第21話 復讐の春。

人知れずギアの復興が始まって、季節は春になった。

クリブルはクレスにある大きめな街、マドラに潜入をしてハンターとして暮らしていた。


元々ギアも協定を結んでいて、ニードにはあったが各地の依頼所に魔物や犯罪者を狩ってほしいと依頼が届くと、依頼所は各地の依頼所と情報の共有をして討伐に当たる。


仮にウォルテに巨大なワイバーンなんかが訪れると、クレスにもギアにもトーボにも依頼と警戒情報が入る。


調べた所、ギアの依頼所はクレスの進軍時に、クレス側からギア人以外の職員は、避難と賠償金で平和的に解決をされていた。


ちなみにだがウォルテの依頼所は、クリブルが皆殺しにしていて半魔半人になっているが、エナメノーレとの特訓で最低限の仕事はできている。



「おはようございますクリパーさん」

依頼所に入ると受付嬢が挨拶をしてくる。

流石にクリブルの名では暮らせないので、エナメノーレ推奨のクリパーを名乗る事にした。


「ああ、どうも。マンハントの依頼は?」

「また人ですか?クリパーさんは魔物より人を好みますよねー」


「魔物は皆が受けるからね。皆マンハントは嫌がるが、マンハントをすれば世界から悪人は皆居なくなる。こんなに、素敵なことはないよ」

「本当、遠方の依頼まで受けるなんてクリパーさんくらいですよ」


「狙い目だからね。なんでか皆ウォルテ側の依頼は受けない。だから私が受ける。私には夢があるからね」

「早期隠居ですよね。聞きましたけど。そんな早いうちに一生分稼いで、後はのんびり隠居なんてやれるんですか?」


「やりたいのさ。だから依頼を回してくれないかな?」

「んー…と、クリパーさん好みの大人数相手で、人が嫌がりそうなマンハントは…、南の水源に住み着く野盗ですかね。水を汲みにきた人達が犠牲になってます」


「いいね。ありがとう。もっと小まめに来るべきかな?」

「仕方ないですよ。この前もウォルテの方に行って、少し休まれたんですよね?ウォルテからは賞金首の剣と証拠の腕が持ち込まれたとありましたよ」


地理的にウォルテからマドラまでは10日前後かかる。

そしてウォルテ付近で賞金首を見つけて腕を切り落として殺すと、半魔半人に作り変える。

半魔半人にする際に、魔物の因子が手足の欠損を補うので決して弱体化はしない。


そして死体は焼いたり野晒しにした事にしてニードの街に配備する。


これに際してクリブルは転移札を活用して移動をするので、往復20日に滞在時間のアリバイまで作れるので、ギアに戻る事も問題なく出来る。


「倒せて良かったよ」

それは本当で、倒せば端金でも金は手に入るし、死も手に入れられる。そして死体は兵力になる。


後ろに他の冒険者が並んできた事もあり、受付嬢は「では水源は南の山にありますから、気をつけて行ってきてくださいね」と言ってクリブルを見送った。


クレスの連中は腑抜けていた。

こんな連中にやられたギアはもっと弱かったのかも知れない。

それだけでクリブルは苛立ちを募らせる。


長期滞在の体裁で部屋を借りていて、そこにはエナメノーレも居る。


エナメノーレは水源と聞いて「水源でしたい!」と言い出した後で、「毒でも流すか?」と恐ろしい事を言い出した。


「考えたけど後始末が厄介だから悩むよね」と返しながら、クリブルは「ねえエナメノーレ。水源に死を流して、飲んだ人間を殺すとか眷属化させるとかどうかな?」と聞く。


「なに?」

「毒は後始末が厄介だけど、死ならエナメノーレといれば何とかなるかなって思ってさ」


エナメノーレは聞いているだけなのに上気した顔でクリブルを見て、「お前はどうしてそうすごい事を思いつく!?まあ薄まった死なら殺すことは無理でも、意識誘導くらいなら可能だな」と言うと、「強化したければ…わかるな?」と続けて抱きつく。


クリブルは「これから出るからずっとはしないよ」と言ってエナメノーレを抱くと、エナメノーレは「日増しに凄くなるな」と言って喜んでいた。


水源の麓の村では野盗に頭を悩ませていたので、クリブルの登場にひどく感謝をした。

「誰もこの依頼を受けてくれなかったんです」と言って同情を誘う村長だったが、クリブルには通じない。

クリブルの塩対応に少し落胆した村長は頭を切り替える事にした。


「人数は?」

「14人くらい居ました」


「ここの水源は誰が使う?」

「主にこの村だけですが、村で採れた野菜なんかは水がなくなるとマドラの人間も飢えてしまいます」


「成程。奴らは水路を岩で塞いで、水を汲みに行くと襲いかかってくるんだな?」

「はい!」


クリブルが山に入ると、あまり強くない魔物なんかも居て目に付くものを根こそぎ殺して先に進んでいく。


「弱い魔物はいいぞ。壁や家になる」

「そうだね。ありがたい事だ」


魔物も食べられなくはないので、確かにこの山に住みつけば水も食べ物も困らない。

だが野盗達はそう強くないからこそ、ここに住み着いたのだろう。

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