その8 決闘美談
叫びながら訴える彼によれば、彼の父は決闘で妻を娶った。
それを時折自慢げに父親が話してくれるという。
なお母親もそれをうっとりと聞いているらしく、
彼の中ではそれは正しい嫁取りの手段となり、
彼もまた決闘で妻を娶ってやると思い続けてたらしい。
で、
セレクトに一目惚れして機会を伺い実行しようとしたと。
「あー・・・」
マクシスからすれば、それは正当な手段であって、
しかも尊敬しているのであろう父親に続くことができる当然の行為なんだろう。
「・・・あのね」
「なんだ!?」
「君は、僕の妹を物として扱ってるんだよ?
それはわかってる?」
「何言ってるんだ。
そんなわけないだろ!!」
「えっ」
「その子を物として扱うなんて俺が許さねぇよ!」
「えぇ・・・?」
この言葉に一気に僕の怒りが冷めていく。
というか家臣3人も同じ・・・というか若干あきれ顔になっている。
どうにも彼にとっては決闘で妹を得ることは、
別に物扱いするような行為として考えられていないようだ。
・・・芋と引き換えに条件出してきてたよね、君。
芋と妹を同列に扱ったんだよ?わかってる?
忘れてそうだけど。
セレクトだけは意味が分からず僕にしがみついたままだ。
僕は呆れた様子のまま男爵の方に目を向ける。
未だに跪いて頭を下げている姿のままだった。
「・・・あの、男爵?」
「申し訳ない・・・私の教育が悪かったとしか・・・」
「あぁ、はい。
その、決闘のいきさつを聞いてもいいですか?」
鼻息荒くいきり立っているマクシスを置いといて、
僕は詳しい話を男爵にお願いした。
流石にここまで決闘というものを誤解していそうな状況に、
話さないわけにはいかないだろう、
深く溜息をついた男爵が顔を上げ、頷いた。
「わかりました」
エルデリラス男爵は、
男爵位を貰う以前は騎士として王家の為に尽くしており、
とある縁から男爵家の娘と愛し合う関係にあったという。
そして努力の末に男爵位を賜った後、
改めてその娘に告白し、結ばれたい旨をその娘の父親である当主に話し、
認められたためにめでたく婚姻を結ぶことができる・・・はずだった。
ただ一人、それに断固反対していた人物がいた。
次期当主となる女性の兄だった。
どうも相当のシスコンだったらしく、断固として認めなかったらしい。
その為、
決闘により勝利すれば認めてもらうという約束をし、
見事に勝利を収めたということだった。
まぁ未だにその兄とは犬猿の仲・・・というか向こうが一方的に嫌っているようで、
現在ではその兄も当主となって、
未だにエルデリラス男爵を毛嫌いしているとか。
なお娘さんのほうの両親はエルデリラス男爵家で隠居生活満喫中らしい。
妹を取られてぴりぴりし続けている息子にいい加減嫌気がさしてこちらに来たとか。
どんだけだよその兄。
「なるほどなぁ・・・」
多分ここらへんもちゃんと話はしているのだろう。
だけど、肝心なところを理解せず、
『決闘で嫁を得た』というところだけを大事なものにしてしまっているようで。
「さぁ、分かっただろ!
だから俺と決闘
「あのね?」
「お、おう!?」
彼の言葉をさえぎり僕が睨みながらぐぐっと身を乗り出したため、
思わず息をのみながらあとずさるマクシス。
「今のお話、ちゃんと聞いてたよね?」
「あ、あぁ、何度も聞いている話だ!」
「重要なのは決闘じゃないんだよ」
「・・・決闘じゃない?」
僕の言葉にぽかーんと聞き返してくるマクシス。
さて、理解してくれるといいけど。
「1番重要なのは、君の父上と母上が愛し合っていたこと。
だからこそ、決闘で勝利したことが自慢であるし、誇りでもある。
君の母親も嬉しかっただろうね、
愛する人が自分のために戦って勝利してくれたんだから」
「そうだよ。
だから」
マクシスが言葉を発するのを止め、
首を横に振って僕は続ける。
「だけど君がやろうとしているのは、
僕の妹を物として扱い攫おうとしただけ」
僕のその言葉にマクシスがきょとんとした顔で固まる。
「え・・・」
「だって、君と妹は愛し合ってなどいないでしょ?」
「・・・え、だって」
「セレクトはどう?彼とけっこ
「嫌です。
するくらいなら兄さまとけっこんします」
僕の言おうとしていることを理解していた妹は、
僕が言い切るより早く、もはやお約束の回答をしてくれた。
いや、できないからね?僕との結婚は。
「・・・ね?」
「・・・」
とりあえず固まったマクシスを放置して男爵のほうを向き、
止めの一言を与えることにした。
「ついでに言うと、僕の妹は父上と陛下が決めようとしてた
王子殿下との婚約すら蹴りましたからね」
「は???」
僕のその言葉に今度は男爵が目を丸くして妹と僕を見る。
うん、普通ならありえないだろうね。
陛下も承諾した王子殿下との婚約話を、
あろうことか娘である妹のほうが蹴るとか。
まぁ、あの時父上も不承不承という感じだったから、
多分陛下のほうから持ちかけたんだろうけど。
そういえばどうなるんだろ。アルフの婚約相手。
「・・・だって」
「・・・?」
ずっとうつ向いてたマクシスがひねり出すような震えた低い声を出してきた。
なんか、もしかして泣いてる・・・?
とか思ってたらがばっと顔を上げて僕ににじり寄ってきた。涙目で。
「だってとーちゃんが言ってたもん!
決闘で勝って嫁が得られたって言ってたもん!
だから俺はそうやって一目惚れしたその子を欲しかったんだもん!!」
「えぇ・・・?」
もん・・・って。
駄々っ子モード入っちゃった?
えぇぇぇ・・・・?
「いや・・・えーと」
「俺おかしくないもん!
変なこといってないもん!!
そうでしょとーちゃん!!!」
・・・こうなるととーちゃんっていうんだ。
ていうかこのぐずりモードに流石の男爵もわかったわかったと頭を撫でる始末。
「だがな、彼、マリウス様のいう通りなんだぞ。
お前はあの子と知り合って間もないというのに、
いきなり決闘なんかしたってあの子がお前を好きになるわけがないだろう?」
「だってとーちゃんが・・・」
「ちゃんと聞かないお前も悪いが、
ちゃんと大事なところを説明しなかった私も悪かった。
だから今回は諦めるんだ。
ちゃんとお前が言った事の何が悪かったのかを説明するからな?」
「うう・・・」
ううん・・・考えてみれば彼は僕と同じ8歳。
父親の恰好いいところを真似てみたくなるのは
当然といえば当然のお年頃なのかもしれない。
なんて同じ8歳児の僕が思うのはおかしい話なんだけど。
「まぁ・・・その内容も含めて父上にお話して、構いませんよね」
「えぇ・・・まぁ、我が子の恥・・・というより我が家の恥となりますが、
お怒りになるのはごもっともでもあります。
ですのでその結果は受け入れます。
重ねて謝罪をさせていただきたい」
「あ、はい」
少なくとも妹を物扱いする気はないことだけは分かったし・・・
とはいえ物扱いした発言であるという事実は確かなので、
そこらへんをしっかり教え込んでほしい。
「それで、甘芋なのですけど」
「えぇ、お詫びにはならないでしょうが、お持ちください。
扱いに関してもそちらにお任せします」
この流れで何かと引き換えにということはもはや男爵側は言えないだろう。
それに少しでも心象を良くするお詫びの1つとして
この不味いだけの芋を譲渡することで得られるのであれば、
彼らからすれば安いものとも言えるかも知れない。
なので断るよりも受け入れるべきだろう。
「・・・わかりました。じい」
「はい」
男爵から甘芋を数十個と、種芋となるほうを分けてもらい、
それらを受け取るじい。
さて、未だにぐずついているマクシスが気になるんだよね。
このままだと後味悪いままだろうし・・・そうだなぁ。
「折角だし、手合わせしてみる?」
「・・・え?」
先ほどまでぐずついていたマクシスが僕の言葉に顔を上げる。
「流石に僕に勝ったら妹を、とかいうのは受け入れる気は全くないけど、
折角だし手合わせ位はしてみる?
さっきも言った通り、僕は弱いけど」
「決闘・・・じゃ、ないのか?」
彼の言葉に僕は首を横に振り、
真正面から彼の目を見て言葉を続ける。
「どういう場面で決闘をするべきなのか、
しても問題ないのかは、
君は父上にしっかり聞いて、理解するべきだよ」
「・・・」
「そうじゃないと、
こうやって君の父上が困ったことになるんだからね?」
「・・・わかった」
ずっと謝り続けたりしていた父親を目の前で見続けていたのだから、
流石にそこは理解できたんだろう。
これでもう少し決闘について理解してくれればとは思う。
「そこまで!!」
突こうと突きつけた槍を軽く躱されて、
首元に木刀を突きつけられた恰好になる僕。
「・・・お前本当に弱いんだな」
開始からものの数秒でその手合わせは終わってしまった。
「言ったでしょ、弱いって」
「と言ってもマリウス様、
槍を使い始めてまだひと月たったかどうかでしょう?」
「な、なに?
貴族の子息としてそれはいくらなんでも恥ずかしいぞ!
いくら何でも鍛錬をしなさすぎだ!」
「・・・いや、えーと」
確かに槍の鍛錬をはじめはのはそうだけど、
鍛錬自体は幼いころからしてるんだよね。
才能ないとは言われてたけど。
「兄さまは小さいころからずっと鍛錬をしています!」
「え?でもひと月程度と」
「あぁ、それは槍での鍛錬だね」
「ならそれまでは何を鍛錬してたんだよ」
「剣」
その言葉にちょっとぽかんとしたあと、
ぶん、と僕に剣の柄側を向けてくる。
「だったら!」
差し出された剣で再戦を望んでくるマクシスに首を横に振り、
柄を押し戻して断る。
「いや、剣は才能ないと言われてたんだよ。
だから最近槍に切り替えたんだ」
彼の剣を見て思った。
本気で僕には剣の才能がなかったんだと。
癖が邪魔をしていたのもあっただろうけど、
ならそれが無ければ彼のような動きが出来たかと言えば、多分無理だと思う。
そもそも武芸自体僕にはそれほど才能がない、と思う。
「ランロークと試しにうちあってみる?
多分そのほうが実力出せると思うよ」
「え、俺ですかマリウス様」
「うん」
そう言われてランロークが木刀を2,3かい振って確認し、構える。
マクシスも流石にあっさり終わった僕との手合わせに不完全燃焼なんだろう、
ランロークとの手合わせを快諾した。
そして打ち合いが始まる。
うん、強いね。マクシス。
けどランロークは明らかに手を抜いてる。
やっぱり強いね。ランロークは。
そんな二人のやりとりを眺めていると、
同じく感心した面持ちで男爵が僕に話しかけてきた。
「マリウス殿、彼は?」
「元王宮騎士団見習いの、ギルダーム男爵家三男、ランロークです」
「なんと、かなり若く見えますが王宮騎士団に!?
そのような者が何故?」
「色々あって。
なので実力はあの通りです。
きっとご子息様のいい経験になると思いますよ」
「・・・」
僕の言葉に小さく頷き、手合わせをしている二人を眺める男爵。
セレクトはどっちの応援もしたくないらしく、
ただ剣の打ち合いを見ているだけだった。
まぁ、かたやいきなり僕を怒らせた相手。
かたや僕を火傷させた相手だからね・・・。
「バーナード侯爵は良いご子息を持たれましたなぁ」
「・・・父上がそう思ってくれていればいいんですけどね」
「・・・?」
手合わせはランロークがわざと負けることで決着が着いたようだった。
*** *** *** *** ***
ゲーム本来のキャラクター紹介
ここではお話の終わりにシナリオ内ではほぼ出てこない
本来のゲームでのキャラクターの位置づけなどをご紹介します。
興味のない方はぜひ飛ばしてください。
*** *** *** *** ***
名前:マクシス=エルデリラス
性別:男性
学園入学時年齢:14歳
男爵令息。
黒髪短髪筋骨隆々でお前20歳越えてね?とよく言われるほどの大男。
真っすぐな性格で、主人公が庶子であるにも関わらず気さくに話しかける好青年。
それが気に食わないとマリウスに散々な物言いをされ、
おもわず殴り倒してしまう事件が原因でマリウスとは敵対関係になる。
剣の腕前は14歳でありながら大人顔負けの実力を有し、
クラスどころか学園で彼に敵う相手は居ないのではないかと言われている。
マリウスの妹に対してもはじめこそ敵視していたものの、
彼女の現状を深く理解した彼は王子殿下のアルフレッドと協力し、
その妹を救うべく、断罪のための証拠探しに奔走する。
後にルート次第(主人公とマリウスの妹セレクトが結ばれる以外のルート)
では没落したバーナード家からセレクトを救い出し、結ばれることとなる。
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