その6 火傷大騒動

妹とアンジェが淑女訓練を終えて僕たちのところにやってきた。

アンジェは平気そうなんだけど妹はへとへとな様子だった。


そんなわけで現在トムさんの菜園横のガーデンっぽい場所で、

5人でお茶会のようなものをはじめているのだった。


なおトムさんは野良作業を再開している。


「セレクトさんに、アンジェリナ様、ですわね。

 わたくしはレミエリア=エルボイドですわ」


「セレクト=バーナードです。マリウス兄さまの妹です」


「アンジェリナ=バース=グランデールです。

 アルフレッドお兄様がなにか粗相をなさいませんでしたか?」


「おいアンジェ。

 なんで私だけそんな雑な扱いなんだ」


「だってお兄様は女の子の扱いが下手ですし」


「あのな・・・」


「い、いえ、アルフレッド様は

 わたくしにこの中庭の案内を買って出てくださいましたの。

 とてもご親切にして頂きましたわ」


3人寄れば姦しいとはよく言ったもので、

年齢も同じくらいなこともあり3人はすぐ仲良くなった。

そしてそうなると少しずつ蚊帳の外扱いになる僕とアルフ。


いやアルフはあまり気にしてないかな?

むしろ3人の話を楽しそうに聞いている。


しかしそうなると僕だけが蚊帳の外?

まぁ会話に混ざることもできないこともないだろうけど、

折角楽しそうに女の子3人がおしゃべりしているのだから邪魔はしたくない。


なんて思いながらぼーっと風景をみていると、

渡り廊下のほうから誰かがこちらへ駆け寄ってくるのが見えた。

騎士風の姿だけどまだ10代前半くらいの男性みたいだけど、

騎士見習いかな?

なんか、鎧が妙に大きいような・・・?

重いせいかふらついてるように見えるというかふらついてる。

って、あ。リーナさんが新しいお茶を追加するのにカートを持ってきてくれてるけど、

そのルートだとぶつか・・・


「ご、ご報告しつれ・・・うわ!?」


「きゃあ!?」


ものの見事にへろへろ走りで前方不注意状態だった騎士見習い?さんが、

リーナさんの動かしていたお茶カートにぶつかってしまい、

それに乗っていた紅茶が衝撃で弧を描いてこちら・・・アルフへと飛んでいく。

あ、マズい。


「アルフ!!」


「え?」



ばしゃあっ!



「・・・~~~~~~あっつい!?」


「マリウス!?」


「兄さま!?」


入れたてほかほかの紅茶を入れたポットが

ものの見事にアルフを庇った僕に浴びせられ、

全身からほのかな湯気と香ばしい香りを立てた僕が

あまりの熱さに悶えながらごろごろと地面を転がる。


「ど、どど、どうしたら!?」


「兄さま!しんじゃいや兄さま!!」


「あっついだけでしななしけどあっつい!!あっつ!!」


「ええいどけい!」


突然の出来事で大混乱する僕らと、

その惨状にいち早く対応してくれたトムさんが手に持っていたじょうろの水を僕に浴びせる。


おかげで熱さはすぐに引いていった。

ぬれねずみになってしまったけど。


「あー・・・あつかった・・・」


「だ、大丈夫かマリウス・・・?」


「マリウス様!ご無事ですか!?」


「兄さま!」


熱湯を浴びたほぼ全身がひりひりと痛む。

火傷しちゃったかな・・・これ。


「なにをぼーっとしとるか!

 そこのメイド!すぐ治療医を呼べ!」


「は、はい!で、でもどこに行けば・・・」


「わ、私が一緒に参ります!

 えぇと・・・」


「リーナです、アンジェリナ王女殿下!」


トムさんの指示に周囲が慌てながらも動き出す。

僕もなにかしたほうがいいのかななんて落ち着いた状態になって考えていると、

トムさんが騎士見習い?さんのところに歩みより、首根っこひっつかんで引きずってきた。


下手したらこれアルフにかかってたんだよね。

そんなことになったらこの人不敬罪とかで処刑されたりするのかな・・・怖い。


「貴様は騎士見習いの分際で前方も見えんのか!!」


「も、申し訳ございません!

 はじめて身に着けた装備が重く・・・」


あ。はじめてだったんだ。

ということは騎士見習い初日?でしでかしちゃたの?この人。


「貴様の処分はあとで直接下す、

 ともかく慌ててこちらに来ていた要件を伝えよ!」


「は、はい、国王陛下がアルフレッド王子殿下とレミエリア公爵令嬢をお呼びです。

 すぐ応接間に来るようにと・・・」


「わかった。すぐに向かう。

 おじい様、ここはお任せしても?」


「あぁ任せろ」


「ではレミエリア嬢。参りましょう。

 セレクト、マリウスを見ててあげてくれ」


「もちろんです」


アルフが未だに状況についてこれず呆然としていたレミエリア嬢をつれて立ち去っていく。

騎士見習いさんがそれについていくべきかどうかおたおたしていると、

またトムさんがその首根っこをむんずと掴んで、移動しはじめる。

えーと・・・騎士詰所のほうかな?あっちは。


「マリウスはここで治療医を待て。

 わしはこいつの処分を騎士団長と話さねばならんのでな」


「あの・・・僕は別に」


「バカを言うな。

 下手をすればこの国の王子に大やけどを負わせるところだったのだぞ?

 それでなくても侯爵嫡子のお前に大やけどを負わせたのだ。

 着慣れない装備で前方不注意?

 常在戦場の意識を持つのが当たり前の騎士にあるまじき行為だ」


その言葉に顔を伏せる騎士見習いさん。


多分トムさんのいう通りなんだろう。


国や国民を守る騎士にとって、イレギュラーは常に付きまとう。

である以上、最低限身の回りは常に良好な状態を維持するのが普通。

にもかかわらず、着慣れないという理由でへろへろになってしまう騎士は騎士たりえない。

いざこの装備をするときに備え、前もって着慣れるようにしておくのが当然なのだ。


ということなんだろうけど・・・。


でもやっぱり可哀そうは可哀そうだ。


とりあえず治療してもらったら僕も騎士団の詰所にいこう。





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ある意味はじめてヒールの治療魔法を受けたかもしれない。

熱湯を浴びた僕はところどころ火傷を負ってしまっており、

ただれるほどではないし、跡が残るというほどでもないものの、

やはりヒールを貰った後はひりひりしていたのが消えたのでありがたかった。

服も乾いたものに着替えてようやっとほっと一息だね。


「ありがとうございました」


「いえ、それではお大事にしてください」


治療医の女性がぺこりと頭を下げ、王宮へと戻っていく。


「アンジェもリーナさんもありがとう」


「大事にならなくてよかったです・・・」


「本当に。

 私の紅茶で万一傷を残されたりでもしたらと・・・」


今回に感じてはリーナさんに非はない。

ないけど、それでも気にするよね。


「おかげさまで問題なし。

 というわけで、報告もかねてトムさんの向かったところにいってくる」


「え、兄さま?」


「あの、マリウス様が向かわれることはないと思うのですが・・・」


「んー、でもなんかあの人が可哀そうだから、

 結果も気になるし行ってくるよ。

 リーナさん、二人をお願いします」


「あ、はい、わかりました。

 ・・・あれ。そういえばお嬢様は?」


「あぁ、アルフと一緒に陛下に呼ばれて応接間に行ったみたい。

 多分そのうちここに戻ってくると思うよ」


「分かりました。

 ではここで待たさせていただきますね。

 アンジェリナ殿下、セレクト様、紅茶を飲みなおされますか?」


「そ、そうですね、少し落ち着きたいのでそうします」


リーナさんが紅茶を入れ直すために移動していく。

アンジェが妹をつれて席に移動しようとするけど、

妹が僕のほうを不安そうに見たまま動かない。


「兄さま・・・私も行ったほうが・・・」


「大丈夫。

 セレクトはアンジェとここで待ってて」


そう言って頭を撫でると、

少し迷ってからこくりとうなずいてくれた。


「・・・・・・・はい」





*** *** *** *** ***

ゲーム本来のキャラクター紹介


ここではお話の終わりにシナリオ内ではほぼ出てこない

本来のゲームでのキャラクターの位置づけなどをご紹介します。

興味のない方はぜひ飛ばしてください。

*** *** *** *** ***


名前:レミエリア=エルボイド

性別:女性

学園入学時年齢:14歳


公爵令嬢。金髪ロールのですわお嬢様。

ヒロインの1人であり、アルフレッド王子の婚約者。

少し高望みなところがあり、

アルフレッドに次期国王になってもらうべくはっぱをかける日々を送る。

しかしそれが常態化してしまったころにマリウスの騒動に巻き込まれ、

その騒動の結果王子の希望もあり婚約が破棄されてしまう。

失意のどん底にいるときに主人公に八つ当たりをして・・・。


彼女のルートでは主人公と結ばれたのち、

彼と共にエルボイド公爵家を盛り立てていく。

なお主人公は最後まで彼女の尻に敷かれていた。

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