第34話 アクリノーレの鎧。

クリブルがクリーレとクエリアースを撃退して一年が過ぎた。

クヨコの国とは戦争が始まり、すぐにこう着状態になった。


理由は簡単で、クヨコが攻め込もうにも、エナメノーレと散々セックス特訓をして眷属や半魔半人達を強化したクリブルの持つ半魔半人兵達は、クヨコ兵を寄せ付けずにクレスの地に一歩たりとも踏み込ませなかったからだった。


だが逆にクヨコに行ってクリーレを見つけてしまいたいクリブルからしたら、入り込む余地もなかった。

エナメノーレに言わせれば、攻め込んだ所でクエリアースが行動を開始するまでどうする事も出来ない話なので、クリブルはこれでもかとエナメノーレとの修行に励む事になる。


エナメノーレにはかつての余裕はなく、息も絶え絶えでクリブルを受け入れている。


「死なない神だから耐えられるが、ペルオレなんかにやってみろ。昇天が本気で昇天だからな」


ペルオレと言うのはトーボ王の娘で、キチンと立場を受け入れてクリブルの妻の1人になった。

セミラックの遠縁にあたるパルブルも妻になり、ブールゥも妻にした。


自棄になったクリブルと、各々の考えが見事にフィットしていて文句はない。

そしてクリブル…ギアの強さはエナメノーレとのセックス特訓があってこそな事と、エナメノーレに仕込まれた結果、妻達は皆性に寛容になっていて誰1人異論を唱えない。


「ギアの為とは言え辛い」

「かつてのギア王クーリアを見習え。奴は妻が数えるのも馬鹿らしい程居たぞ?」


クリブルはご先祖様を偲びながらも呆れ、「とりあえずクリーレが出てきてくれて、倒してギアを復興させたい」と漏らすと、「まあそれは余裕だ。クエリアースも無理が祟って、逃しても百年は何も出来なくなる」とエナメノーレが答える。


クエリアースと聞いてクリブルが「クエリアースって殺せるの?」と聞くと、エナメノーレは「出来なくはないが、死を大量に使うから勿体無いな。大した力もなくなるから放置でいい」と言って笑う。


「アイツって本当なんなの?」

「だから過分な願いの魔女だ。奴は人を生贄に長命も可能にし、常に死をストックしているから殺し切るのは大変だ。だが大勝負に出る為に力の大半を使うから、殺すまでもない」


「その過分な願いって言うのは?」

「無才な人の身で神になろうとしている。呪いを駆使して私の生と死の力を再現して、私に代わり新たな神になりたいのだ」


「神か…。エナメノーレは神に見えない女の子だから、たまに神様って忘れちゃうけどね」

「無礼だな。まあそんな訳で、万に一つもあんな奴が神になるなどあり得てはいけないから、潰すのを手伝ってくれ」

エナメノーレにも事情があるのだろう。クリブルは頷いていた。



2ヶ月後、エナメノーレは「始まった」と言った。

その言葉通り、クレスからは巨大な人型の何かが観測された。人型のそれはクレスから遠ざかり、4日でターミャの地を壊滅させるとクヨコに戻ってきて、クレスに服従を迫った。


だが民達は半数が半魔半人で、クリブルの指示もあって慌てないし、セミラックとセミワイトは既に知っていた事なので冷静に対処していた。


クレスの城に集まったクリブル達は、作戦会議というほどでもないが作戦会議をした。


「エナメノーレ、あれがクエリアースの奥の手?」

「そうなる。あれはクヨコに封印されていたアクリノーレの鎧だ。クエリアースはあれを起動させてコアにクリーレを使ったのだ。ギアを滅ぼす赤き瞳の双子が起動の鍵だ」


ここでエナメノーレが予言の真実を説明した。

そもそもこの世界、カラフノーレには二柱の神として、エナメノーレの他にアクリノーレという女神がいた。


「アクリノーレの奴もクーリアに惚れ込んでな、まあクーリアの奴はクリブルと違い性に寛容だからアクリノーレの奴も思う存分抱いていた」

懐かしむように話すエナメノーレに、「ん?」と言ってしまうクリブルだが、エナメノーレは止まらずに続ける。


「骨抜きにされたアクリノーレはクーリアに自身一択にして、他の女との関係を終わらせるように迫った。だがクーリアの奴は私との契約を選び、アクリノーレに「ごめん。束縛とか嫌い。アクリノーレこそいつでもおいでよ。エナメノーレと3人でしたりしようよ」と断ったのだ」


クリブルは嫌な汗が背中を走る。

それは父母も同じで、なんとなくだが嫌な予感がしていた。


「それって…」

「ふむ。アクリノーレの奴は失恋のショックでクーリアに呪いをかけてしまった。それが赤き瞳の双子の話だ。まあ言い当てた預言者は凄いな。私なんて実際にクリーレを見るまで呪いの事を忘れていたほどだ。クーリアの奴に話を戻すと、奴はポジティブに「無視無視、そんな事気にしないでバンバンやるぞ!逆に赤い目の双子が生まれるまでやっちゃうぞー!」と言っていた。懐かしいな、「エナメノーレ、神様って本当に人間の子を妊娠しないの?するまで試そうか」と言っていてな、「俺は止まらない。何処までも突き進む」と言って、生涯私を孕ませると努力と研鑽を怠らなかった」


頬を染めて懐かしそうに話すエナメノーレをよそに、クリブルは周りの視線が痛い。


「エナメノーレ、アクリノーレは?」

「絶賛失恋中で、カラフノーレを出て別の世界に行っている」


「エナメノーレ…。僕はご先祖様が恥ずかしいよ。そんな事のせいでクレスやトーボにも迷惑をかけたの?」


クリブルの言葉にエナメノーレは首を傾げて、「クリブル?お前は何を言っている?」と突っ込む。


エナメノーレはアクリノーレの鎧が見える方角を指さして、「元々クレスとクヨコの境目まではギアだったんだぞ?」と言った。


「は?」

「だから、クーリアはキチンと覇道を歩み、カラフノーレ全域を征服しようとしていた。そこに私は惚れ込んでクーリアと契約を結んだ。だがどうやっても、クレスから先まで支配圏を延ばすと細かな部分まで管理運営できないから諦めた。そこからは目的を私を孕ませる事に変えて、国の運営は山ほど居た妻とその子供に任せて、ギアを安全なあの土地に下げたのだ。だから今ジト目のセミラック達も同罪だからクリブルは気に病むな」


エナメノーレの言葉にセミラック達は嫌そうな顔で、「女神エナメノーレ、それは本当か?」と聞こうとしたが、食い気味に「本当だ」と言われてしまう。


「エナメノーレ、じゃあなんでアクリノーレの鎧はクヨコにあったの?」

「ヤキモチ妬きの当て付けだ。攻め込めきれなかったクヨコからギアを破壊する力が迫れば、クーリアの奴も「エナメノーレよりアクリノーレにすれば良かった」と後悔するとアクリノーレが思い込んでの事だ」



なんとまあ、太古の痴情のもつれがここまで来たかと言う話に、クリブル達が頭を抱える。


そしてそれを聞くと、ギアとクレスとトーボの確執なんてものは無くなっていく気すらしてしまう。

そんな中、セミラックがリリアントに求婚をしだした。


「姫、我妻になってくれないか?」

「何をいきなり!?」


「いや、随分前から姫の事が気になっていてな、前々からアプローチをしたつもりで居たのだが…わからなかったか?」

「いつですか!?わかりません!!」

セミラックが不思議そうにリリアントを見て、「食事にも誘ったし、剣技の訓練も申し出た」と言う。


クリブルは聞きながら「あー…確かにリリアントに言われると大人しく着席したりしていたし、エナメノーレと2人で打ち合わせに来ると、「姫は?」と聞かれた。それにリリアントが来た日だけは食宴に招かれた。エナメノーレと2人の日は「残念だ、忙しい身ならば仕方ない」と言われて終わるが、リリアントが居ると「いや、食べて行ってくれ。姫、それまで訓練を頼めないか?」と言われてしっかり引き留められた」と理解した。

口下手で言葉足らずのセミラックらしい求愛行動。


リリアントは「あれで…」と言ってから困り顔でクリブルを見て、「お兄様」と意見を求める。


「リリの好きにしていいんだよ。とりあえず理想の付き合いがあるのなら、それをセミラックにやれるか聞いてみれば?」


リリアントは照れくさそうに頬を染めて、「では手紙から始めてください。剣に会食だけでは人となりがわかりません」と言うと、セミラックは「任せてくれ、得意だ」と言うが、後ろでセミワイトが残念そうな顔で首を横に振っていた。

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