第44話 弱虫な吸血鬼

「キミたちかい?

 ユー子の知り合いの子供たちって」

 見た目は、ドラキュラそのものなのに、思いの外親し気な声で、

話しかけてきた。

「えっ…」

カガリはその見た目に、すっかりおびえて、アキの後ろに回り込む。

あはは…

その人は、まったく外見にそぐわないような、朗らかな声で笑う。

「もしかして…ボクのことが、怖いの?

ニコッと笑いかけてくるけれど…

いかんせん、それはあまり有効ではなかった。

口元に、チラリと鋭い歯が見えたので、カガリはさらに、

「ひっ」と小さく声をもらした。


「ちょっと!」

 アキも本当は、怖かったのだけれど…

ここは、カガリを何とか守らねば、という謎の正義感を奮い立たせ、

ずんと一歩前に近づく。

「あなた、ドラキュラなんでしょ?

 ドラキュラなら、ドラキュラらしく、ヘラヘラとしないでよ」

「へっ?」

後半部分は、自分でも…何を言ったらいいのだ、とわからなくなり、

とっちらかったまま、勢いで言い放つ。

だが、相手をひるませるのには、成功したようだ。

ふいにシュンとした顔になると、

「ごめん…ボクは、怪しい者ではありません。

 よく怖がられるんだけどねぇ」

急に声を震わせて、ガクンと落ち込んだように見える。


「なんだよぉ~変な吸血鬼!」

 相手が弱いと知った途端、ケイタがへんと威張った声になる。

「ビビリの吸血鬼なんて、聞いたことがないぞぉ」

へへへーんだ!

怖くなんか、ないぞぉ~

ケラケラと笑う。

「ちょっと、ケイタ!

 威張っているんじゃあないの!」

アキが厳しく怒鳴り返す。

 弱気な吸血鬼。

 お山の大将のケイタ。

 私は…何をやっているの?

アキは呆れて、すっかり不安てな気持ちが、どこかにすっ飛んでいった。

 

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