プロローグ……6

 エルはグリモエステルスの前まできた。グリモエステルスを見据え、ゴクリと唾をのみ込んだ。


(……覚悟しろエル! 躊躇ためらうな。大丈夫だ!!)


 そう言い聞かせるとエルは、右手でグリモエステルスに触れた。と同時に、グリモエステルス全体が発光する。その後、魔法陣が展開された。すると、全身に激痛が襲う。


「うわぁぁあああああああああ――――!!!?」


 体を襲う激しい痛みに耐えられず絶叫する。

 その様子をカルネアは、心配そうにみていた。


「やっぱり駄目なのかしら……でも、まだ分からない……信じるしかないわよね」


 そう言いカルネアは祈る。

 一方エルは、体が引き裂かれるような激痛を必死に堪えていた。その時、エルの全身が激しく発光する。

 それと同時にエルは、バタンと床に倒れた。うなり苦しい表情をしている。

 カルネアはそれをみて止めようとした。


(駄目、手を出したら意味がなくなる。それにこれは恐らく……)


 だがエルは今、第二段階の試練を与えられていると思いとどまる。


 ∞✦∞✧∞✦∞


 ――エルは見慣れない場所に立っていた。周囲には、色とりどりの光が至る所に灯っている。そしてその空間には、色々な本が無造作に浮いていた。


「ここはどこだろう? 確か俺は、グリモエステルスに触れたはず」


 そう言いながら自分の両手のひらをみる。その後、みえる範囲をみた。


「……」


 足元をみたエルは絶句する。そう、下半身が透けていたからだ。


(これって、どういう事なんだ? もしかして、俺は死んだのか……)


 そう思い落ち込んだ。


 “……何を落ち込んでいるのかね”


 その声を聞きエルは辺りを見回した。


「あれ? 誰もいない。今の声って、どこから聞こえたんだ」

 “探しても無駄だぞ。儂はこの魔導書【グリモエステルス】である!”

「グリモエステルス、って……えっ、えぇぇぇぇええええ――――!?」


 エルは時間差で驚く。


 “そこまで驚くことではないと思うのだが……まあいいだろう。それでは本題に移ろうか”

「本題? 何をするんですか」

 “儂が出す問題に答えれば良い。だがその答えによっては、君の魂を頂くよ。それと答えられなくても同じだ”


 それを聞きエルは頷いた。


「答えられれば、この魔導書を手に入れられるんだよな?」

 “そうだな。だが、問題は一問じゃない”

「俺に、拒否権はないんだよな?」


 そう聞くとエルは真剣な表情になる。


 “勿論だ! 君にその逃げ道はない。さて、余り時間をかける訳にはいかん。そうだな、君の名前を聞いておこうか”

「俺の名前……」


 エルは考えた。なんで名前を聞いたのかと……。


(これってもしかして……もう既に始まってるのか? 思い過ごしかもしれない。だけど、用心した方がいいよな。それに、もしそうだったら魂を奪われる)


 そう考えがまとまると口を開いた。


「なんで名乗らないといけない。それとも、名乗らなきゃいけない理由があるんですか?」

 “ほう、なるほど……面白い。まぁいいだろう。聞かずとも問題はないからな”

「それなら、なんで聞いたんですか?」


 そう言いエルは、ムッとしながら周囲を見渡す。


 “それを教えろと……君はそれに気づいたから、答えなかったんじゃないのかね”

「やっぱりそういう事か。まだ問題は用意してあるんだよな」

 “ああ、まだ終わっていない。さて、何から出そうか”


 エルは身構える。次はどんな問題なのかと、そう思いながら待機した。

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