第4話 ワイプ山の悪魔。

あれからキチンと声が出るようになったのは3日後で、立ち上がれなかったが、栄養摂取は必要だと言われて女が料理を持ってきたが、なんだかわからない料理を口移しで食べさせられた。

キスの経験もないクリブルは目を丸くしたが、「私に名前を教えたのだから受け入れろ」と言われて大人しく従った。


口移しでの食事に経験はないが、女は熱烈に唇を押し当てて、唇と口内を舐めながら食事を与えてくる。


クリブルは女の美貌と匂いにおかしくなりそうだった。


未だベッドから降りられないが、寝る時間より起きる時間が長くなってきたところで、ようやくこの場所と女の名前と、自身の身に何が起きていたのかをクリブルは知ることになる。


「まずはこの場所だが、ワイプ山だ」

「ここが…ワイプ山?」


「ああ、そして先にクリブルの身に何が起きていたのかを説明しよう」

女はクリブルを見て、「人間には施術困難な高度な呪い。能力略奪と不幸の押し付けをミックスした呪いだ。お前が言う紫の瞳がその証拠だ」と言った。


「呪いですか?」

「ああ、恐らくだが、人より不幸で人より断罪されただろう?そしてどれだけ鍛えても剣も満足に振れずに魔法の一つも放てない。どうかな?」


クリブルはまさに自分の人生そのものだと思い「その通りです」と答えると、「ではもう一つ、あの金毛のデスキャットが切れて焼けたのは、呪いの届かないここに居るからだ。あれが本来のクリブルの能力だ」と女は言う。


クリブルは驚きながら、未だおぼつかない腕を見る。

「相手の目星はついているかな?」

「いえ、わかりません」


「そうか。まあそれならそれでいい」


女はクリブルの足の上に座ると「そろそろ自己紹介をするかな。私の名前はエナメノーレだ。よろしく頼む。クリブル」と言った。


クリブルは初めは足に伝わる感触に慌てたが、それ以上にその名前に聞き覚えがあった。


ワイプ山にエナメノーレ。


わからないわけがない。


ワイプ山に居る死を司る悪魔。

その名はエナメノーレだった。


「悪魔は心外だな。超常の力を持つ者は神とも悪魔とも呼ばれる。まあ不死で超常の力があれば、神とも悪魔とも言われてしまうな」


自重気味に微笑むエナメノーレは、「この封印された墓所の下層に居るから、お前は本来の力を取り戻す事ができている。ここに来られた理由は一つ。お前の魔法力が果てしないおかげで、転移札の出力が上がって偶然のここに入れたんだ」と言い、「良い話と悪い話、どちらから聞きたい?」と聞いてきた。


クリブルからすると、今も太ももから伝わる柔らかな感触が気になってしまって話どころではない。


エナメノーレは「ふふふ。欲情は好きなだけしろ。身体が動くようになれば、好きなだけ堪能させてやる。今は我慢して話を聞け」と言って、淫靡な笑顔を見せてクリブルに濃厚なキスをすると、「まあ良い話からしてやろう。お前の呪いは私と居れば解ける」と言った。


これはクリブルに取っても嬉しい事だし、内心期待していた。


「そして悪い話だ。その呪いは根深い。解呪に一年を要する。一年ここで暮らしてもらう」


クリブルは「僕の無事を皆に伝えないと」と言いかけると、エナメノーレはクリブルの口をキスで塞いでから「無理だ。デスキャットを倒すだけで倒れているお前では、地上を目指してもすぐに死ぬ」と言う。


「ならエナメノーレが!」と言いかけても、またキスで口を塞がれて「私はここに囚われの身。まあ囚われたと言うか、自ら古いギアの王に命じて引きこもったのだがな。そんな私は下層なら自由に動けるが、中層から先は今のままでは出られない」と説明された。


「今のままでは?」

「そうだ。クリブルよ。私と契約しないか?」


それは即ち悪魔との契約。

いろんな書物を見たが、悪魔と契約をして無事に済んだ人間はまず居ない。


「それは過分な願いをしたからだ。契約をすれば私は地上に出られるし、クリブルは私の生と死を司る能力を使う権利を得る。私は地上に出る。それだけだ。後はお前が過分な願いをしなければ破滅なんてしない」


「生と死?死ではなく?」

「生と死は表裏一体だ。知らなかったのか?」


「言い伝えだとエナメノーレは死を司る悪魔と言われていたから…」

「成程な。まあ残された人間の感想だから仕方ないか」


呆れるエナメノーレは、クリブルを見て「まあいい。時間はある。悩み考えると良い。久しぶりの人肌だ。横になっているといい。私に堪能させてくれ」と言うと、クリブルを押し倒して身体を擦り付けながら「あたたかい」と喜び、飽きる事なくクリブルを求め続けていた。

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