第27話 クリーレとクエリアースの余裕。

クリーレの横の女が「クリーレ様、横の女がエナメノーレです」と言っていて、その顔を見たクリブルは、驚きの顔で「クエリアース?」と言う。

リリアントも驚きの顔で「クエリアース?だってあの人はギアにいた時は40前、でも今はどう見ても20歳くらい…」と呟くと、薄褐色に金髪が映える美女は「うふふ」と笑うと、「女とはいつまでも若くありたいものですのよリリアント様。あの晩は楽しかったですわね」と言ってニヤリと笑う。


即座にリリアントは激高して「あぁあぁぁぁぁっ!」と言いながら剣を出して斬りかかる。


「リリ!抑えろ!」

「嫌です!殺す!殺してやる!」


怒りに染まった目でクエリアースを見るリリアントは、止まらずに剣を振るうが掠りもしない。


セミラックですらもう少し苦しそうに回避していたし剣を弾いていた。


「まあ、あっちはあっちで楽しんでもらっていて、俺たちも楽しもうよ兄さん」

クリーレはそう言って剣を抜く。


「クリーレ、その腕」

「ああ、兄さんが生きていてウォルテを滅茶苦茶にしていた事、セミラックが顔と背中に傷を負った事で腕を斬られたんだ。まあそれはクエリアースがなんとかしてくれるらしいから任せるよ。とりあえずどうやって生き残ったの?」


クリーレは切り掛かってくるが、その剣自体はそんなに強くない。


確かにリリアントではないが、クリーレの振るう剣の大半が自分が鍛えたものを持ち逃げされていると思うと冷静ではいられない。


「どうやってだって!?」

「そうさ!落ちこぼれた兄さんに、王位を譲る可能性を捨てない父上に諦めさせる為にも、兄さんが目障りだったからクエリアースが転移札を作り替えてくれて、ブールゥの札とすり替えた。行き先はワイプ山の中腹。山頂で廟の中で死なれても悪魔エナメノーレに関われば後々面倒臭い。だったら中腹の魔物達の餌になって死んで貰うはずだったのに、生きていてそこにはエナメノーレが居る!ビリジーア達はその力だろう?」


酒場にいた半魔半人達は、攻撃の機会を窺わせながら端に寄せてあって、横には胸を強調するように腕組みをして状況観察をするエナメノーレがいる。


中心ではクリーレとクリブル、クエリアースとリリアントの斬り合いが続いている。


「僕の力が想定外過ぎて、エナメノーレの棲家まで転移しただけだ!ブールゥは死に!エナメノーレに保護された僕は、お前の呪いの届かない中で呪いが無くなるまで生きた!それだけだ!」


辛そうに剣を弾くクリーレが、「ちっ、兄さんはこんなに強かったのか…」と漏らした後で、ニヤリと笑うと「兄さん!決めたよ!兄さんを連れて行って、またクエリアースに術を仕掛けて貰おう!それで延々と兄さんの力を使って俺は強くなる!」と言った。


この言葉はクリブルを怒らせるのに十分過ぎた。

激高した顔で「ふざけるな!ビリジーア!入れ!」と言うとビリジーアが参戦する。

二代目のビリジーアはオークから人喰い鬼に変更されていて、生半可な冒険者では太刀打ちできない。


「死者の魔物化。クエリアースの言う通りだ!兄さんの能力は見た!怖くない!」


大概は恐れ慄き、あのセミラックすら冷静ではいられなかった状況でも、余裕を見せるクリーレ。


「本当なら兄さんを殺して、エナメノーレとの契約を無効化して、俺がエナメノーレと契約する事を考えたが、クエリアースに止められたんだ。何故って?簡単さ!クエリアースは破り方を考えてくれたからね」


そう言った時、クエリアースは初めて短剣を抜き、リリアントの剣に向かい腕を振るった。


ギィィンという鈍く高い音が酒場中に響くと、リリアントの剣は「ギャァァァッ」と言う断末魔の声を上げながら粉々になる。


「え?」と驚くリリアントに、エナメノーレが「リリアント!あの刀身に触れるな!退がれ!」と声を張った。


リリアントが慌てて後退すると、クエリアースは「ふふ」と笑うだけで追撃して来ない。


死で作った武器が破壊されて驚きの隠せないクリブルに、クリーレが「あはは。驚いてるね。あれは死者すら殺せる呪いを付与した短剣さ。弱点のあるエナメノーレの力なんて要らないってクエリアースが教えてくれたよ」と説明をしてから、ニヤニヤと笑うと「ねえ兄さん。今日は帰るから少しだけ教えてよ」と言う。


確かに死を殺す呪いを目の前にして、クリーレは殺せてもクエリアースがリリアントに何かをする恐れがある以上、そしてあの短剣はあれ一つではなく、足止めされている今ギアに向けられたらひとたまりもない。


あくまで集中を切らさずに「なに?」と聞き返すクリブル。


「クレスの異変は兄さんが原因?」

死の汚染の事を言っているのだろうと理解したクリブルは「そうだ」と返す。


「何をしたか?どの範囲で行なったか?どちらか答えてくれる?そうしたら帰るよ」


何をしたかはエナメノーレがいる事がバレている以上、範囲より何をしたかを話すべきだろう。

仮に廃棄すれば食糧難を引き起こせる。


「死で剣を作る感じで土壌と水質を汚染させた。作られた作物なんかは、食べた者にクレスへの嫌悪感を抱かせるようにした」


クリーレは満足そうに頷くと「ありがとう兄さん。じゃあ俺は帰るよ。会えて良かったよ。今度は倒して連れ帰るね」と言ってクエリアースを呼ぶと、クエリアースは「ふふ。また遊びましょうね子猫ちゃん」とリリアントを挑発してから転移札を破いてクレスへと帰還をした。

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