第13話 銀の味のスープ


 昨晩は一睡もしていないので、お嬢様に朝食を食べさせている間もついうとうとしてしまい、口元にスープを運ぶ際にうっかりスプーンを落としてしまいました。

 ごめんなさいと謝って、すぐに新しいスープを掬って口に流し込みます。


「あらっ!?」

「どうしました?」

「味がする……。これはなに?」

「なにって、いつものコンソメスープですよ」

「もう一口」

「はい」

「……んん、さっきと違う。味がしないわ」

「そうですか? なんだろう……ん?」


 ふと見ると、シーツの上に銀の砂が散らばっています。さっきスプーンを落っことしたところです。


「もしかして、これがスプーンにくっついちゃったのかな?」

「なに?」

「銀の粒がスプーンについたまま口に入れてしまったのかも……」

「銀? 銀の味だったの?」

「そうかも知れません」

「もう一度、やってみて」

「大丈夫でしょうか?」

「うん」

「じゃあほんの少しだけ混ぜますね」


 新しくスープを掬って、そこにつまんだ銀粒をパラパラと入れ、お嬢様の口に流し込みます。


「どうですか?」

「さっきも、この味がしたわ。もう少し、ある?」

「美味しいんですか?」

「美味しいというのがどういうことなのか分からないけど、舌に気持ちよさを感じるわ」

「いやな感じじゃないんですね?」

「ええ」


 そんなやり取りをしながら銀粒混じりのスープを何度か口に入れます。

 実際の体も、自分から口を開けようとしたり、味わうように口を動かしてみたりしています。


「銀はもうなくなってしまいました」

「あら、そうなの。ほかには?」

「金はどうですか? 少ししかないですけど」


 なんとなく鉄や銅や亜鉛なんかよりも、金の方が美味しいような気がして勧めてみます。


「いかがですか?」

「これもいいわね。あ〜、なんだか体に染み渡っていくわ」


 もう一口もう一口と、飽きずに食べたがります。

 少量とはいえ、こんなふうに金属を体に入れてもいいものなのでしょうか。ちょっと不安になってきました。

  

「お嬢様、金属はこのへんにしてちょっと様子を見ましょう。ちゃんとした食事も食べないと」

「……ん、わかった」


 しぶしぶという感じで、差し出した肉入りスープをこくりと飲み込みます。

 ちょっと拗ねた口ぶりがなんだか新鮮で可愛らしく、ついクスッとしてしまいました。


 その後、僕も朝食を食べる時に金の粒を指先につけてぺろっと舐めてみましたが、なんの味もしませんでした。

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