プロローグ……5

 ここはサリドデの町。エルは古魔製品店の出入口の前に立っている。

 決心しここまで来たものの、店の中に入ることを躊躇ためらっていた。

 そう、本当にあのグリモエステルス魔導書を手にして大丈夫なのか、自分に使い熟すことができるのかと思ってしまったからだ。

 そう思い両手をみながら、エルは自問自答している。


(……何をやってる。なんで躊躇ってるんだ。決心したはず。魔導書を手に入れて、あの冒険者を探すって……。大丈夫……うん、入ろう)


 パンッと両手で両頬を叩いた。

 母親と村の人たちの墓に誓い、決心したことが嘘になる。そう思い気合いを入れ直すと店の中へと入った。




 エルは店の中に入ると周囲を見渡す。


「来たわね。まあ、分かってたけど」


 その声がした方をエルは驚きみた。


「分かってたって、どういう事ですか?」

「私はみた人のことが、大体みえるのよ」

「みえるって……先の未来が、ってことなのか?」


 そうエルが問うとカルネアは、コクッと頷く。


「そうね。断片的、ぼやけた感じにみえるの」

「じゃあ、俺の村で何があったのかもか?」

「ええ、そうね。エルが、この店を出ようとした時に貴方が泣いてる姿がみえた。うっすらとだけど」


 それを聞いたエルの感情は変貌し怒りを露わにする。そして、カルネアのそばまでくると胸ぐらを掴んだ。


「おい、それが分かってたんなら……。なんであの時、教えてくれなかったんだ!」

「ちょっと離しなさいっ! そのことを貴方に教えたって、どうにもできなかったはずよ」


 そう言われエルは、カルネアを開放する。


「……そうだな。ごめん……だけど……」

「まぁいいけど。それよりも……ここに来た訳は、あのグリモエステルスが目的なんでしょ」

「ああ、勿論だ! それもみえてたのか?」


 そう聞くとカルネアは、首を横に振る。


「いいえ、それはみえてなかったわ。でも、そうね……今なら大丈夫かな?」

「どういう事だ? 訳が分からない」


 そう問われカルネアは、グリモエステルスが置かれている棚を指差した。


「危険なのは変わらない。だけど今の貴方なら、あの魔導書を手にしても耐えられる……そう思ったの」

「そういう訳か。じゃあ、あの魔導書……そういえばお金。どのくらいするんですか?」

「そうね……あの魔導書は、かなりの値打ちものだから……五億グベルでどうかしら」


 そう言われエルは、ガクッと肩を落とす。


「そんなに高いのかぁ。やっぱりそれだけの価値が、あの魔導書にはある……」

「そういう事……。だけど、どうしようかなぁ。貴方が、あの魔導書を手にする資格を持っているか分からないし」


 カルネアは考えた。どうしようかと思いエルを見据える。


「そうねぇ。もしあの魔導書が扱えるようなら、分割でもいいわよ。それと探求者になって、情報を送ってもらえるかしら」

「探求者か……。そんなことでいいなら構わない。だけど、どんな情報を送ればいいんだ?」

「それは貴方が実際に、あの魔導書を扱えるようなら教えるわ」


 そう言われエルは、一瞬だけ考えた。だが、それでもあの魔導書……グリモエステルスを手に入れたかったため頷く。


「その条件で構わないです」

「じゃあ、商談成立ね。但し、分かってると思うけど。あの魔導書は人を選ぶから、覚悟して触れること」

「勿論、分かってます」


 エルはそう返事をすると、グリモエステルスが置かれている棚の方を向き歩き出した。


(大丈夫……それに駄目な時は、恐らく死ぬ。これは俺にとっての賭け……いや、覚悟だ!)

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