第16話 リリアントの決断。

ブレイン・フラワーガーデンには泊まりコースは無かったので、閉店ギリギリまで居たクリブルは名残惜しそうにリリアントを起こす。

エナメノーレは動けるようになると、先に宿屋に戻した。


「リリ…、リリアント…時間だよ」と声をかけると、ようやくリリアントは目を覚ます。

疲労のせいだろう。寝起きの悪さだけでも怒りが込み上げてくる。


リリアントはクリブルを見て「お兄様…。夢じゃなかった。嬉しいです」と言って微笑むと、クリブルが「良い夢は見れた?明日迎えにくるからね」と言う。


「お兄様?」

「帰ろう。ギアに帰るんだ」


「ありがとうお兄様」と言って見送るリリアントに、「あの男が何度か見に来たから演技をしたんだ。何か聞かれたら、悲しい事を思い出して泣いてね」と声をかけると、リリアントはそれだけで泣いてしまう。


クリブルはリリアントに「大丈夫。素敵な明日にしてくるからね」と言って微笑みかける。


「お兄様?」

「ほら、リリは疲れているんだからよく眠るんだよ」


クリブルは迎えに来た男に、「楽しかった。また来る」と言って宿屋に帰ると、殺意溢れる顔で「エナメノーレ、マンハントだ」と言った。

エナメノーレは蕩けた表情で「それは是非もない。死が足りない」と言って頷く。


「足りない?何か使った?」

「いや、今は足りている。女神として余計なアドバイスが許されるのなら、ビリジーアの屋敷だけ、それも手足の欠損を抑えて、損壊の恐れのある火や風の魔法を使わずに蹂躙にしてくれ」


クリブルは「いいよ。エナメノーレには助けて貰っているから従うよ」と言うと、闇夜に潜み、風のように素早く動いてビリジーアの屋敷に忍び込む。


正面突破で騒ぎになると、リリアントに迷惑がかかる恐れがあると言われたクリブルは、素直に物陰から一人一人を丁寧に殺していく。

途中、目鼻立ちの整った使用人を見つけたエナメノーレが、「犯すか?」と聞いて来たが、クリブルは「殺したい」と言って問答無用で剣を突き立てると次に進む。


エナメノーレは口を尖らせて「死と血の匂いが充満する部屋でのセックスなどそう出来ないのに」と呟きながら後を追う。


ビリジーアはクリブルを見てクリーレと思ったのだろう。

「何故従ったのにこんな真似をする!」と叫んできたが、クリブルは「中立を捨てておいて」と言いながら剣を突き立てて、絶命までの数分を殴り続けて殺した。


屋敷中の人間が居なくなるのにそう時間はかからなかった。怪しまれないように宿屋に戻る前、ビリジーアの屋敷からはギアから奪った金品が出て来たので、貰って帰ることにした。


かなりの量の金品を見て、邪魔そうに「収納魔法が欲しいな。ブールゥに覚えて貰うかな」と言うクリブルに、「それも良かろう。眷属にしたから成長の方向性も決められるぞ」と言って座り込むエナメノーレ。


「エナメノーレ?怪我した?」

「違う。血と死が充満する中で抱かれたい!」


クリブルはやれやれと言いながら、「宿屋に帰らないとうるさいから、少しでやめて帰るからね」と言ってエナメノーレを抱く。


途中で止めて、物足りなそうにするエナメノーレに、「宿屋は遠いね。我慢が大変だ」と話しかけると、エナメノーレは足をガクガクと震わせて「耐えられない」と呟くが、クリブルは甘えを許さずにエナメノーレを歩かせると宿屋に連れて行く。


「じゃあおやすみ」

「嘘だろ!?」


クリブルは先程の、悪人のフリをしてリリアントを犯す役柄から抜け出せずにいて、エナメノーレを言葉責めしていた。


翌朝、宿屋からは「ゆうべはおたのしみでしたね」と言われてしまい、クリブルは頭を抱え、エナメノーレは「楽しかったな!」と笑っていた。



クリブルは楽しい気分だった。

リリアントも見つかり、ビリジーアも殺した。


街は次第に騒然となっていき、ビリジーアの死が報じられると、門は犯人を逃さないために閉じられる。

クリブルからしたら僥倖もいいところだった。

クリブルは、いざとなればブレイン・フラワーガーデンを滅ぼすつもりでいたが、まずは穏便にビリジーアの屋敷から持って来た金貨の山で、リリアントを渡せと言うつもりだった。


あの店の朝は遅いが構わなかった。

店に着くと店も騒然としている。


何があったのかを近くにいた人間に聞くと、リリアントが首を吊って死んでいた。

耳を疑うクリブルに、エナメノーレは「やはりそうなったか。遺書はあるか?」とブレイン・フラワーガーデンの小間使いに聞くと、あったと言うので金貨を握らせて内容を聞きだした。


[お兄様、お兄様が最後のギアで居てくれれば、私はお父様達の所に向かえます。お会いできて幸せでした。ギアを残すために歯を食いしばって生きて来ましたが、お兄様が居るなら休みたいのです。そして私の身体は中毒で蝕まれています。今ももう手が震えています。日常生活には戻れません。お兄様の足でまといにはなりたくないのです]


そう書かれていた。


「やはりな。ロエスロエに中毒性があると聞いた時から予感はしていた。だから段階を上げるためにも昨日はしたんだ」

「リリアントなんで…、僕は足でまといなんて思わないのに…」

クリブルは愕然とした表情で肩を落としていた。

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