第66話 あの子に手を出すな!

「おーい、待て!ワシの帽子を返せ!」

 フック船長は、いきなり現れた子供たちを放り出して、ピーターに

飛び掛かろうと、走り出す。

だが、相手は空を飛べるのだ。

明らかに、船長の分が悪い。

おまけに小さな妖精が、船長のひげを引っ張って、そうはさせじと邪魔をする。

「そんなことよりも、おまえ…こうしている場合か?

 大切な彼女が、ワニに食われるかもしれないぞ?」

余裕の表情を浮かべ、いきなり切り札を出して、ピーターを丸め込もうとする。

 だがピーターは、そんなことにはだまされない。

「ウェンディには、手を出すな!

 それから…このアキたちにもな!」

そうひと声叫ぶと、ヒョイヒョイとマストを飛び越えると、あっという間に

舳先にたどり着いた。


「ピーター!」

 そこには、ウェンディの双子の弟たちが、先にピーターに気が付いた。

「ウェンディは?」

焦ったピーターが、早口で話しかける。

「姉ちゃんは、あっち!」

小さいほうの弟が、船の端に渡している、長い板を指差す。

 今、まさに…手下に小突かれて、目隠しをされたウェンディが、ゆっくりと

板の上を歩いているところだった。


「危ない!」

 思わず、追いついて来たユウジがつぶやく。

「ウェンディ、止まれ!」

ピーターも焦って叫ぶ。

「えっ、ピーター?」

目隠しをされた女の子は、ピタリと足を止める。

「ピーターなの?」

手を前に出して、声の主を探そうとしている。

だがすぐに、手下の剣が、彼女の背中をさらに押す。

「おい、止まるな!」

遠慮なしに、グイグイと押す。

「ウェンディ、いいから止まれ!」

きざはしに、ユウジが思い切って足をかける。

「止まるのは、そっちだ!」

いきなり何者かが、ユウジに声をかけた。

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