第2話骨折り損の……

翌朝、左肘腕を石膏で固められ、三角巾で左肘を固定しながら、登校した。

その姿を見た同級生は、心配して声をかけたが、転んだ!と、言って周りの失笑を受けていた。

そこに、松尾ひなたがやって来た。

「どうして、佐々木君。骨折?あれが原因だよね。ホントにごめんなさい。痛いし不便な生活だよね。部活も出来ないと思うし……」

ひなたは、心配して、責任を感じた顔だった。

「ひなた、僕は美術部だから右手が使えるから問題ないよ」 

と、悠は笑って見せた。

「でも、お風呂とか大変だよね?」

「ビニール袋で何とか大丈夫」 


キーンコーンカーンコーン


チャイムが鳴った。担任の石神先生が現れ、朝のホームルームが始まった。

悠の姿を見た石神は、

「佐々木君、どうしたの腕」

「参考書読みながら歩いていたら、転けました」

「あなたは、おっちょこちょいなんだから、ながら行動は慎みなさい」

「はい」 

周りは笑っていたが松尾ひなたはうつむいていた。

昼休み時間、悠は弁当を食べてから週刊マンガを読んでいた。

そこに、そっと近寄りオレンジジュースを机の上に置く者がいた。

ひなたであった。やはり、気にしているのだろう。

ひなたは、女子にしては背は高く髪は天然の茶髪で肩まで伸ばし、脚は長く胸も小さくは無い。

こんな女子なら、何回でも自転車に引かれたい!と、悠は考えたが変態チックなので、頭を振り、ひなたにジュースのお礼を言った。

「優しいんだね。佐々木君は」

「クリーミィー佐々木ですから」

「あの、お詫びに今度の週末、ご馳走させて」 

「えっ、いいの?」

「うん」

「じゃ、カルボナーラが食べたい」

「いいよ」


「お熱いですなぁ〜」

声をかけて来たのは、中学から同じの上野大雅うえのたいがだった。

「一体、何を話してたんだい?この、オジサンに聴かせておくれ」

「上野、後ろ後ろ」

そこには、上野の彼女の谷口芽衣が立っていた。

「人の話しを邪魔するな!この馬鹿」

「いいじゃん」

「すいませんねぇ、うちの馬鹿が邪魔して」

谷口は上野の耳を引っ張り、連れ去った。

「上野カップル、仲良くていいよね?」

「うん、羨ましい。私も早く彼氏作りたい!今年の夏祭りこそは彼氏と行きたいなぁ」

「君、ウソついちゃいかん。彼氏いるだろ?」

「何で?私、彼氏いた時期ないよ」

「もったいなぁ〜い」

「ま、彼氏候補はいるけど……」


キーンコーンカーンコーン


チャイムが鳴り、佐々木はその彼氏候補を知りたかったが、野暮な事は辞めた。

帰宅して、家族で晩ごはんを食べていると、家電が鳴る。

父親の利樹が、オレが取る。と、言って受話器を持った。

「はい、佐々木です。……はい、それはうちの息子ですが。はいはい、そんな事いいですよ。うちの馬鹿がどんくさいだけで。……はい、そんなそんな、ホントにいいですよ。そ……そうですかぁ。分かりました。では、明日の夕方ですね、わざわざご丁寧にでは」

と、言って席に戻った。

「あなた、誰だったの?」 

「悠の同級生の親御さん。松尾って、言ってた。どうやら、自転車で悠をケガさせたからお詫びがしたいと。サイクル保険に加入してなかったらしい。だから、治療費を払いたいと言っていてね」

芳江はワインを傾けた。何か考えている。

「……ゆう君、松尾さんってどんな子?」

急に妹の加奈子が喋り始めた。

「すっごい美人で、頭が良くてバスケ部のキャプテンだった。中学時代は」 

「そう、それなら、治療費だけ貰いましょう。不良だったら、慰謝料取ろうと思ってたんだけどね」

「悠、こう見えて母さん実は若い頃、レディースの頭だったんだ」

「あなた、それは昔の事」

「当時は、スゴかったなぁ」   

「パパ、レディースって何?」 

「ま、暴走族の……」

「あなた、辞めて!ホントに反省してるから」

「分かった。じゃ、明日の夜の7時に来るそうだ」

「悠、骨折り損のくたびれもうけにならないようにな!その女の子狙いなさい!」

「何それ」

「意味、分からんのか?」

「違う、父さんが考えてること」

「まぁ、気にするな」

4人は芳江特製のハンバーグを食べていた。

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