第31話 クレスの惨状。
クレスは騒然としていた。
突如人々が死に、何があったか誰にもわからない状況で口から出てくるのは、ギアの死を司る悪魔の仕業ではないかと言う事だが、「濡れ衣だな」とエナメノーレは鼻で笑うと、混乱に乗じてさっさとクレスの城に入り込みセミラックの元に向かう。
城の方は街よりも悲惨な状態で、主だった家臣から使用人までが突然死んでいた。
セミラックとセミラックの世話をしていた使用人達は無事だったが混乱していて、クリブルを見ると「お前がやったのか!」と言って剣を抜いてきた。
クリブルが「落ち着け!セミラック!」と言いながら回避をしても止まらないのに、リリアントがその剣を受け止めて、「私達もまだよくわかっていません。エナメノーレ様のお言葉を聞いてください!」と言うと、「姫が言うのなら」と言ってセミラックは剣を下ろす。
「ふむ。リリアントが来てくれて良かったな」と言ったエナメノーレは、セミラックを見て「簡単に言えばこれはクエリアースの呪いの反動だな」と言った。
辺りを見渡すセミラックに「詳しく聞くか?」と問いかけると、セミラックは「頼む。後は父を同席させたい」と言い、応接室を用意するとそこにセミラックの父セミワイトを同席させる。
だが、どう見てもセミワイトは弱り切っていて話にならない。
セミワイトをひと目見て、エナメノーレは「ふむ。お強い方だな」と言った。
「いや、父はもう何年もこの状態で」
「だから推察するに、20年近くこの状況で生きているのだから強いと言った」
エナメノーレの言葉にセミラックが「何?」と聞き返すと、クリブルが「エナメノーレ?何がわかるの?」と質問をする。
エナメノーレはクリブルを見て「クリブルと同じ、クエリアースの呪いを受けている」と言った。
「おそらく肉体が弱って死に至る呪いだが、強靭な肉体と精神力がそれを防いでおられる。クリブル、呪いを殺してしまえ」
クリブルが立ち上がると、セミラックは「何をする!?」と言って慌てたが、リリアントに「エナメノーレ様とお兄様を信じて」と言われると大人しく着席する。
「お前達、面白いものが見られるはずだ。瞬きすら惜しむがいい」
エナメノーレの言葉の後で、クリブルがセミワイトの身体にまとわりつく呪いを殺すと、セミワイトの身体が大きく跳ねて震え出す。
その直後、朽木のような腕は大木のように筋肉質になり、禿げ上がっていた頭にはふさふさの頭髪が生え広がる。
弱々しく「あうあう」と言いながら小さくしか話せなかったセミワイトは、「ふぉぉぉぉぉっ!」と叫ぶと、「我復活!」と言った。
「お父様?」
「セミラック!済まなかったな!我は完全復活だ!」
目を丸くするセミラックを見てエナメノーレは「な?」と笑う。
「エナメノーレ?何がどこまでわかっているの?」
「まあ簡単な経緯は推察できる。リリアントにも今日のことを聞かれていたから話すかな。とりあえず私は頑張った。ご褒美を忘れるなよな」
クリブルが頷くとエナメノーレが説明を始めた。
クエリアースは予言にあった赤き瞳の双子がギアを破壊する事を信じて、恐らく歴代のギアの妃が子を宿すと、城に潜入して出産に立ち会ってきた事、遂に生まれたクリーレの為に計画を加速させた事。
ただ、ギアは豊かではないが恵まれた土地の為に侵略が滅多に起きない事、その為に近隣のクレスが選ばれて、傀儡政治を行う為にセミワイトは呪いにかかり、今死んでいる家臣達はクエリアースの呪いの触媒にされていた事を説明した。
「それをするとどうなるの?」
「まあこの場合は基本は思考誘導の呪いだろうな。セミラック、この20年はおかしな事だらけだろう?」
エナメノーレの言葉に、セミラックは「確かに、攻め込む気のないパレト侵攻も半ば無理やり決まり、無理難題のあるロエスロエを用いた都市破壊作戦にしても受け入れられた。ギアの侵攻も否定したのに決議されて、条件に属国化ではなく殲滅を提案したら受け入れられた」と答える。
ギアとロエスロエでリリアントの顔は曇るが、エナメノーレが首を横に振るとリリアントは頷いて大人しくなる。
「それもこれもクエリアースの思考誘導だ。ではとりあえず今日の話に入るかな」
そう言ったエナメノーレの話は、クエリアースの呪いは死を封殺する為に、生きた人間に呪いをかけるもので、その力でクリーレの右腕を復元し、右腕には力を奮うと威力に応じて触媒の人間が死ぬようになっていた事、クエリアースの持つ短剣にしても、死の剣に内包した人数の死を生きている人間で相殺してしまう能力で、始めに作った死の剣はビリジーアの館に居た男達40人くらいにしていたが、一瞬で40人を生贄にする事で剣を破壊していた。
「だから私は死の純度を引き上げてやった。その為に魔物を倒し続けていた」
「エナメノーレ様?人と魔物を釣り合わせたのですか?」
「そう言う事だ。クリーレの右腕も振るうたびに捕虜にしたトーボ人が死んでいたが、リリアントに我慢比べをさせた。
今もストンブ達がトーボ領で魔物を倒し続けて死を確保している。その死を使いクエリアースの呪いを真正面から破壊してやった」
ここで待ったをかけたのはセミラックで、「ではなぜクレス人が死ぬ?」と聞くと、エナメノーレは「クエリアースの奴があのままでは逃げられないと判断して、全ての呪いを発動させて、クレス人も皆殺しにしてその力で逃げ出したんだ」と答える。
「エナメノーレ、この後ってどうなる?」
「ふむ。クエリアースとクリーレの話だな。まあある程度は想像がつくが、クリブルにやれる事は一つしかない」
クリブルは聞きたくない。言われることはわかっている。だが一応聞くとエナメノーレは嬉しそうに「セックスだ!」と言った。
リリアントはウンウンと頷きながらエナメノーレに、「エナメノーレ様、あのクエリアースって何者なんですか?ご存知ですか?」と聞いてくる。
エナメノーレは嫌そうな顔で「いや、面識はないが、何をしようとしているのかは見当がつく。名付けるなら【過分な願いの魔女】だな」と言った。
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