第12話 クズ石でも効果あり


 真暗な中に黒くひっそりとそびえるクズ山を、注意深く登ります。クズ石は何かの拍子に雪崩のように滑り出して、それに巻き込まれれば、よくて傷だらけ、悪ければ埋もれて身動きできずに死んでしまうこともあります。

 今までは、山の下に散らばっていた鉱石を拾っていましたが、今日は中腹あたりまで登ってみます。なんとなくそのほうが含有量の多い鉱石が見つかるような気がしました。

 足場を固めて蝋燭を灯します。手の届く範囲で、キラッと光るところを探します。見つけたらそっと手に取り明かりに透かして確かめ、鉱物の多いものだけをかばんに入れます。前の布かばんはもうボロボロで穴があいてしまったので、大きめの革かばんを持ってきました。

 一か所で五個くらいづつ。あちこち場所を変えて繰り返すと五十個以上も溜まって、もうかばんを持ち上げるのもやっとです。

 そろそろと山を下りて、かばんを引きずりながら夜の道を帰りました。


 蔵に戻ると、ざっと石を選り分け、とりあえずよさそうなものをお嬢様に見せます。


「このくらいのはどうでしょう?」

「あら、いいわ。すごくいい感触よ」

「よかった! じゃあ、ちょっと体にも当ててみますね」

「ああ、なんとなくだけど、痛みも鎮まる感じ」

「それじゃとりあえずここに置いておきますね」

「ありがとう」

「他にもたくさん拾ってきたので、ちょっと鉱石だけを削り出してみます。こんなにギザギザしてるとケガしちゃいますから」

「ああ、なるほど。任せるわ」


 蔵の扉の前の敷石が固くてしっかりしているので、削り出し作業にちょうどよさそうです。

 敷石に布を広げ、その上で鉱石をコツコツと細かく叩いて不要な岩石部分を削っていきます。片側が角張ったハンマー、もう片側が尖ったピッケルになっている道具を使います。これは選鉱場から連れてこられる時にベルトに差したまま持ってきてしまったものです。返せと言われたら返せばいいし、それまではありがたく使わせてもらうことにします。


 金や銀は柔らかくて、岩の隙間にクモの巣みたいに入り込んでいるので、なかなかきれいに取り出せません。精練場では細かく砕いた鉱石を灰の上で高温で溶かして取り出すそうですが、ここではそうもいかないので砂金取りの方法でやってみます。

 細かく砕いてから、さらにハンマーでグリグリとすり潰すように砂状にします。それを水を張った皿に入れて右に左に傾けているうちに、重さの違いで金属質の部分と岩石質の部分が分かれてきます。そうやって根気よく、ひとつまみ分ずつ集めます。

 硬い鉱物は細かくするのはムリなので、ピッケルの先で岩石部分をなるべく取り除きます。それだけでも爪くらいの大きさのニッケルやコバルトがきれいに取り出せることもあります。

 宝石類はヘタに叩くと割れたり粉々になってしまうので、やすりで周囲をこするように削っていきます。専用の道具で研磨すればキラキラと輝くのかも知れませんが、今はせいぜいきれいな色の付いた石という感じです。


 夜中じゅう作業をしているうちに明るくなってきました。半分くらいは処理できたでしょうか。

 並べた皿の上には、いろんな貴金属や貴石が朝日にまたたいています。

 金属類では、銅、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、錫、亜鉛、アルミニウム、ゲルマニウム、プラチナ。宝石類では、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルド、トパーズ、石英水晶、紫水晶。

 

 ひとまずお嬢様の元へ持って行きます。


「岩のゴツゴツしたところを取り除いてみたんですが、どうでしょう?」

「まあ、これはいいわ。すーっとしみ込んでくるみたい」

「わあ、お嬢様の輪郭がすごくはっきりしてきましたよ!」


 見ている間にも、目や鼻や耳や口はくっきりとしてきて、しゃべるのに合わせて口も動くし表情まで分かります。もうもやもやとした幽霊ではありません。無色で半透明だけれど、お嬢様の分身そのものという感じです。

 ――可愛らしい。しばし見入ってしまいました。


「なんだか体の感覚もよみがえってきたわ」

「ど、どんな感じですか?」

「やっぱりあちこち痛むみたい」

「そうですか……」

「でも、この純度の高い鉱石は効果がありそうだわ」

「まだ肌に直接置いてみましょうか」

「ええ、試してみて」


 上半身の毛布をめくって、骨張った手に粉末状の金を、もう片手には銀をパラパラと振りかけてみます。


「こうするとどうでしょう?」

「あ〜、すーっとする感じ。痛みも少し和らいでる気がするわね」

「右手と左手、なにか違いがありますか?」

「なんとなくだけど、左手の方がすーっとして右手はぽわぽわするような」

「他にもいろいろ試してみますね」


 体のあちこちの関節に触れるように、いろんな金属類の粉や粒、宝石類の欠片を置いてみます。


「ああ、なんだか痛みが引いたみたい」

「よかった。じゃあ、しばらくこのままにしておきますね。なにか変な感じがしたらすぐに言ってください」

「分かったわ。ありがとう」


 朝食の時間まで、また入り口の敷石の上で残りのクズ石削りを続けました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る