第12話祭り

二人は地下鉄に乗り港駅で降りた。

既に人が溢れていた。二人は迷子にならないように手を繋ぐ。

数々の出店が出ていて、悠はイカ焼きを買い、ひなたはりんご飴を買った。

それから、悠の楽しみの金魚すくい。自宅の水槽に入れる気満々。香具師からポイを買い、次々とリュウキンをすくった。ひなたは一匹も救え無かったが香具師が3匹ビニール袋に入れてくれた。

それは、悠にあげた。

それから、焼きとモロコシ、たこ焼き、ジュースを買って、花火が見えやすい場所を探した。

30分ほどウロウロして、ちょっと高台にある、公園の芝生の上に悠が運んだピクニックシートを敷いて、二人は座った。

ひなたはりんご飴をかじり、悠口の周りをタレで汚しながらイカ焼きを食べた。

「もう、お子ちゃまなんだから」

と言って、ひなたはイカ焼きのタレまみれの悠の口の周りをウエットティッシュで拭いてあげた。

「私、佐々木君の介護に来たわけじゃないんだからね」

「すんませ〜ん」

ひなたは笑った。

悠コーラを飲みながら、たこ焼きを食べ始めた。ひなたもたこ焼きに爪楊枝を刺して口に運んだ。

悠はたこ焼きに青のりをかけない。歯にひっ付いて取れにくいからだ。


辺りが薄暗くなってきた。

いよいよ、花火が打ち上がる。花火の炸裂音が身体に響く。

周りの人は大人なので、缶ビールを飲みながら飲んでいる。酔っ払っているから、声もでかい。

「神田〜、もっと飲めよ!」

「うるせぇブス。気安く俺の名前を呼ぶな!」

隣の大人の客は、この街の副市長さんだった。この前、学校行事で来賓としてやって来た人だ。

まだ、薄暗いから顔の認識はできた。

そして、真っ暗になり花火の光を頼りにひなたの顔を見る。

チャンスだ!次の花火が打ち上がる前の暗い中でキスをしよう。

そっと近付き、ひなたにキスした。

すると、

「キャッ、誰?今、私にキスしたの?神田?」

「バーカ、オメェ見てぇなブスとキスするもんか!気のせいだよ!何よりオメェは酒の飲み過ぎなんだ」


悠は右隣りのひなたではなく、左隣のおばさんにキスしてしまった。

悠はひなたに気付かれない様に、冷静にたこ焼きを口に運んだ。

9時になると、花火は終了した。

みんな、地下鉄で港祭りに来たらしく帰りの駅は混雑して、電車内は満員だった。

悠はひなたの手を放さないようにした。

途中で乗り換えると、随分乗客も少なくなり、座席に着いた。

「ねぇ、佐々木君」

「なんだい?」

「佐々木君、隣のおばさんにキスしたでしょ?」


『し、しまったぁ〜。気付かれていたのか?どうするオレ?ここは絶対に反論しなければ……』


「な、なんの事かのぅ。なんで、おばさんと僕がキスしなきゃならないの?」

「私の座っている場所間違えたんでしょ」

「いいや、間違えてません」


「そう、それなら聞くけど、唇に付いてる、ピンクの色は何?」

悠は唇をウエットティシュで拭いた。

ピンクの色が付いていた。あのおばさんの口紅か……。

「佐々木君、花火の時にキスしょうとしたんだね。雰囲気的には良かったけど、笑い話だね。おばさんとキスするなんて、失敗も失敗。初キスはお預けだね」 

「次回、頑張ります」

二人は最寄り駅に着き、各々家に向かって歩いた。

悠はこの失態を一生忘れられない出来事として、花火大会の度に思い出す事になる。

ガンバレ!佐々木悠君


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