第9話 あの日の真実。
エナメノーレは「長くなる」と言い、椅子を持って来て座ると話し始めた。
「あの日、転移札が誤作動を起こし、本来なら以前も転移した裏庭に出るところだったのにワイプ山に来ていて、しかも転移不可能の私の防壁を突き破って、78層の巨大人喰い鬼の前に、お前とブールゥは現れた。私の防壁を破ったのだ。気付いた私がすぐに向かうとブールゥは瀕死で、巨大人喰い鬼からお前の事を守っていた」
クリブルは自身が79層で目覚めた事を思い出して、エナメノーレとその横のブールゥを見る。
エナメノーレは話を聞けという顔で、「私を見て助けを求めたブールゥは、その場で絶命をした」と言うとブールゥは俯いてしまう。
「私はお前が目覚めるまでの間に、何があったかを死霊になったブールゥから聞き知った。そしてブールゥは、私にクリブルを守ってほしいと言った。まあ呪いの通じないお前なら、急激な魔法力の充填で気絶しただけで、何の心配もないから回復のタイミングを見計らって、2日後にお前を79層に放置してやった。後はわかるな?」
クリブルは当時を思い出して頷くと、エナメノーレは「よし」と言う。
ブールゥは「ごめんね。私が転移札を使って失敗したから」と謝るが、エナメノーレは首を横に振って、「術式が変えられている。誰かが意図的に変えた物だ。しかもこんな古い式は現代に残っておるまい?」と言って転移札を取り出した。
「ブールゥ…。僕はエナメノーレの言葉を信じて、君が無事にここに居ると思っていたよ」
「仕方ないよ。エナメノーレ様は伝説の死を司る悪魔さんだもん。信じちゃうよね」
クリブルは前に出るとブールゥの手を取って、涙を流すとエナメノーレが「ふむ。…そこまでか。先に父達の話を聞け」と言った。
エナメノーレにそう言われたが、父達の言葉は聞き取りにくい。
「父上、支離滅裂です。理路整然とお話しください」
思わずクリブルがそう言ったが、父達は冷静な時はまだマシだが、核心に触れると、「クリーレが」、「クレスの黒い王子を招いた」、「裏切った」ばかりで話にならない。
「仕方ない事だ」
「エナメノーレ?」
「見まごうことのない非業の死だ。怨讐が前に出て来てしまっている。必死に伝えたいことばかりが前に出てくるのだ」
「ならどうすれば?」
「セックスだ!」
「また?」
「まあ嘘ではないが、今は別のことに力を使いたい。私が話をまとめて聞かせてやる」
エナメノーレのまとめた話に、クリブルは力無く項垂れてそのまま膝をついてしまうものだった。
19年前。
全てはクリブルとクリーレが生まれた日から始まっていた。
母、アイボワイトは男児を産んだ。
だが双子だった。
小さく生まれて来てしまったクリブルとクリーレは、生まれるまで双子だと気付かれなかった。
母アイボワイトは言い伝えを思い出して真っ青になる。
ギアを思えば、死産という形をとって、赤い瞳の赤ん坊を殺すしかなかった。
だがそこに使用人の1人、クエリアースという名の女が名乗りをあげた。
「奥様、私の生まれた地方に、古いまじないがございます。それは条件の厳しいまじないですが。運良く王子様は双子です。まじないは発動します」
その話を聞くと、アイボワイトは「そんな事を選べと!?」と言ったが、クエリアースは「こちらの王子様は力強い御力を感じます。その御力を弟君に貸してあげるだけです。20才になれば、まじないは終わります。弟君を見てあげてください。もう生きておられます。それを殺すのですか?」と言い、まだクリーエも顔を見ていない今しかないと迫られて決断をした。
呪われたクリブルは、クリーレの為に生きる存在になった。
覚えた全て、身につけた全てはクリーレに反映される。
そしてクリーレが負うべき悪評や不幸は、全てクリブルが負っていた。
クリーエは才能と呼ぶにはおかしいクリーレの能力と、時折見せる危険な表情を訝しみ、王位を継がせるか悩んでいた。
クリブルに関しては、ストンブやロズミィ達の進言に従って、何かのトラブルに見舞われていないかを調べようとしていたし、直感力に優れたリリアントの意見も聞いていた。
驚くクリブルに、エナメノーレが「天賦の才能。ギアの王族にはそれがある。クリブルの父上と妹には、それがあったんだな」と言う。
クリブルは母の前に立ち「母上、母上は僕よりクリーレを選んだのですか?」と聞く。
「違います。これがギアの為になると、20年で瞳の色が定着すれば、まじないが終わり、クリブルはそれから全ての力を手に入れる。クリーレも、自身を救ってくれた兄を心より敬うと言う言葉を信じていました。その時初めて私はあなたに謝罪をするつもりでした」
「ですが母上は、常にクリーレをたてていました」
「それもクエリアースの言葉の通りです。愛情をクリーレに向ければ、それだけ早く定着が終わると言われていました!」
必死に弁明をするアイボワイトを睨むクリブルに、「やめてやれ。呪いの力だ。心も支配される。そういえばブールゥも呪いに感化されなかったな。恐らく魔法の才がそれを可能にした」とエナメノーレが説明をする。
クリブルがエナメノーレから母に視線を動かすと、母は顔を覆って泣いていた。
確かに後悔をしている風に見えた。
「しかもこれはこれまでの話だ。あの日、クリブルがワイプ山に飛んでから先のことは、まだ何も聞いていない」
クリブルは頷き…何があったかを聞くことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます