第10話 変わる景色と変わらぬ景色

 ここも随分変わったなと昌士が思うのも無理は無かった。

 生活をしていると生活範囲というものがある。

 そしてそれは年齢や当たり前だが生活によって変わってくる。

 幼少期や青年期を過ごした学区。

 仕事をするために過ごした街。

 地元の良く通う場所。

 そしていつしか足が遠退いていく場所が増えていく。


 魚釣りやよく泳いだ池はマンションになり、よく吠える犬と恐い親父の住んでた家はいつの間にか駐車場になっていた。

 学校帰りに通った、いつまでも歳の変わらないお婆ちゃんがしていた駄菓子屋は、そっとその地から消えてしまった。

 探検した森も走り回った細道も今は大きな道路になっている。

 近所で子供たちを見守ってくれていた大人達よりも今では昌士や依子の方が歳上になっていた。


 そんな中で昌士の隣には昔と変わらない依子がそこにはいた。


 変わり行く景色の中に変わらぬ景色がここにはあった。昌士はそんな変わらない景色をじっと見つめていた。

 この後、依子に「じっと見てなんだい?」と怒られるのはまた別のお話し。

 そしてこのやり取りもまた、変わらない景色の一つなのであった。


 きっと昔と同じまま過ぎていく事が無いことはみんな知っている。変わって欲しくないと願っても変わってしまうことも。

 それでもまだ、こうやって変わらない景色があることに昌士は黙って静かに頷き、時々思いを馳せるのであった。



 了


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