性能は良いのですが、なにせ地味ですからねぇ」
「でしょう、私としても並んで凱旋パレードをするなら、もう少し派手な方が……」
熱く語り始めた王女さんと団長のことは意識の外においてのんびりと街道を進む。
「団長、それに王女様と勇者様もそろそろ馬車にお戻りいただけますでしょうか?」
副団長が馬を寄せてきた。
どうやら、町が近いらしい。王都から迎えの騎士団も来ているらしく体裁を整えたいとのことだ。
「外の方が風も気持ちよかったんだけどなあ」
「勇者様、そんなことは言わずに、さあ、一緒に座りましょう」
おとなしく馬車に戻り、町への門をくぐった。
「半年ぶりぐらいか、またいちだんと凛々しくなったな」
町で待っていたのは第一騎士団だった。
「伯父様もお久しぶりでございます」
第一騎士団の団長は王女様の母親の兄にあたる人らしい。
「勇者殿、この度の魔王討伐誠にありがとうございます。騎士団員は勇者殿、ならびに、勇者軍に対して、敬礼!」
「おおーっ」「勇者様万歳!」「姫様ありがとー」
騎士団の敬礼に合わせて、周囲の住民からも声が上がる。
「本日はこの町で一泊し、明日の昼過ぎに王都へ凱旋の予定となっております。それと、王都の教会より司教様をお連れしておりまして、宿屋で待機していただいています」
「王都の司教様と言えば、レベル10に達している超越者ですか。今、この国で解呪に関しては司教様以上の方はいないと思われます」
この世界、レベルはなかなか上がらないのである。特にレベル9から10へは単純に経験値だけでは上がらないと言われている。そのため、レベル10に達した者は超越者とも言われ、一目を置かれている。
「勇者様、お久しぶりでございます。そして、この度は魔王討伐おめでとうございます。女神様もさぞ喜ばれていることでしょう」
かなり年を取った、しかし、それしてはいやに元気そうな爺さんが部屋を訪ねてきた。
そういえば、召喚された時に見かけた気がする。この爺さんが司教さんだったか。
「呪い鑑定の水晶、および、念のためレベル鑑定の水晶も持参しました」
以前見た水晶玉とほぼ同じだが、高級そうな台座に収まっている。
「レベル14、いまだに超越者とはいえ、すでに6も下がっているのですか……」
「まあ、もう慣れた。魔王討伐も済んだし下がる事自体はそこまで気にしていない。問題はレベル0から更に下がった場合だ。司教様はどう考える?」
教会のお偉いさんでもあるし、似たような事例も知っているかもしれない。
「下界、この場合、天界に対する我々の世界のことですが、人は天界より下界に降りてくることで人となります。これがレベル0、赤子の状態ですね」
この時、赤子は女神の加護によりダメージをうけない。とはいえ、脆弱であることに違いはなく、天界からの授かりものとして丁重に扱われる。
「また、人は亡くなった際には再び天界に戻り、天界の住人となるのです。勇者様も天界、神域を通られたのでしょう?」
「女神に会った白一色の領域のことなら神域を通ってこの世界に来たのは間違いないな」
「おお! やはり。我々はこの下界での活動を終えた場合、天界に戻ると考えています。この下界の
爺さんは机の上に置かれた水を一気にあおる。
「レベル0から下がる場合、これまでと逆の状態を辿ると考えると、天界に戻るとするのが自然でしょう。もっとも、それを一般的には『死ぬ』と同義とみなすのかも知れませんが……」
『つまり、勇者は21日後に死ぬ』
魔王の最後の言葉が頭をよぎった。
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