第13話 クリブルの旅立ち。

冬が到来し、根雪が積もる頃に、クリブルはリリアント捜索と、クレス兵の殺戮の為に出立をした。


眷属化を済ませたクリブルには、城の皆の状況が直感的にわかるようになっていたので、安心して城を開けられるようになる。


「これ、行き帰り用の転移札。とりあえず今回は目的地を定めずに距離で準備して、6枚用意できたから、私の力だとギアの入り口くらいまでしか転移が出来ないから、3枚使えば中立自由都市のウォルテまで行けると思うの。そこで情報を集めたら、深追いしないで帰って来て」


そう言って転移札を渡して来たブールゥは真っ赤な顔で、「ありがとうブールゥ。こんなに沢山大変だったよね?」と言ったクリブルと手が触れると、さらに真っ赤になる。


クリブルはギアの為と言われて、心の準備が整ったブールゥを抱いた。

1度目は2人きりで、2度目はエナメノーレも参加して、エナメノーレ監修でブールゥは極楽とも地獄ともつかない時間を過ごす事になる。


「ブールゥを抱いてもう変化したのか?貪欲な奴め!」と喜んだエナメノーレと、自棄に拍車がかかるクリブル。そして状況を処理し切れないブールゥ。


エナメノーレはクリブルの変化に喜び、クリーエ達に「城の独身者全員をクリブルに抱かせないか?かつてのギア王もそうしてギアを自然豊かな地に作り替えた」と進言するが、クリブルだけはそれを拒絶した。


「それでは成長が頭打ちになるぞ?」

「なってから考えるよ!」


狂った使用人達は、「命の恩人のクリブルになら喜んで抱かれる」とクリブルに談判までしに来てエナメノーレは小躍りしたが、それでもクリブルは拒否をして、「仮にしても頭打ちになったらです!」と言うとリリアント捜索に出ると言った。


ロズミィはブールゥに「あなた粗相をしたの?」と怒っていて、クリブルが慌てて「違います!ロズミィ!ブールゥは悪くない!」と声を荒げていた。



思っていた帰還と違う事にクリブルが苛立つと、エナメノーレからは「クリブルが悪い」とダメ出しをされる。


「なんで?」

「皆の本質に触れていないからだ。皆お前の力で蘇り、お前に心を曝け出したのだ。それなのにお前はそれを受け入れない。だから違和感を覚えて苛立つ。全てお前が悪い」


確かに言われれば、そう言う部分もあると理解したクリブルは「ありがとう。悪かったよエナメノーレ。どうしたらいいかな?」と聞き、質問した事を後悔した。


エナメノーレは胸を張って自信満々で「セックスだ!」と言い切った。


「…とりあえずリリアント捜索だよ」

「焦らす気か!?」


そんな事があった事を思い出しながら転移札を破くと、景色は一瞬で変わり、ギアのワイプ山脈に囲まれた唯一の出入り口、ニードの街に到着した。


ニードの街はもう街ではなかった。

クレスの駐留軍が無人の街を占拠していた。


クリブルは怒りのまま駐留軍を皆殺しにしてしまう。

冬支度の合間にストンブから更に剣技を習ったクリブルは、妄想とも呼べる動きを可能としていた。


顔を見てクリーレと疑う者が現れない程の電撃作戦だった。


「困ったな」

「どうした?」


「本来の駐留軍を生き返らせてもいいけど、またクレスに落とされては、意味をなさないし、何度も死にたい人は居ないからね。でもこのままにしていいものではない」

「ふっふっふ。褒めて感謝して突き上げてくれていいぞ!」


「エナメノーレ?」

「魔物の命を狩って貯めた死を使い、クレス兵を蘇らせるのではなく、半魔半人として使役するといい」


エナメノーレの説明をクリブルなりに要約すると、人の命で人を蘇らせる方式と死体に魔物の死を吹き込んで半分魔物の人間を作る。


「まあ今の段階では完璧なものでは無いから、記憶を読み取って報告する事なんかは出来ないが、ただの駒、死んでもいい駒なんかには最適だ」

クリブルは言われるままに死体に魔物の死を吹き込むと、死体達は見た目は生き返りキチンとコミュニケーションを取ることも出来た。


だが記憶なんかは無くなっていたので、簡単なやり取りしかできなくなっていたがクリブルからすればそれで十分だった。


「クリブルがもう少し私と特訓を積めば、魔物化と言うのも可能になる。人の身は弱いから、元々の魔物の適性を使えるようになれば使い道が増えよう」


「そうだね。今日は遅いからコイツらのキャンプで夜を明かす?」

「是非もない!行くぞクリブル!」


夜を明かすなどと言ったが、一晩と半日使い、夜は明けたが本来の意味とは違っていた。



出がけにクリブルが「お前達、仮にクレス軍が来て、ギアを目指すような事を言ったら、後ろから刺して僕たちを呼ぶんだ」と言うと、半魔半人兵達は「わかりました」と返事をする。


その姿にクリブルは満足そうな顔をすると、「行こうエナメノーレ」と言った。

エナメノーレの「次は自由都市だったな」という声を聞きながら、クリブルは転移札を破くと自由中立都市のウォルテの少し手前に着く。


「ここからならウォルテまでは、歩けば3時間と言ったところだね。金は駐留軍から貰ってきたからあるし、人として過ごすからキチンと食事を摂るからね?」

「了解だ。久し振りの食事だな」

そう言って歩く姿は旅人にしか見えなかった。

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