第7話 クズ石集め


 週に一度、メイド長さんからもらえる給金は、銀貨三枚。

 選鉱場での仕事では、日に銅貨三枚でした。銀貨三枚ということは、前の十日分です。ほんとうにこんな割のいい仕事につけてよかったです。そのうちの二枚を孤児院に渡しに行っています。僕は毎日おいしい食事を食べさせてもらっているので、ほとんどお金は必要ないですけど、全部を院長に渡してもどうせ半分は酒代に消えてしまうのは目に見えています。お嬢様が元気になった時のためにと、銀貨一枚は貯めておくことにしました。


「なんじゃいお前、給金も持ってこんとどこをほっつき歩いてた」


 蔵で暮らしはじめて一週間経ってから、もらった給金を孤児院に届けに行くと、年中赤ら顔の院長が怒鳴りながら手を振り上げます。


「待って、ほら今週の給金です」


 身をすくめて銀貨二枚を差し出すと、振り上げた手でそれを奪い取ります。


「それならそうと早く言わんかい。なんじゃ、たった二枚ぽっちか」

「今度の仕事は泊まり込みで食事も出るので、こっちの食費もかからないので他の子に使ってください」

「ふ〜ん、ならまあいいとするか」


 どこでどんな仕事をしているかなど、まったく興味はなさそうです。僕も言うつもりはありません。


「毎週きっちり持ってくるんだぞ、忘れたら承知せんからな」

「わかりました、じゃあ仕事に戻りますので」


 院長はすでに背を向けて、銀貨を入れた革袋を懐にしまい込んでいました。

 

 孤児院からの帰り道、ちょっと寄り道をしてクズ石捨て場に向かいます。

 スラグとか鉱滓こうさいとか言うそうですが、ここではクズ石と呼んでいます。

 このあたり一帯にはクズ石の山が十、二十と連なっています。遠くの方では、今日も選鉱場で捨てられたクズ石を積んだ荷車がのろのろと行き交っています。

 荷車を引いているのは五歳から十歳くらいの子供たち。とても一人では動かせないので、三人四人がかりで引いたり押したりしています。


 僕も半年くらいやったけど、今まででいちばんきつい仕事でした。シャベルでクズ石を荷車に積むだけでもヘトヘト。それを押してガタガタの坂道を上がるのも一苦労。途中で止まるとズルズルと戻ってしまいます。クズ山の中ほどまで行ってまたシャベルで掻き出します。荷車ごと斜面を滑り落ちて大ケガをしたり、上から転がり落ちてくる石に当たって死んでしまうこともあります。帰り道で止まって休んでいようものなら、すぐさま監督官が飛んできて棒で打たれます。半年とはいえ、よくケガもせずに居れたと思います。


 そんなことを思い出しながら、人気のないクズ山の陰で鉱石が混じっていそうな岩の欠片を探します。そんな岩はけっこう見つかります。一時間もすれば布かばんに入りきらないほどになりました。

 ずっしりと重いかばんを肩に掛けて、お屋敷に戻りました。

 夕食の後に、それを毛布の上に並べてみます。


「へ〜、いろんなのがあるのね。それぞれ感触が違うわ」

「どんな感じなんですか?」

「ピリピリするのや、チクチクするのや、くすぐったい感じとか、これなんかはヒンヤリしてるわね」


 お嬢様の言葉に従って選り集めてみると、きちんと鉱石ごとに分かれていました。なぜ靄の手で撫でるだけで区別がつくのか分かりませんが。


「これとかこれ、また拾ってきて」

「金や銀はなかなかないんですけど、また探してみますね」


 手の届く範囲に鉱石の欠片を並べておきます。

 ほとんどの時間は、体と一体になって眠っていますが、時おり手を伸ばして鉱石を撫でているようです。そのせいかどうか分かりませんが、顔や体の輪郭が次第に人間っぽくなってきました。手にはちゃんと指が五本揃っています。

 実際の顔や体は、まだ血の気のないままですが……。

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