第3章 魔法①
「あれって……お城?」
「帝都タワー……ではないよな……確実に。」
丘を登り切った俺たちの目の前に現れたのは、巨大な城。正確には分からないが、かなり高い。上層階は雲で隠れているほどだ。造りは……石造り!?どうやってあんな高さまで積み上げたんだ?
「見て、太陽!城の下には町が広がってるよ。きっと人が住んでるよ!」
巨大な城の下にはこれまた広大な城下町が広がっている。あれだけの町なら、きっと様々な情報が集まるだろう。
ただし、同時にもう一つはっきりしたことがある。
ここはやはり…俺たちの知ってる日本…いや世界じゃない。
里穂姉ほどじゃないが、俺も勉強はできる方だ。特に社会科の勉強が好きなのだが、こんな町や城は今まで見たことがない。
こんな巨大な石造りの城、もし現実にあったら間違いなく世界遺産だ。
それともう一つ。若葉は気付いていないが、あの城下町は、戦うために作られている。
周りの堀といい城壁といい、間違いない。
ただもしこれが俺たちの住んでいる世界であれば、それらは戦いにおいてほとんど意味をなさない。
今の時代、もし戦争になったら飛んでくるのは戦闘機やミサイルだ。
つまり考えられることは、異世界は異世界でも過去の世界の可能性もあるということだ。
しかも日本ではない。なぜなら日本には歴史上あんな巨大な城が建っていたことは一度もないからだ。
これは大きな情報だ。里穂姉や海斗兄にも直接見て欲しい。
「よし、このことを2人に伝えて次の動きを考えよう。実際に行くなら、4人揃ってからの方がいい。」
「そうだね、里穂姉も海斗兄も絶対びっくりするよ……って、えっ!?」
後ろを振り向いた若葉が声を上げた。
「ちょっと待って、今カメラで城を撮って……」
「そんなことしてる場合じゃないよ!太陽、2人が大変だよ!」
俺の腕を掴んでブンブン振る若葉。
驚いて携帯電話を地面に落としてしまう。ムッとして若葉を見ると、焦った表情で丘の下……俺達が最初にいた建物の方を見ている。
携帯電話を拾い上げ、渋々若葉の見ている方を見ると……そこには驚きの光景があった。
なんと海斗兄と里穂姉が20人ほどの大人、しかも坊主に追われている。
2人とも必死に丘を登っているが、徐々に距離を縮められている。
「里穂姉、なんだか体調が悪そう。助けに行かないと!」
確かに里穂姉の足取りが重い。海斗兄が支えてるおかげでなんとか進んでいる感じだ。
助けたい、だがどうやって?
俺達が助けに行けば、ここまでは追いつかれずに登ってこれると思う。だが、その後どうする?
相手は大人だ。しかも20人。俺達4人でなんとかできるのか?
でも…
「太陽、急がないと!!2人とも捕まっちゃう!!」
「そ、そうだな、行こう!」
考えていてもしょうがない。まずは2人を助ける。後のことはその時に考えよう。
一気に丘を駆け下りる。
2人が俺たちに気付いたようで、逃げるよう叫び、手を振っているが聞こえないふりをした。
2人を置いて逃げられるはずがない。
2人のもとへは2分ほどで到着した。
「なんで逃げないんだ!これじゃあみんな揃って捕まっちまう!」
「海斗兄ならそう言うと思ったけど、お説教は後にして!今はとにかく逃げよう!」
俺は里穂姉をおぶった。もう意識がほとんどない。丘の上に駆け上がりながら海斗兄に尋ねる。
「里穂姉どうしたの?別れるまでは元気だったのに。」
「それがよく分からないんだが急に体調が悪くなったみたいで。でも実は俺も少し体がふらつくんだ。」
2人とも同時に?
この世界の空気中には何かあるのか?
でもそしたら俺と若葉がなぜ元気なのか疑問が残るが。
俺達が合流したことで、登るペースは格段に上がった。が、相手は大人だ。やはり少しずつ距離はつめられている。
「あの人達、悪い人なの?」
「分からないが、会話から察するにどうやら俺達を捕まえることが目的らしい。やつらの親玉からの命令のようだが。
それで太陽。この後のことは考えているのか?」
海斗兄、だんだん顔色が良くなってきたみたいだ。走ってるんだから、どんどん疲れてくるはずなのに。
「詳しくは目で見て欲しいんだけど、丘の向こうに大きな町と城があるんだ。そこに逃げ込めたらと思ってる…」
ただ、距離が距離だけに可能性はほぼ0に等しいことは、今は黙っていることにした。どんなに可能性が低くても、それにすがるしか今はないのだ。
それから数分で丘を登り切った。前方の巨大な城と町に海斗兄は一瞬驚き足を止めたが、またすぐに走り出した。
「あそこまで逃げ切るのは…正直厳しそうだな。」
「うん。」
途中に森や林があれば、木の上に隠れることもできそうなのだが、町までは原っぱが続いている。その距離約3キロ。
坊主達までの距離が500mくらいだとすると、まず逃げきれない。
「だったらさ、あの人達をびっくりさせてやろうよ。」
「えっ!?」
後ろを見ると、里穂姉が笑顔で顔を上げる。
「里穂姉!具合は大丈夫なの??」
若葉の心配そうな声に対して、ピースサインで答える。
「なんか2人と合流してからどんどん体調が良くなってきたのよ。不思議だよね!」
ひょいと俺の背中から降りる。本当に体調は大丈夫そうだ。
「太陽、ありがとね。おかげで走れるまで回復したよ。それで私、いい方法を考えついたんだけど、ちょっと耳貸して…」
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