第7話 クリブルの後悔。
ワイプ山から下山したクリブルは、一直線にギアの城を目指す。
懐かしい景色は変わっていて、城も廃墟と化していた。
道すがら魔物も野犬や狼も全て殺すように言われたクリブルは、エナメノーレの指示に従って魔物を殺す。
エナメノーレからの指示は、「死を集めておけ」と言うものだった。
4日間の旅路。唯一の問題点は、変わった景色を見ると、エナメノーレはすぐにクリブルを求た。
もうはしたないという言葉には意味がなかった。
人通りはない。
野に放たれた「神が生み出した始まりの男女」のように、至る所で性行為に及んだ。
優しい行為や、わざと土の地面にエナメノーレの顔を押しつけて、尻を突き出させて荒々しい行為をして、エナメノーレを悦ばせてみた。
それでも前に進めば4日で城が見えてくる。
そもそもそんなに早く歩ける距離ではないが、超常の存在であるエナメノーレと、本来の力を持ったクリブルだからこそ可能な事だった。
「エナメノーレ、人の多い所ではしないからね?」
「わかっている。周りの者を皆殺しにして、邪魔を排したらだな?」
「違う。我慢するんだ」
「なに!?」
「そのあとは最高に楽しいと思うよ」
「くぅ〜。それは…」
「それは?」
「我慢する!」
クリブルは「よろしく頼むよ」と言って城に入ったが、血だらけで焼け落ちた城にはかつての面影はなかった。
膝をついて慟哭の声で泣くクリブルに、エナメノーレは話しかける。
話しかけられた目的を考えてしまい、「エナメノーレ?今は勘弁して。弱った僕とというのは我慢して」と言うクリブルに、「違う。確かにその顔も唆るが、キチンと魔物や獣を殺して、死を得て私と生を感じた契約者に一つ目の贈り物だ」とエナメノーレが言う。
クリブルが「何を?」と聞く前に、エナメノーレがキスをすると、クリブルには不思議なものが見えた。
嘆きの顔を向けるギアの家臣達。
「皆?あれ?」
クリブルの耳には家臣達の怨嗟の声が聞こえてくる。
「滅ぼされた」
「騙された」
「偽の王」
「赤い瞳の悪魔」
クリブルは突然のことに頭がおかしくなりそうだった。
だがエナメノーレは笑うと、「クリブルは凄いな。もう死者の声が聞こえたか?まあ散々精を放ってもらったからな。処理しきれずにこぼした分が勿体無かったが、またすれば良いしな」と言う。
「エナメノーレ?」
「散々私とセックスをしただろう?中出しをしただろう?それが繋がりを深め強めた。その力があれば、死者を見ることも可能だ。だがまだ弱いな。もっとすれば繋がりの深い者の声も聞こえるし、姿が見える」
「繋がりの深い?」
「私にはお前の横に立つ剣士と魔法使い、それと両親の姿が見える。まだそこまでは見えないな?」
クリブルは周りを見るが誰も見えない。
「今見えている者達は、お前と繋がりのない者達。声をかけてやれ。目を見て、話しかけると意識して声をかけろ。第三段階。繋がりの薄いものとの対話も可能だろう。それもこれも道すがら、私と飽きる事なくセックスをしたからだぞ?」
豊満な胸を張ってドヤ顔で、「気持ちいいし、能力が高まるし、良いことしかない」と言うエナメノーレに呆れながら、目の前の使用人を見る。リリアントの世話をしていた女のはずだ。
「何があった?」
クリブルの声に、使用人達は血の涙を流しながら、「王子!声が聞こえるのですか!?私達は騙されて裏切られた!殺されました!」と言うと、わらわらと死者達が集まってこれでもかと怨嗟の声を響かせる。
「落ち着いてくれ!沢山一度に話されてもダメだ。今の僕には父上達の声も聞こえず、姿も見られない。そこにリリアントやクリーレは居ないのかい?」
クリブルの声に死者達は、一斉に「クリーレ!」、「赤き瞳の悪魔!」、「皆をたぶらかしていた!」、「奴がクレス国を呼んだ!」、「クレスの黒い王子!奴が着て、国を滅ぼして、クリーレが国を差し出した!」と言う。
処理不能の顔をしたクリブルに、エナメノーレは「ふむ。今は理解が及ばないな。セックスだ」と言う。
「それ、したいだけ…」
「違くないが違う。一気に第五段階まで行き、親しい者と対話もして、何があったか知るといい。手頃な部屋に行こう。セックス特訓だ!」
真面目な話のはずなのに、どうしてもエナメノーレの発情した顔を見ると、ただの性欲を満たしたいだけに見えてしまう。
それにクリブルには気になる事がある。
「エナメノーレ、ここに父上達が居るんだよね?見られながら出来ないよ」
「そうか?かつてのギア王は、接合部を死霊たちに見せつけていたが、その気は無いか……残念だ」
クリブルがまだマシな部屋を見つけると、エナメノーレが「仕方ない。勃たないのは困る。散れ!」と言うと、「これで周りの奴らは私たちが許すまで近付けん。さあするぞ」と言ってクリブルを部屋に連れ込む。
迂闊といえば迂闊だったのが人は居ない。
人は来ない。
そう決め付けていた事だった。
10日が過ぎた時、嬌声を響かせて悦んでいたエナメノーレが、「ちっ、侵入者だ。折角のセックスを邪魔するとはけしからん」と怒りに目をそめる。
「エナメノーレ?」
「2人同時に果てたかったがお預けだ」
身支度を済ませて、部屋の外へ行くと確かに声が聞こえる。
死者達も怒りに染まる声で、クレス国の兵士が来たと言う。
「声を聞き分けろ、人の声と死者の声だ」
エナメノーレの言葉を自然と理解したクリブルの耳には、「本当に人なんて居るのか?」、「哨戒中の奴らが、獣のような甲高い声を聞いたと報告したら、あの将軍が見てこいとよ」と聞こえてくる。
「将軍って国を売り飛ばした腰抜けだろ?」
「バカ、デザーグ将軍を蹴散らした実力者だぞ」
「だからって、こんな廃墟に来るなんて気持ち悪いぜ。皆殺しだろ?もう3年になるが、死体だって将軍の放った屍肉喰いが皆食っちまって、綺麗さっぱり残っていない」
「まあこっちに来たなら、ウォルテの街でスッキリして帰ろうぜ」
「お、それだな。それにしてもまだ生きてるなんて意地汚いもんだな」
そんな声が聞こえてきた。
何を言っているかわからなかったが、来たのはクレスの兵士で、この城の皆は魔物のせいで亡骸すら残らなかった。
「エナメノーレ、ここで待ってて」
「ついて行っても問題なかろう?」
「…そうだね。殺して昂ったらいいかな?」
「勿論だ。お預けを喰らっておかしくなりそうだ」
あっという間だった。あっという間に来ていた五人の兵士は、物言わぬ死体になった。
死体の山を見て「こんなに弱いの?」と言うクリブルに、「お前が強すぎるのだ。聞いていなかったか?呪いが消えなかったから3年近くワイプ山に潜んでいたんだ」と返すエナメノーレ。
「え!?俺19歳!?」
「そうだぞ」
「だって一年って…」
「無理だった。一年だと段階もまだ第一だったから、外に出ても意味が無かった」
確かにエナメノーレと共にいた時間に無駄などなかったとクリブルも自覚をしている。
だが、だからこそ自分が許せない。
自分の戻りが早ければ、また違ったのではないかと憤ってしまう。
「…八つ当たりするから行くよ」
「思う存分私の身体に怒りをぶつけるといい!」
こうしてまた数日間、クリブルはエナメノーレを抱いた。
ここで一つの問題が起きた。
クレス国からしたら、念の為に調査に出した兵士たちが戻らない。
その戻らない兵士を調査する為の兵士が、また10日くらいするとやってくる。
クリブルはエナメノーレの策にハマっていて、食事と排泄をしないという事は体内時計が意味をなさない。
性行為の合間に気絶し、起きるとまた再開される。
クリブルの問題でもあったが、散々外で致したにも関わらず、窓はカーテンで覆わないとしたくないという事で、カーテンで覆っていて日にちの概念がない。
本人はまだ3日くらいの気持ちであった。
「ちっ!今回もあと少しと言うところで敵襲だ!クリブル!皆殺せ!」
「わかったよエナメノーレ」
もう、流れ作業になっていた。
そして倒す度に敵兵が増えて行く。いつの間にか二個中隊が来るほどになったが、そんなものはクリブルの敵ではない。
クレス兵を倒し終わると、エナメノーレが「さあ、セックス特訓だ!」と言って走り出す。クリブルは後を追う形で「ああ、はやく父上たちにご拝顔したい。頼むよエナメノーレ」と言い、死体の処理もせずに寝室に消えていくと、すぐにエナメノーレの嬌声が聞こえてきた。
クリブル達は知らなかったが、クレスの連中はギアの悪魔が蘇ったと評判になり、遂に将軍の1人デザーグが派兵された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます