第4話 依子のヒール
昌士は依子の家の玄関に並べられた履き物に見慣れたヒールを見つけた。
「依子!また一度も履かんかったヒールの手入れをしてるんか。そんなもん早く捨ててしまえ」
「煩いよ昌士。私のものだから、私がどうしようと勝手でしょう」
「もとはワシが何十年も前に依子に贈ったものだろうが」
「結局もらったのは私なんだから昌士は黙っとりなさい。それとも昌士は一度あげたものを取り上げる程器の小さい男かね」
「なっ、そりゃあそのヒールは依子のものだ」
「なら黙っとり!」
って事があったと依子は友達の
当然、花枝も昌士と依子の一連の付き合いがある事は知っている。
「でも何で依子さんはそのヒールを履かなかったの?」
「それはね、昔の話で少し長くなるけどいいかい?」
依子はお茶を入れ直し昌士との昔話を話し出した。
「今もそうだけど、私は昔から背が高かったの。それでその頃から男の子にからかわれていてね、大女って。私それが嫌でいつも小さく前屈みでいたの。そしたら昌士が背の高さなんて気にするなって、今に俺の方が高くなるからって」
「あれ?でも昌士さんと依子さんって」
「そうなの。私の方が今でも背が高いの。昌士は背の事なんか気にするな、正々堂々歩いたら良いって言って卒業して働いた初給料であのヒールを買ってくれたの」
「それじゃあ昌士さんの前で履いてあげたら良かったのに」
「昌士、口ではそう言ってたけど内心私の背を追い越せなかった事気にしてたのよ。あの頃は毎日牛乳を飲んで早寝もしてたの。そんな昌士の横で何だか履きにくくてね。それにね、私だって昌士の横では昌士より背の低い女でいたかったのよ」
「それで結局履いてないって訳か」
「それもちょっと違ってね。昌士の前では一度も履いていないだけなの。それ以外は大事に履いていたのよ。流石に今は履けないけどそれでも手入れはしているの」
依子は「昌士には内緒ね」と言ってお茶菓子を花枝に薦めるのであった。
続く
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