第20話 クリブルとリリアントの帰還。

中立自由都市のウォルテはその様相は変えなかった。

だが確実に変わっていた。


似ても似つかないが、雰囲気の似ている街娘をリリアントに見立てて、何事もなかった事にした。


街の閉鎖はリリアントが逃亡を図り、逃げ出さない為の処置だった事にした。


別にクレスが来ても構わなかったが、まだクレスは来ない。それはギアの調査に出して全滅した兵団の穴を埋め切れていない事が原因だった。


ウォルテは半魔半人達が街の人間を装い、外の人間を迎え入れる。宿屋や酒場で好意的に話しかけて、家族や知人に行き先を告げている時なんかは何もしないが、天涯孤独や旅人の時は容赦なく殺してしまう。そして死をクリブルに捧げる。

クリブルの端末になった半魔半人達が殺してもクリブルに共有されているのは、エナメノーレとの特訓の成果だった。



クリブルは転移札を使いギアの城に帰ると、冬場なのに兵達が父と母を先頭に熊を仕留めて丁度狩りから帰ってきた所だった。


リリアントはそんな父母に目を丸くしながら大粒の涙を目に溜めて、「お父様!お母様!皆!」と言いながら飛び付いてワンワンと泣き続けた。


父母も涙ながらにリリアントを抱きしめて頭を撫でる中、「父上、母上、ウォルテでリリアントを見つけました。リリアントは最後のギア人として、どんな地獄の中でも死ねないと歯を食いしばって生きてくれました。本人はウォルテの連中せいで重度の薬物中毒者にされていた事から死を選びましたが、無事に3年前の姿に戻す事で助け出せました」

キチンと報告をするクリブルに、父母は「よく戻ってくれた」、「こんなに早くリリアントに会えるなんて」と言い、リリアントが嬉しそうに、「お兄様のお陰で、私は眷属にして貰えて強くなれたのよ!お兄様と一緒に、ウォルテの連中を皆殺しにしてきたの!」と言うと、両親は「良くやれたね」、「リリアントもその力で微力でも、クリブルを助け支えるのですよ」と応援する。


父母はエナメノーレの前に行くと膝をついて、「エナメノーレ様、ありがとうございます」と言って礼を言う。


エナメノーレは慣れたもので「私だけではない。クリブルあっての事だ」と言うが、良かったのはここまでで、「それもこれもクリブルがセックス特訓をしたから得られた事だ!」と続けると、父母どころかギアの人間は全員がウンウンと頷く。


クリブル1人が頭を抱える中、またリリアントが「エナメノーレ様が私も特訓に用立ててくれました!」と余計な事を言い、母は「良かったですね。これからもエナメノーレ様の言う事を聞くのですよ」と言ってリリアントの頭を撫でる。


「その話はやめましょう。これからの事を話しませんか?」

クリブルはそう言ったが、父クリーエはエナメノーレに「あの特訓部屋はいつでも使えるように日々清掃を欠かしておりませんし、ギアの土地で見つけた器具類も回収して整備と清掃を実施しましたので、ご安心して特訓に役立ててください」とこれまた余計な事を言う。


一瞬で発情した顔のエナメノーレが「クリブル!セックスだ!」と言い出すが、クリブルは「これからの話とか、ブールゥに頼む事とかあるよね?」と言って乗り気ではない。


「焦らすのか!?酷いぞ!」

「朝までしておいて何を言うんだよ。先にブールゥに会う。それは譲らないよ」

「じゃあブールゥともしながら話そう!」

「話にならないからダメだよ」


クリブルは決して譲らずに、ウォルテから引き上げたギアの宝を見せて、「ブールゥ、各地からギアの宝を奪還した時に、収納魔法が無いと困るんだ。ロズミィから習ってくれるね?」と言うと、ブールゥは上の空で「うん。やるよ」と言う。


「後は転移札を作り続けてほしい。進軍と防衛の要は移動にあって、それはブールゥの転移札にあると思うんだ」

「わかったよ」


どうしても、まともな受け答えが出来ないブールゥが気になったクリブルが、「ブールゥ?どうしたの?」と聞くと、エナメノーレが「眷属化しているし、肌を重ねたクリブルが戻ったんだ。こうもなる」と答えると、「辛いか?共に特訓部屋に行くか?」と声をかけると、ブールゥはゆっくりと頷いて潤んだ瞳でクリブルを見る。


「狂ってない?これが普通なら僕は?僕が異常なの?」

クリブルは困惑するが、それでもリリアントには、「リリ、父上達との再会を終えて、手隙になったらストンブから剣を教わっておいて」と指示を出す。


「お兄様、私は?」

「……昨日もエナメノーレとしたよね?剣の訓練だよ。共にギアの人達を助ける為にも、これからどんどん殺戮が大切だからね?」


拗ねた顔のリリアントは諦めるように「はぁい」と言って、ストンブの所に駆けていく。


頭を抱えるクリブルは腕を引かれて、「わかったよエナメノーレ」と言ったところで、手を引くのがブールゥだと気付き「ブールゥ!?」と驚きを口にする。


ブールゥはうわ言のように、「早く」、「辛い」と言っていて、目もギラついている。


そんなブールゥを見て、「しっかり務めを果たすのですよ」とロズミィが見送り、クリブルは「やっぱりおかしいよ」と言いながらも、丸一日特訓部屋から出てこない。

クリブルもしっかりおかしくなっていた。


翌日はリリアントの帰還を祝う晩餐を催した。

その席でクリブルは次々にウォルテで得た死を使って国民を生き返らせていく。

皆クリブルに感謝をして忠誠を誓う。


「これからの話をしましょう。まずは全国民の蘇生と、魔物や獣の死を使って建物の復興を優先したいと思います。また完璧な地産地消が可能になれば、ニードの街に半魔半人にしたクレスの兵士達を用意して、侵略に備えたいと思います。問題は向こうの転移札なので、こちらもブールゥに転移札を用意をしてもらって、敵襲を察知したら僕が指示を出すので飛んでもらいたいと思っています」

「安心しろ。そこまでクリブルが育っている。命を与えた者の危機を感じ取り、情報共有も可能になる。まあそれもこれも私との特訓あっての事だ」


エナメノーレに頭を下げる面々に、クリブルだけが「エナメノーレは楽しんでるだけじゃないのか?」と思ってしまう。


母アイボワイトが「クリブル?死を集めるのはどうするつもり?リリアントき聞きましたけど、ウォルテでやったように街ごと滅ぼすのかしら?」と聞くと、クリブルは「いえ、僕は身分を偽装して、冒険者になって魔物を狩ったり人を狩ったりします。殺した人間は半魔半人にして、ニードの街に、魔物の命なんかは衣服や建物に使います」と言った。


リリアントが同行を申し出たがクリブルは拒否をして、「リリアントは父上と母上、ギアをよろしく頼むよ。僕の力があるリリアントなら、安心してギアを任せられるからね」と言うが、復興は悟られて居ないので。暗に父母と穏やかな時間を過ごせと言う事だった。

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