第2話 王の資質。

10日に一度、クリブルは魔法の指導を受けていた。

魔法使いを束ねるロズミィは、クリブルの魔法が発動しない理由を見て首を傾げるといつも、「魔法総量はクリーエ様やクリーレ様を遥かに凌いでいるのに、いつまで経ってもそこに魔法が貯まりません。何が起きているのか…」と言い、…魔法使い達が戦争で使用する予備の魔法を込めた腕輪を身につけると、ようやくファイヤーボールが放てるが、それでも種火程度で一発で使用不能になる。


困り笑顔で「僕は燃費が悪いのかな?」と言うクリブルに、「すみません。わかりかねます」と謝るロズミィは座学として、クリブルに娘のブールゥと時間を潰させる。

座学はほぼ完璧。


だが何故かクリーレの方が上に行く。

外で悪意のある目に晒されるクリブルを守るためにも、ロズミィは2人の時間を用意していた。


幼馴染の2人に敬語はない。

ブールゥは特製の札を一枚取り出して、「お母さんから転移札の作り方を教わったの」と言って見せると、すぐに破いて見せる。


次の瞬間、教室ではなく裏庭の先に居た。


ブールゥは辺りを見渡して、「あれ?裏庭を指定したんだけどおかしいな…」と言うが、クリブルは感動しながら「凄いね!これがあれば皆を助ける事ができるね」と言う。


「クリブル?」

「だってそうじゃない?火事の現場に飛び込んで、人を救助する事も出来るよ!」


「えぇ?これは作るのも大変で30日かかったんだよ?」

「え?そうなんだ。ブールゥの魔法でもそうなら大変だ」


「だからそんなに乱用出来ないし、短距離だから火災の現場でも奥からは出てこれないよぅ」

「勿体無いね。なんとか皆に配って、危ない日は守ってあげたいや」


クリブルは自分をじっと見るブールゥの視線が気になって、「何?」と聞くと、「クリブルの方が王様に向いてると思うよ?」と言う。


「そんな事ないよ。確かに僕は兄として王になって…なんて思った時もあったけど、何をやってもクリーレの方が上だから、クリーレに任せた方がギアは良くなるよ、だから僕はクリーレが王になったら、ワイプ山に住んで死の墓標の守人になろうかなと思ってるよ」

死の墓標と聞いてブールゥは驚いて「え?なんで?」と聞き返す。


「僕もギアの人間だから、国に何かしたいんだよ」

「…もう。1人であんなとこ住んだら、寂しくて死んじゃうよ?」


「そうだね。あそこにはリリアントとブールゥも居ないからね」

「…そうなったら一緒に行ってあげるよ。そうじゃなくてもクリブルは怪我とかするんだからさ」


「あはは。嬉しいな。ありがとう」

「ほら、お母さんが心配するから帰ろ?」


クリブルは本気で弟のクリーレを推していたし、自身は弱くても、落ちこぼれても、国のためにやれる事はあると信じていた。


半年の間に覚える事は沢山あった。

クリブルにその気はなくても、父クリーエは決して許さずにクリブルにも教育を施した。


そしてクリブルとクリーレを別々に呼んで面談も行う。

クリブルは部屋に入ると、すぐに「父上」と声をかける。


「なんだ?」

「僕は王位をクリーレが継いで、僕はワイプ山に住んで、死の墓標の守人になる事がギアの為だと思うのです」


クリーエは落胆の表情でクリブルを見ると「それ以上言うな」と釘を刺す。


「父上!」

「お前はわかっていない。才能だけで王を選ぶわけではない」



クリーエは悩んでいた。

妻アイボワイトからもクリーレを推されていたし、クリーレ自身も堂々と自身を推してくる。


家臣達も同じだったが、この流れに何か違和感を覚えていたクリーエは、娘のリリアントにも意見を聞き、ロズミィ達にも聞くと、クリブルの能力に違和感を抱いた面々は皆クリブルを推薦していた。


だが本人が望まないのに無理強いする事はしたくなかった。


「まだ3ヶ月ある。キチンと学べ」

その言葉でクリーエは話を終わらせてしまった。


これでも首を縦に振らない父を見て、クリーレはクリブルを敵視するようになっていた。

だがクリブル本人は至って普通に「クリーレ、僕は父上に何回も辞退を申し入れているんだよ。ギアの王は君だよ」と言って優しく微笑むが、クリーレは「なら何故父上は兄さんの言葉を聞かないんだ?」と言ってクリブルを睨みつけた。


クリブルの暮らしは針のむしろだった。

家臣達は発表の前倒しを要求するが、クリーエだけは首を縦に振らない。


そうなると全てクリブルがゴネ倒しているように見える。

そもそも何故かクリブルは悪く見られていた。


同じミスなら、クリーレは許されてクリブルは断罪された。


クリブルはその全てを笑顔で甘んじていた。

それが己の首を絞めることにまだ気付いて居なかった。



クリブルの心労を慮って、ロズミィはブールゥとの時間を増やす。

ブールゥはクリブルに気持ちがあった。

才能なんて二の次三の次。


見た目で言えば双子なのに、顔つきこそ違うが、クリーレの方が自信に満ちていて令嬢人気も高い。


だがブールゥからしたら、そんなものはどうでも良く、クリブルと共にいると享受できる、安らぎや安心感すら感じる優しさを慕っていた。


母ロズミィにはその旨を伝えていて、ロズミィはクリブルと共にワイプ山に住むのも悪くないと言って娘を褒めた。


ブールゥはまた転移札を用意していた。

自慢気に「また転移札を作ったんだよ。今度はチョザラの湖の手前まで行けるはず」と言って札を見せると、クリブルは「え?長距離は苦手なんだよね?」と聞く。


「改良したの。お母さんには無茶苦茶な術式だって笑われたけど、やれたから平気。小石と酒瓶は無事に転移できたのよ」

「凄いや!ありがとうブールゥ!君が居ればギアは安泰だね!」


ブールゥは「私はクリブルと行くんだって」と呟きながら札を破くと、次の瞬間、見覚えのない景色が目の前に広がると、クリブルの意識は遠のいた。

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