第28話 クリーレの現状。

クリーレは失態を帳消しにする働きを見せる。

わずか数日で原因を突き止め、最悪の形で解決案を提示した。


セミラックが寝込んでいて話にならない間に議会をまとめ上げて、古い家臣達にクレス王の説得を任せるとトーボに侵略をした。


北のクヨコ、西のトーボ、東のオスイ大森林、そしてウォルテを挟んではいるが南のギアと、クレスは一瞬で四面楚歌に追い込まれたが、クリーレからすれば問題はなかった。


あの死すら殺す呪いを使うのには生贄が必要だった。

クエリアースの呪いの為にかなりの血が流れ、多数の捕虜がクレスへと連れて来られた。


捕虜達は率先して汚染された作物なんかの消費と、新たに汚染されていない綺麗な土地で食料を得る為に、過酷な労働に従事させる事になる。



運が味方をしたのはクヨコが北の果てではなく、縦に長いカラフノーレの土地では、クヨコの先にターミャの地があって、ターミャがクヨコに進行を開始して戦争状況になり、クヨコはクレスへと攻め込む事が出来なくなっていた。


今こそ攻め込む時と言い出す輩も居たが、今度はそれで南のギアや西のトーボに攻め返されては話にならないと、今は連れてきた捕虜達で食糧難を回避しようという話になった。


クヨコとターミャの戦争は長く続きなかなか終わらない。

ある種ギア以外は三すくみのような膠着状態に陥っていた。


1ヶ月が過ぎた頃、ベッドから降りられるようになったセミラックは、ようやく事態を知る事が出来た。

何故報告がなかったか、全てはセミラックの為と誤魔化されたクリーレや他の家臣達の悪意によるものだった。



セミラックはクリーレを詰問しようと呼びつけた時に目を見開いてしまう。

切断したはずの腕が元に戻っていたからだった。城の高位魔法使いでも腕の復元はかなり難しい。

そして早く施術をしないと成功率は下がる一方。

自身を治した高位魔法使いにクリーレを治す余裕はない。

それなのに腕が治っていて、クリーレは驚くセミラックの目を見て「クエリアースの力で御座います」と答えてきた。


クエリアースの力を聞いてセミラックは頭を抱える。

その為の奴隷かも知れなかった。


「とりあえず、状況はどこまでご理解いただけましたか?」

「全て聞き及んでいる。戦線を拡大させてどうする?同時に攻め込まれたらクレスと言えど、ただでは済まないぞ」


「大丈夫ですよ。一先ずギアです。ギアに攻め込んで、我が兄クリブルを討ち取ったら、セミラック様がワイプ山の悪魔エナメノーレと契約をしていただければ、ウォルテで見たような死者の魔物化も可能になります。再び殺したギア兵達を魔物化して、トーボを陥落させて更にトーボ兵を魔物化させれば、クレス兵を前に出さずに、魔物化した兵だけでクヨコとターミャに攻め込めば終わりです。損害のない魔物の兵団を用いればあっという間にクレスがカラフノーレの覇王でございます」


それは横で聞いている家臣達がウンウンと頷いていて、その説明で家臣達を言いくるめたのかと納得をする。


「ならギアも脅威なのでは?」

「いえいえ、その為の私とクエリアースで御座います。クエリアースの呪いでしたら、死を司るエナメノーレの権能を無力化出来ます。現に妹リリアントの持っていた、死から作った剣も一撃で破壊しております。死の装備は通用せず、魔物化した兵士達もクエリアースの呪いなら容易に破壊可能で復元は不可能で御座います」


言っている事は理にかなっている。

荒唐無稽な言い訳ではない説得力もある。


だが、どこかこのクリーレとクエリアースを信用しきれないセミラックは、疑いながら「その為にトーボの連中が必要だった?」と聞くと、「はい。どうしても世の中無対価とは行きません。クレスの方々を使う訳には参りません」と言ってニコニコと微笑むクリーレ。


セミラックは「わかった。ではクリーレに命じる。ギアを討ち取り、エナメノーレを我が前に連れて来い」と言い、心を決める事にした。


クリーレは恭しく頭を下げて「御意」と言うと、セミラックに見えないようにニタリと笑って立ち去って行った。



クリーレは自室に戻ると、クエリアースに「予定通りギアとの戦争だよ、クエリアース」と声をかける。

メイド姿で恭しく「はい。望んだ内容で御座いますね」とクエリアースは返事をする。


「トーボの連中は足りる?」

「まあもう少し欲しいところですが、これでトーボを刺激して出て来られても面白くありませんので、また適当な寒村に赴いて呪いをかけてきますわ」


「助かるよ。それにしてもクエリアースの呪いは凄いね。あのワイプ山の悪魔を寄せ付けないなんてね。それにこの右手もありがとう。とても素敵だよ」

「いえ、長い事呪いに触れてきたクリーレ様だからこそ、使いこなせているのです」


この言葉に笑いながら右腕を見たクリーレは、「全ては俺の為に」と言って戦争準備を始めた。

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