生贄の王子。復讐の王子。

さんまぐ

第1話 ギアの王子。

ここはカラフノーレ。

大小様々な国が存在し、…どの国にも伝説の物語が存在した。


ギアの国は小さな国だが地理的に恵まれている。

周囲を高い山々に囲まれていて守りの硬い国で、唯一の平坦な道には城塞都市が用意されていて、侵入者を許さない作りになっていた。


贅沢はできないが食料自給率も高く、鎖国を行っても問題ない。


そんなギアの国が、周りから攻め込まれない理由の一つに、ギアの伝説があった。


【ギアを滅ぼす時、ギアが封じた死を司る悪魔が解き放たれる】


伝説はただ伝説ではなく、太古に実際にあったもの。

それを知るカラフノーレの民からすれば、死の悪魔が居なくても毒にも薬にもならないギアは放置して、自身の為になる領土を拡大すれば良かった。



今から16年前。

ギアに双子の王子が生まれた。

クリーレとクリブルと名付けられた2人の王子。

問題は今も残る太古の予言だった。


【生まれた双子の目を見ろ。赤い目の王子が国を滅ぼし死の悪魔を解き放つ】


だが生まれた王子は2人とも紫色の瞳を持っていた。

皆が「今回は予言が外れた」と思っていた。



16歳になったクリーレとクリブル。

才能は一目瞭然。

何をやらせても弟のクリーレが優れていた。

クリブルはただ優しいだけのボンクラ。兄である以外は何の取り柄もなかった。


才能以外もクリブルは落ちこぼれていた。

圧倒的不幸。


同じ日に同じ母から生まれた王子でも、こんなに違うのかというくらい差がついていた。

どんなに調べても不良品や低品質のものがクリブルに集まっていた。


だがどれだけの目に遭っても、クリブルは「平気だよ。僕は生きているよ」と笑い飛ばす。

周りからの酷評にしても「本当、クリーレは凄いからギアは安泰だね」と笑い飛ばす。


家臣達も国民も皆時期王はクリーレで、クリーレが居ればギアは安泰だと疑わなかった。



クリブルとクリーレには1人の妹が居た。

リリアント。

とても愛らしい少女で、「ギアの華」と呼ばれるほどの可憐さを持っていた。

周りからはリリアントの可愛らしさに、国王クリーエは嫁に出さないのではないかと言われていた。

そのリリアントはクリーレよりクリブルに懐いていて、今もたまたま横を歩いた時に、荷崩れを起こした荷物で腕を擦りむいたクリブルに治癒魔法を使っていた。


心配そうに「お兄さま、またですか?」と話すリリアントに、笑顔で「うん。ありがとうリリ」と返すクリブル。


「もう。またそんな笑顔で誤魔化す。こんなに頻繁に怪我をして何かおかしいですよ?今度魔導士の館に行って見てもらいましょう?」

「ありがとう。本当にリリは優しいね」


「皆がお兄さまに厳しいだけです。お父様はまだしも、お母様やクリーレお兄様まで厳しいなんて」

リリアントが不服そうにクリブルの傷を治すと、「リリアント、何をやってる?来るんだ」と声がかかる。


声の主はクリーレで、リリアントを呼ぶとクリブルを見て、「兄さんはまたですか?とりあえずまだ座学も馬術も俺に及ばないのですから、頑張ってくださいね」と言う。

嫌味満載、皮肉割増の言葉でも、クリブルはクリーレに「ありがとうクリーレ。頑張るよ」と言って微笑んだ。


クリーレは舌打ちをして「行こうリリアント」と言うとリリアントを連れて行ってしまった。


クリブルの午後は剣の訓練で、講師のストンブは決してクリブルを悪く言わなかった。

だが毎回首を傾げて「成長度が遅い?でも剣筋も悪くないし、理解度もある。なのになんで標的を破壊できないんだろう?」と言う。


クリブルは困り笑顔で「ストンブ、ごめんね。せっかく教えてくれているのに、僕がダメだからだね」と言うが、ストンブは首を横に振って「いえ、違います!きっと何かあります。私はそれを見つけて見せます!」と言ってクリブルを見送る。


夕飯のローストチキンは、野生のものを狩人や猟師が獲って納めてくれたのだろう。

クリブルの物にだけ、ストーンバレットの魔法で生み出された石粒が中から出てきた。

クリブルは慣れた手つきでそれを除去する。


昔は口を切っていたが、今はもう慣れた物だった。


クリブルが皿の横にストーンバレットの石粒を避けていると、父で国王のクリーエが「半年後、お前達が17歳になった時に、王位継承者を発表する。その日まで鍛錬を怠らないように」と言う。


リリアントは困り顔でおとなしくなり、母アイボワイトは「まあ!」と言ってニコニコしながらクリーレを見る。


クリーレはドヤ顔で父の話を聞いていて、クリブルも王位継承者は弟だろうと思い、祝福の微笑みをクリーレに向ける中、クリーエは「クリブル、余の中では2人とも未だ拮抗している。鍛錬を怠るな」と言った。


これにはクリブルもクリーレも驚き「父上?」「父上!?」と聞き返す。

何を言ったんだ?と言う声のクリブルと、冗談はよしてくれと言う声のクリーレ、そしてすでに、心の中に時期国王がいるアイボワイトの顔。

逆に顔を明るくするリリアント。


クリーエは「リリアント、食後に余の元に来なさい」と言い食事は終わる。


クリーレは母に呼ばれ、リリアントは父のもとに行く。

残されたクリブルは「父上はクリーレにもっと頑張るように、僕を使ったんだろうな。まあクリーレなら安心して国を任せられるから、僕は身分を捨てて隠居したいな。死の墓標に離宮を作ってもらって、番人をしてもいいかもな」と言って星空を見て笑った。


死の墓標。

それこそが伝説にある死を司る悪魔を封じた土地である。

難攻不落のワイプ山の頂上から地下を目指す形で進むダンジョンで、祭事用に祭壇と広場が用意された地下一層まではクリブルも入った事があるが、その先は父クリーエすら立ち入った事がない場所だった。


「ギアを守る為にも僕にも出来ることがある。今度父上と話すときに進言させて貰おう」

クリブルはそう思いながら少し早いが眠りについた。

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