第24話 セミラックの立場。
クレスの王子、セミラックの元にクレスの異常事態の報告が入るようになったのは、クリブルが死に汚染させた野菜や食材を流行らせて半年程、最初の水源汚染から一年が過ぎていた。
国を離れる者や国を軽んじる者、愛国心が目に見えて無くなった者、そして犯罪者が増えてきた事。
これらの報告が上がってきて今更資料を見て頭を悩ませた。
セミラックは南のギアは正直どうでも良かった。
だが万一を考えてギアの王子クリーレの申し出を受けた時に、進軍し滅ぼしてきた。
西のトーボは中立都市を挟み牽制し合っているが、良好な関係を保てていて問題はない。
東のオスイ大森林に棲む魔物の群れは脅威だが、別に緊急性のない脅威でしかない。
1番の大問題は北のクヨコで、何かと挑発をしてくるので油断ならなかった。
何かに理由をつけて侵略を試みて、何かにつけて挑発をしてくる。
戦力増強もその為にしたのに、ギアの悪魔に全て殺されてしまった。
懇意にしていて、信頼を寄せるデザーグも失ったので、仕方なくセミラックが新たに徴兵し、クレスの真ん中にあるオープナ山で兵達を仕込んでいる間の出来事だった。
無駄な徴兵で国力は低下した。
そもそもはギアに関しても、クリーレの受け入れを拒否するつもりだったが、家臣達が退かなかった。
高齢で以前より弱った父の代わりに、セミラックに実権を握らせようとするが、それはただの傀儡で、国を思うように動かしたい家臣達が実績づくりの一環でやらせてきた。
セミラックも無理難題を突きつけてしまおうとして、ギアを皆殺しにしていいならと言ったら要求を受け入れられてしまった。
これは二度目だった。
パレトの時もトーボの属国に近いが、中立自由都市を名乗るパレトの侵略を提案されて、断りきれずにロエスロエを用いた作戦を立てたら、素晴らしい作戦だと言われてしまい、飲むタイプのロエスロエを飲まされた女どもは狂ったように男を求めて男達が困惑、または相手をしている間にパレトを侵略し制圧してしまった。
バカみたいな作戦にセミラックは困惑していたが才能はある。
言われればやってしまえるだけの作戦は練れた。
それが良くなかった。
そこに来てのクリーレの提案。
確かにクリーレが連れてきた、クエリアースと言うメイドの用意した転移札は、自国のものよりも強力で、クレスからギアまで瞬く間に移動する事ができた。
そしてその力でクレスに侵入し挑発を行うクヨコを、撤退前に見つけ制圧して自国の自治は守られていた。
だからこそ不服だったが、クリーレは臣下達の進言もあり将軍の地位を与えた。
だが一つも信用していない。
裏切り者はまた裏切る。
小国で先細りしたギアを見捨てて、クレスに擦り寄ったクリーレは、きっと近い将来さらに大国が現れればクレスを裏切り売るだろう。
それこそ躊躇なく何時間も実の母親を拷問した、あの顔を見れば容易に想像がつく。
だからこそクリーレには大した仕事も与えずにいたし、この異常事態の調査も任せられずに自分自らが動く事にした。
事の経緯を全て確認をする。
異常事態はギアの悪魔の存在が確認できた後に起きていた。
それは悪魔が何かを行ったと考えるのが普通だろう。
だがそうなると問題がある。
どうやってニードに配置した兵達を回避したのかだ。
ギアにしか知らない道がある可能性もあるが、ギアは全ての人間を滅ぼしている。
その道を知るものはいないと思いたい。
仮にニードの兵達が倒されて居た場合だが、それもない。
キチンと配給と定時連絡を行う際は、本人達とは対面して配給を行っていて、身体の特徴も変わっていない。
気になるのは、ギアの生活に不満があるのか、ギアの悪魔に怯えてか、表情が暗くなっていたと報告にあったことだ。
「仕方ない。とりあえずニードに行ってその目で確かめよう」
セミラックはそう言うと出立の準備を始めた。
極力クリーレやクエリアースに会いたくないセミラックは、使用人に転移札を取って来させる事にする。
この時、ふとリリアントの事を思い出した。
亡国の姫、実の兄に献上品として扱われた少女。
捕虜として好きにしていいと言われたが、あの涙を見たら情欲なんて無かった。
10も年が違う、まだ少女に何をしろと言うのか。
手を縛られセミラックの前に連れてこられた少女。ギアの崩壊からずっと泣いていたのだろう。真っ赤になった目元が痛々しい。2人きりでセミラックの部屋に入れられた時、セミラックは「辛いか?ここで死ぬか?」と聞くと、リリアントは泣きながら「辛いに決まっています!お父様を返して!お母様を!ギアの皆を返して!」と言った。
セミラックからすればギアはクリーレに献上されたもので、要らないから殺してしまっただけだった。
しかも周りの賛同を得てしまって殺すしかなかった。
「そうか…。わかった。もう一度聞く。死ぬか?」
「死ねません!私は最後のギア人。ここで死んで終わらせられない。ここで捕虜として妾にされたとしても、いつかあなたを殺します!」
セミラックは「わかった。お前の事はあの兄に任せよう」と言うと、クリーレに「心を開かないから興味はない。殺さなければ好きにしていい」と言った。
兄なら手心を加えるだろうと思ったのだが全く違っていた。
クリーレが躊躇なく母を殺したのを失念していた為、セミラックが思っていた結果とは大違いだった。
クリーレは屈辱と恥辱を与えて絶望させて生き地獄を味わわせる事にした。
話でしか聞いていないが、リリアントを犯したクリーレは、そのまま中立自由都市のウォルテにリリアントを連れて行き、市長のビリジーアにリリアントを生き地獄に突き落とすように言い、市長の娼館に売りつける。
市長はリリアントを陵辱した後は、市民達に月に一度輪姦させる事にして、賞金まで支払い、拒むリリアントはロエスロエの重度中毒者にされてしまった。
益々クリーレに対して嫌悪感を抱いたセミラックだったが、家臣達の評価は上々で、「わざわざ血を分けた兄にやらせるとはお見事です」、「生き地獄を味わわせるとは末恐ろしい」、「覇王の器とはセミラック様の事を言うのでしょう」、「クリーレの奴もセミラック様の恐ろしさを痛感して忠誠を誓いましょう!」と言って、皆がセミラックを誉めてきた。
リリアントを思い出した時、セミラックは責任を取ろうと思った。「死ねない」と言った目が光を失っていたら楽にしてやろうと思い、ウォルテ経由でニードに行き、戻りながら報告のあった各地を見てこようと思った。
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