Lv.-04 休息所

 レベル17。早朝からバタバタと王都への帰還の準備を行っていた。

 この町は魔王城攻略の最前線として、近衛騎士団意外の騎士団も常駐していたのだが、魔王討伐によりその任務を終えて順次帰還となる。

 町は祝勝ムード一色となり、既にお祭り状態だ。


 そんな中、俺たち勇者軍も早朝ではあったものの盛大に見送られて王都へと出発した。

 本来であれば祝勝ムードであるが、呪いのせいで俺たちの馬車内の空気は重かった。


「王女さんよ、魔王討伐は成ったんだもっとにこやかにしないとせっかくの可愛い顔が台無しだぞ」

「か、可愛い……っではなくて、それで勇者様が呪われたのでは王女としての立場が……」

「いや、召喚勇者ってのはそんなものじゃないのか? そういえばこれまでの勇者はどうだったんだ?」

 詳しそうな団長の方を見る。


「勇者召喚は今回が久々でして、以前の召喚の詳細は城で調べたほうがよいですが、百年前の勇者は邪竜を倒した後、城には帰ってこなかったと伝え聞いています」

「帰還陣は城にしかないので、つまりは元の世界に戻れなかったということでしょう」

 王女さんは悲しげに目を伏せた。

「それ以前の勇者様はほとんどが元の世界に帰ったと言いますね。もっとも、初代勇者は帰らずこの国の王になっているのですが」

 団長はにっこり笑って王女さんと俺を見た。


「ゆ、勇者様はやはり元の世界に帰ってしまわれるのですか?」

 少し上目遣いにすがるように聞いてきた。

「ああ、女神との契約だし、RTA的にもゴールが必要だからな。ただ、勘違いするなよ、俺はこの世界が嫌いな訳じゃないしゆっくり見てみたいとも思っている」

「で、でしたら、やはり魔王の呪いを解かねばなりませんね」

 ぐっとこぶしを握った王女さんは決意を新たにしたようだ。

「RTA……?」

 団長は首をかしげて何かを呟いている。


―― トントン


 馬車の窓が叩かれる。

「どうした?」

 少し窓を開けた団長が外の団員と何やら話をしている。

「アイギス、どうしたのですか?」

「あー、そろそろ昼休憩予定の場所が近いのですが、何やら少し揉めているらしいのです」

「揉め事ですか、ぜひ……あ、民が困っているのは見過ごせません。行きましょう」


 休息所では幾つかのグループが馬車を止めて休んでいた。そのうちの2つのグループが何やら揉めているようだった。


「何か揉め事ですか」

 王女さんは団長を引き連れて揉めているところに嬉々として乗り込んでいった。

 一国の王女に乗り込まれた側はたまったものではないだろう。両方とも明らかに顔が引きつっている。


「いえ、王女様のお手を煩わせるほどのことではないのですが……」

 話を聞くと、片方は流れの行商人で食料が尽きて困っており、遠くの街で仕入れてきたという書物を売って食料を買おうとしたらしい。

 しかし、その書物の値段で折り合いがつかなかったようだ。

「古く貴重そうな書物であるのはわかるんですがね、いかんせん、読めない文字で書いてあると価値があるのかどうかわからないもので……」

「そこをなんとか、物好きな貴族とかであればきっと高く買ってくれます」

 2冊あるその書物を行商人は金貨2枚で売ろうとしているが、せいぜい銀貨数枚というところで平行線を辿っていた。


「どこかで見たことのあるような文字ですけど……確かに読めそうもありませんし、本物かも怪しいですね」

「そんな~」

 王女さんの言葉に行商人は崩れ落ちる。


「金貨一枚で良いなら俺が買おうか?」

 書物をチラ見して、そう提案した。

「勇者殿、こんなよくわからない書物に良いのですか?」

 団長にそう言われるが、別に金貨一枚ぐらい払えない額ではない。というか、モンスターの素材の売却で金は余っているのだ。

「おお、勇者様でしたか、売ります、売ります。この際、金貨一枚で問題ないです」

 速攻で商談が成立し、行商人も無事食料を手に入れることが出来た。


「勇者様、そんな書物に金貨一枚も払ってよろしかったのですか?」

「ん? 金貨一枚でも安かったかもしれない」

 本に目を通しながら王女さんに答える。

「勇者殿はその本が読めるのですか?」

「……まぁ、読めるな。これは俺が居た世界の文字だ」

 そう、この本は日本語で書かれていた。

「たぶん、何代か前の勇者の日記だろうな。城に戻ったら詳しく調べてみよう」

 インベントリに本を入れて昼食に向かった。





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