第3話 謎の場所。

どれだけ意識を失ったのか、地響きが聞こえてクリブルが目を開けると、目の前には巨大な魔物が居た。

金毛で巨大な猫に見える、頭が3つ付いた魔物は「フーッ!」と言うとクリブルに飛び掛かる。


クリブルは咄嗟に回避すると周りを見た。

地下室のようだが、石造りで埃が溜まっていて周りに人の気配はない。

ブールゥが居ないことを心配したが、それよりもこの状況で生き残る事が最優先だった。


辺りを見る為にクリブルが目を逸らした瞬間に魔物が飛びかかってきたが、それも難なく回避するクリブルは「早くコイツをなんとかして、ブールゥを探してあげなければ」と思っていた。


護身用に腰に装備していた剣を握ると、一振りで金毛に守られた魔物の皮膚が切り裂かれて、真っ赤な鮮血が地下室に飛び散る。


自身の剣で魔物に傷がついた事にも驚いたが、それ以上に、倒せるなら早くブールゥを探そうと思ったクリブルは、師匠のストンブの動きを思い出しながら剣を振る。


城にいた時と違い、身体は羽根のように軽い。

そして剣は重くない。


「お前を早く倒してブールゥを探すんだ!」


クリブルの剣は届くが致命傷には程遠い。

その時、背後から「奴は火魔法に弱い、火を放て」と女の声が聞こえてきた。


振り返る事も考えたが、時間の惜しいクリブルは信じてファイヤーボールを放つ。


ここは何かが違う。

ここなら火炎が出ると信じたクリブルは、ロズミィの教えを思い出して「出てくれ!ファイヤーボール!」と言うと、部屋一面の火炎球が飛び出して魔物は火に丸呑みされていた。


「出た…?倒せた?」


クリブルはそう言うと倒れ込む。

最後に耳に聞こえたのは「反動だ。抑圧から解放されて、身体がついて行けていない。最適化と無効化からだな」と言う女の声だった。

そんなことよりブールゥだと思ったが、クリブルはまた意識を失っていた。



どれだけ眠ったかわからなかったが、起きたクリブルは全裸でベッドの上にいた。


起きあがろうとしたが、激痛で起き上がれない。

声すら上げられない。

自身が全裸だと言う事は天井に張られた鏡でわかった。


「起きたか?青き瞳の少年」

声の方は向けないが、天井の鏡越しに自身の横に薄紫色の長髪を靡かせた女が居ることが確認できた。


鏡越しに女の胸元が見えた時に気がついたが、よく見ると女は全裸で目のやり場に困る。

だが女は「これから長い付き合いになる。羞恥心は捨てろ」と言うとベッドに腰掛けて、しなやかな人差し指でクリブルの腕から肩、胸にかけてを撫でる。


激痛に声は出ないが苦しげな息遣いになると、女は「ふふふ。そそられる顔だな。青き瞳の少年」と言う。


クリブルは色々聞きたかったが、まず青い瞳の意味がわからない。自身の瞳は生まれつき紫色だ。


「ふふふ。鏡をよく見てごらん」

言われた通り鏡を見ると、瞳の色が青に変わっていた。


「変わったのではない。戻ったのだ。まあキチンと話したければ、もう一度寝るが良い。別にその激痛は死に至るものではない。筋肉痛だ。寝れば治る」

クリブルはブールゥの事を聞きたかったが、聞く前に眠りについてしまった。



次に目覚めた時、まだ会話は無理だったが、呻く事は出来た。

女は痛む身体に抱きついて眠っていて、身体を擦り付けてきていた。

そして眠るまで少しだけコミュニケーションが取れる。


「48時間ぶりだな。食事や排泄の心配はない。私の気配が今のところお前の食事を不要にしている。もう気付いていると思うが、私はある程度なら心が読める。だから会話を口でする必要はない。思えば答えてやる」


クリブルはブールゥが近くに居なかったかを聞いたが、「居なかったな。ここは特別な場所。特別な者しか入れない」と返ってくる。


何があったかを聞かれて、ブールゥが元気付けようと転移札を破いたら、あの場所にいたと告げると「なら安心しろ。転移札は行き先が侵入不可の場合には発動しても転移できない。青き瞳の少年はここに入る資格があったから来れたのだ」と言われる。


青き瞳の少年と言われるたびに、クリブルと言う人間がいなくなってしまう気がしてやめて欲しいと願うと「青き瞳の少年は嫌か?なんと願う?」と聞かれ、「クリブル」と名を告げると「いいのか?名前を教えるとは、本当に何も知らないようだな」と女は笑った。綺麗な笑顔。綺麗すぎて怖い笑顔だが、見惚れてしまうと「寝ろ。そんな目で見られると我慢できずに襲ってしまう」と言われて、今も裸なことに気付いて照れたが、クリブルはまた眠気に負けて眠っていた。

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