第3話 昌士と知義

 知義は昌士と依子の同級生だった智春ともはるの十歳離れた弟だ。

 それこそ二人は知義とも随分と長い付き合いがあり、知義は昌士と依子の関係を見てきた一人でもある。


 歌会の後、昌士と知義は近くの公園で涼んでいた。


「知義よ、歌会に行っていたのなら教えてくれても良かっただろうに。何で黙ってたんだ」

「先輩、黙ってた訳ではないのですよ。ただ、依子さんから口止めされてましてね。依子さん、どうしても先輩と歌会に行きたかったんですよ」

「それと口止めにどんな関係があるんだ?それに依子もワシに言えば良いのに」

「言っても先輩、歌会に参加しなかったでしょう?だから依子さんからも歌会に参加している事を先輩に話すって言ってました。そうしたら絶対来るからって」

「なっ」

「依子さんの予想通り、先輩が来てたので僕は可笑しかったですけどね」

「煩いぞ。もう二度と行かないし、依子の前で歌も詠まん」

「まぁ先輩、そう言わずに。依子さん事ある毎に昌士の短歌の話をしているんですよ。小学生の時、課題の短歌が作れず困っていた時、先輩が助けてくれたと。とても下手だったけど凄く良かったと。最近余り詠んでくれなくなった。とも言ってました」

「それは、そのぅ」

「毎回じゃなくても、たまには歌会に顔を出してくださいよ。依子さんの為じゃなくて僕の為に」

「まぁ知義がそう言うならたまに顔を出そうかな」


 昌士は少し考える様子を見せていた。

 知義もまた、昌士の扱いをよく知っているのであった。



 続く

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