第6話注目のカップル

その朝、悠はバス停でひなたを待っていた。同級生が次々とバスを降りて、声を掛かてくるので、一人一人に返事した。

そして、20分後のバスの昇降口からひなたが出てきた。

「おはよう」

「おはよう、佐々木君」

2人はどちらかが、付き合って下さいと言った訳でもなく、以心伝心でカップルになった。

悠が左手でひなたの右手を握った。2人は学校まで手を繋いで歩いていた。

「佐々木〜、お前ら付き合ってんのか?」

「あぁ〜、増田か。付き合ってるよ」

「いつから?」

「最近」

「松尾さん。佐々木でいいの?」

と、とても無礼な質問をしたが、ひなたは、

「佐々木君が好きだよ」

と、言った。増田は、うわぁ〜と言って走りさった。増田には彼女はいない。

そして、2人が校門を通ると教室の窓からこのカップルを観察する者が幾人といた。

そこで、2人は手を離して別々に教室に向かった。

悠は、朝はカフェオレを飲まなきゃ1日が始まらないのだ。

自宅で飲むカフェオレとはまた、別物だ。

悠はカフェオレの紙パックにストローを刺してチューチュー吸いながら教室に入ると、一際デカい声で、

「佐々木〜、このブスがいっちょ前に松尾さんの手を握りやがって〜」

と、悠の肩を掴む女子がいた。


セイッ!


ドゴッ!


「アババババァッ!いって〜な、殴ること無いだろ!クソ佐々木」

「黙れっ!がま口女!」

悠が殴ったのは、山岡葵だった。彼女は、悠が小学生からの同級生だった。

「あんた、覚えてるの?小学3年生の時にウンコ漏らしたのを!」

悠は、

「なんの事かのぅ〜」

と、しらを切る。山岡は滅気ずに、

「ひなたちゃん、コイツは小学生の時、授業中にウンコ漏らしたんだよ!汚いから手を握らない方がいい……」

悠は山岡の首を腕で絞め上げる。山岡は悠の腕をタップして、

「ぎ、ギブ、ギブ」 

悠は山岡を開放した。

「アンタなんか、3日でひなたちゃんに捨てられるわよ!一生引きずるような別れ方しやがれっ!だいたい、アンタねぇ……」

周りには静まりかえっている。

「アンタ、短小包茎なのにエラそうにひなたちゃんの……」


「山岡。ホームルームが終わったら職員室に゙来いっっ!」

「……!く、久保田先生」

担任が後に仁王立ちしていた。

「女子がそんな下品な言葉を吐くとは、担任として恥ずかしくなる。生徒指導の広瀬先生にも報告しておく。覚悟しとけっ!」 

広瀬先生は野球部の監督で、生徒指導も厳しく、生徒から恐れられているのだ。

山岡は静かに席に着いた。

悠は笑っていた。しかし、

「昼休みに、佐々木と松尾、お前らにも話しがある」

悠とひなたは笑顔を失った。それを見た山岡はニヤリとした。


昼休み。


「おぉ〜、来たかお熱いカップル。佐々木、お前らは今朝手を繋いで登校したらしいな?夏休みの前だ。気持ちはよく分かる。でもな、松尾はまだマシだが、佐々木、お前の成績じゃ、国公立は難しいぞ。それになジンクスがあって、受験生のカップルは男子が滑るんだ。よく考えて、2人で話し合え。別れろとは言わない。せめて、校門の前では手を離せ。皆んな、生徒も我々教師からも丸見えだからな。それと、佐々木、不純なことは考えるなよ!」

「はいっ」 

佐々木は直立不動で返事した。それで、開放された。

廊下に出ると、2人は生徒指導室に吸い込まれる山岡の姿を見た。


「ち、違うんです。先生!」

「言い訳は署で聴く。早く、部屋に入れっ!女子のクセに下品な言葉を吐きやがって!」

「だ、誰か助けてっ!」

広瀬先生は山岡の右手を掴んで、生徒指導室に入らない彼女を引っ張っている。

「さ、佐々木!助けてっ!」

山岡は必死に抵抗し、悠に助けを求めた。ひなたは、ただ突っ立っていた。

悠は、山岡の身体を押して生徒指導室に入らせた。そして、扉を閉めた。


キャー!


生徒指導室から、悲鳴が聴こえた。きっと、竹刀で殴られたのだろう。

この田舎の高校では、多少の教師の体罰をPTAは黙認していた。

進学のみを目標にした高校。場を荒らすものは、成敗される。

悠とひなたは、教室に向かった。


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