第14話 好きな鉱石、嫌いな鉱石


「やっぱり食べるのがいちばん効果があるみたい」

「肌にくっつけておくよりも痛みがとれるということですか?」

「そう、そうなの!」

「でもそんなに金属を体の中に入れても大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫そう。というより体が求めてる感じがするの」

「そうなんですか?」

「ええ、だんだん体の感覚が分かるようになってきたわ」

「なんだか嬉しそうですね。それに元気そう」

「そうなのよ、なんだか活力が湧いてくるの! だからってなにができるわけじゃないけどね」

「それも金や銀の効果なんでしょうか? 体にも元気が出てくればいいですね」

「また、集めてくれる?」

「はい」

「その前に、他にもあったでしょう? それも試してみたいのだけれど」

「でも、体に悪いものもありますよ」

「たぶん、口に入れたら、体が欲しがってるか拒否してるかわかると思うわ」

「じゃあ、ほんの少しずつ試してみましょうか」


 スープに混ぜるよりも、指に付けて舐めてみる方が分かりやすいということで、お嬢様は僕の指を何度もちゅぽんとしゃぶります。口を開けたり、吸ったり、飲み込んだりも、だんだんうまくできるようになってきています。

 宝石類はあまり食べたい気にはならないそうで試していません。


 いろいろな鉱物を口にした結果、おおまかに分けて

  好き――金、銀、プラチナ、コバルト、銅、アルミニウム、ゲルマニウム

  嫌い――鉄、ニッケル、マンガン、錫、亜鉛


 好きな時はなんとなくうっとりしたり、嫌いな時はちょっと眉を顰めたり、表情も分かりやすくなっています。真っ白だった肌色もほんのりと血の通った色合いに。

 ついつい何度も口に指を運んでしまい、金属粒はすぐになくなってしまいました。


「もうないです」

「……そう。もっと欲しいみたいだけど」

「金とか銀とかプラチナとか、ここの鉱山でも希少な金属ですからねえ。クズ石から取れる量なんてほんのちょっとですよ」

「そうなのね……」

「あ、クズ石じゃなくて、あそこにいけばもっといいのがあるかも……。また今夜拾いに行ってみます」

「うん、お願い」

「じゃあ、それまでちょっと眠らせてもらいますね。お嬢様もゆっくりお休みください」

「わかったわ」


 夜も更けて外に出ます。今夜はクズ山ではなく精練場に向かいます。

 坑道入口、採石置き場、選鉱場、クズ山と少しずつ山の裾に広がる形で並んでいます。そこからかなり離れた場所に建っている石造りの大きな建物が精練場です。夜通し大量の鉱石を高温で熱して金属を抽出しています。遠くから見ると、そのあたりはぼうっと赤く光っていて、並んだ煙突からはもくもくと黒い煙が夜の空に立ち上っています。

 人目を忍んで建物の暗がりに潜り込みます。壁際は中の熱気が漏れ出てとても熱いです。

 ここに運び込まれるのは金属の含有量が多い鉱石です。もしかするとトロッコから転げ落ちたものが落ちているかも知れません。

 案の定、精練場のまわりには大きな鉱石がごろごろと転がっていました。手に取ってみると、岩石部分より金属部分の方が多いくらいです。どんどん革かばんに詰め込んでいくと、すぐに入りきらなくなってしましました。

 これ以上持ち帰れそうもないので、早々に引き上げることにします。

 その途中、精練場から少し下ったところにも小高い山があるのに気がつきました。これもクズ山でしょうか。ちょっと寄ってみることにします。

 どうやらここは精練場の炉では取り出せない鉱石の捨て場のようでした。コバルト、イルメナイト、ルチルなど、この鉱山では見向きもされない石が積み上げられています。


 コバルトは銀鉱石に似ていますが、鉄や銅やニッケルなどと混じり合っていて純度の高い金属にならないため捨てられています。

 イルメナイトはチタン鉄鉱とも言われ赤鉄鉱に似た鉱石なのですが、高温で熱しても溶かせず、精練しようがないということで捨てられてしまいます。鉄鉱石だと思って掘り出した鉱石が半分以上はこのイルメナイトだったりするので嫌われ者のようです。

 ルチルは金紅石とも呼ばれていてきれいな金色なのですが、イルメナイトにくっついていることが多いのでいっしょに捨てられています。石英水晶の中に金の針をばらまいたように閉じこめられているものもあり、それはクオーツルチルと呼ばれる宝石の一種になるようですが、たいして高価ではないため、よほど大きなものじゃない限り捨てられてしまいます。


 コバルトはお嬢様も気に入っていたようなので、含有量が多そうなものをいくつか拾います。

 ついでにイルメナイトやルチル鉱石もいくつか。

 お嬢様は気に入ってくれるでしょうか……。

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