その4 高慢お嬢様

「なぁマリウス」


「なに?アルフ」


「どうしたらセレクトに好かれる?」


「・・・相談する相手を間違えてるよ」


現在妹はアンジェと一緒に淑女勉強なるものを受けていた。

僕とアルフは剣の稽古を終えて一休みしているところなのだけど、

やはり先日のアレがかなり響いているのか、

アルフはことあるたびにこれを聞いてきていた。


正直うんざりしてきている。

もう何回目だろう。

10回を超えたあたりで数えるのを諦めた。


しかも妹とアンジェが居ない時を必ず狙うのだ。


僕が妹に好かれているから、

僕なら妹に好かれる方法が分かると、なんか思い込んでいるようなのだ。


なので返答はいつもと同じ。

相談する相手を間違えてるんだよ。


「お前の妹の事だろう?」


などと言われたので流石に面倒くさいと反撃を試みてみることに。


「じゃあ逆に聞くけど」


「なんだ?」


「アンジェに好かれるにはどうすればいいか答えられる?」


「な、ま、マリウス!

 お前まさかアンジェのこと!!」


「いや別に?」


僕の即答にアルフが顔をしかめる。

きっと普通ならそんなこと言ってーみたいな感じでおちょくってくるんだろうけど、

あまりに素で返してきたから半ば呆れてるねアルフ。


「・・・それはそれで酷くないか?

 私のかわいい双子の妹だぞ?」


「いやだって・・・」


・・・正直に言えば僕はそれどころじゃない。

16歳になる前、15歳終わり頃に発生する断罪を回避できるのかどうか。

できなければ僕は最悪命を落とす。

しかも僕だけではなく、妹や父上、

バーナード家のみんなを巻き添えにしてしまう可能性が高い。


僕だけならばよくはないけど、まだ許せる。

だけど僕以外への被害だけは絶対に防がなければならない。


だけど、その手段がまったく分からない。

1番の原因はマリウス自身によるものなのだろうけど、

僕がなにもしなくても冤罪で同じことが起きる可能性だってあるのだ。


そんな未来に絶望しかなさそうな僕が、

誰かとどうこうなるなど、考えるような暇はない。


そもそもそんな相手が出来たとして、

その相手をも巻き添えてしまう可能性があるんだ。

そんなことは絶対にできない。


特にアルフやアンジェをそれに巻き込むことはしたくない。


それに確かアンジェとは本来婚約者の関係だったらしい以上、

尚の事そうならないほうがいい。


だから。


「なぁマリウス」


「だから僕・・・うん?」


「あれは、誰だ?」


「え?」


アルフが指をさす方向を見ると、

赤いドレスに身を包み、ロールした金髪が特徴的な僕たちと同じくらいの年齢の女の子が、

きょろきょろとしながら不安げに危なげな足取りで歩いていた。


アルフが知らないなら王家の誰か、というのはない。

なら城勤めの貴族の誰かしらの娘だろうか?


「迷子・・・か?

 1人では危険だな。声をかけてこよう」


「そうだね」


アルフがそういって立ち上がり、少女の元に歩み寄っていく。

遅れて僕もそれに習う。


「すまないレディ、よろしいだろうか」


「え・・・な、なに?」


アルフに声をかけられた少女がびくりと実を縮こませて

怯えた表情をしてこちらを見る。


・・・あっと、男二人に囲まれる形はかえって怯えさせちゃうか。

そう判断して声掛けはアルフに任せることにして、

2歩ほど下がって従者ポジションでたたずむことに。


「・・・ってなんで下がるんだマリウス」


「アルフ?気遣いというものを覚えようね?」


「知っているが???」


「いいから、僕は居ない体で続けて」


「わけのわからんことを・・・

 と、とにかく、迷われたのですか?」


アルフの問いかけにはっとしたあと、

何故か怒ったような表情で腰に手を当てる。


「ち、違うわ!

 迷っているだなんて失礼ね!!」


「あれ・・・そうなのですか?」


こちらを睨むように凄む少女に顔を見合わせる僕ら二人。

迷子じゃないのかな?


「そもそも貴方たち誰よ!

 私を誰だとわかってそんな失礼なことを言っているの!?」


「え、えーと・・・わかるか?マリウス」


「いや・・・お名前をお尋ねしても?」


「普通名前を聞くときは自分から名乗るものじゃないの!?」


先程までの不安そうな表情はどこへやら。

腰に手を当てて仁王立ちの赤いドレスの少女の

ツリ目を更に強めた瞳が僕たち二人を射抜いていた。


「これは失礼、私はアルフレッド。

 アルフレッド=バース=グランデールです。

 こちらは私の友人であるマリウス=バーナードです」


「ふん、聞いてないわよ!

 私の名前はね、レミエリア=エルボイドよ!

 その意味を理解したときに失礼な物言いをしたことを後悔しなさい!」


レミエリア=エルボイド・・・

エルボイドといえば・・・


「エルボイド公爵家の令嬢、か」


「ん、分かるのか?マリウス」


「あぁうん、

 一通りの貴族家の名前と爵位は頭に叩きこんでいるよ」


この世界で無事に生き延びるためのことはなんでも頭に叩きこんだ。

先日の妹との騒動で話した近親婚の可否もそうだし、

彼女の貴族家のこともそう。

そうか、公爵家となると僕の家よりも上の立場になるか・・・でも。


「ところで、君はアルフ・・・

 彼の名前を聞いてもその意味が分からなかったのかな?」


「は?

 なによ意味って。

 どうせ大した意味なんて・・・」


僕に問われてフン、っと顔を背けつつも、

1度アルフの名前を小さく発言して、だんだんと顔色が変わっていく。


「アルフレッド・・・バース・・・

 『グランデール』って・・・う、うそ・・・」


青ざめていく少女の目に、今度はじわりじわりと涙が浮かび始めている。


グランデール。それは僕たちの住む国の名前であり、

王族のファミリーネームでもある。


それを名乗るアルフが何者なのか。


これで気付かないのはもはや貴族どころかグランデール王国民を名乗れない。

それくらい、あたりまえの事なのだ。


「お嬢様ー!お嬢様ー!!

 ・・・あ、お嬢様!!」


「うん・・・?」


声をあげてメイドらしき人が誰かを探しているようだけど、

こちらに視線を向け、目的の存在を見つけたのだろう。

危なげな足取りでこちらへ駆け寄ってきた。


「お嬢様!ご無事でしたか!ようやく見つけましたよ!!」


「え・・・あ・・・リーナ?」


「お、お嬢様、何故涙を・・・

 ・・・!

 あなたたち、お嬢様になにをした!?」


駆け寄ってきたメイドさんがレミエリア嬢の状態に異変を察知し、

一緒にいた僕たちが犯人なのだろうと察知して

主を背に庇いこちらを睨みつけてくる。


「なにって・・・」


すさまじい迫力に流石に僕もアルフも唖然としてしまう。

そんな僕たちをよそにメイドさんは構わず次の行動に出ていた。


「たとえ子供であろうとお嬢様に無礼を働くなど許せません!

 厳罰を持って罰していただきます!!

 誰か!誰か来てください!!!」


「ま、まってリ-ナ!

 ち、違うの、そうじゃなくて」


「大丈夫ですお嬢様。

 私が来たからにはもう何も心配しなくていいんですよ」


僕らを睨みながらも背に庇った主を心配する、うん、従者の鏡だね。


だけどそうじゃない。

どうしようこれ。

あ。

騒ぎを聞きつけた巡回騎士が数名駆け寄ってきた。


「どうなさいました!?」


「この者達がお嬢様に害を与えていたようなのです!」


メイドの女性がそう怒鳴りながら僕たちを指さす。

騎士さんがその言葉になるほど、と頷いた後、

僕たちのほうを向き膝をついて兜を取って地面に置き、

臣下の礼をとる。


その騎士さんの仕草にぽかーんとするメイドさん。

自分たちにすらそんなことをしなかったのに、

僕たちに対して・・・もっと言えばアルフに対して臣下の礼をしているのだから。


「それは誠ですか?殿下」


「いや、そんな事実はないのだが・・・」


「なにをい・・・  え、殿下・・・?」




-------------------------------


「本当に申し訳ございません・・・

 いくら謝罪を重ねても足りないのは重々承知ではありますれば・・・」


はじめから起こった出来事を順を重ねて話した結果、

メイドのリーナさんが早合点しただけだということが発覚。

更にアルフが第二王子であることを知らなかったこともあり、

アルフ自身も二人を不問にすると騎士に伝えるに至ったのだけど、

今もなおその場に土下座して額を地面に擦り付ける勢いで顔を上げてくれないメイドのリーナさん。

止めるべきか自分もそうするべきか戸惑い涙目のままあたふたしているレミエリア嬢。


うん、メイドのリーナさんはともかく、

レミエリア嬢がこのままでは可哀そうだ。

しかし僕は侯爵家の人間である以上、ここで何か言うことは出来ない。

なにせ相手はそれより上の立場である公爵と、王家なのだ。


ならアルフに言わせるしかない、と肘でアルフをつつく。

こくりとうなずいてアルフが前に出る。


「どうか顔を上げてください。

 あなたの大切なレミエリア嬢があなたのせいで泣きそうですよ」


その言葉に顔を上げるメイドのリーナさん。

しかしその表情は今にも自決するんじゃないかという

思いつめ過ぎたものでちょっと怖い。


「で、ですが・・・」


「以後気を付けてくださればいいんです。

 そうだ、気分転換に王宮を案内しよう。

 どうかな、レミエリア嬢?」


「よ、よろしいの・・・ですか?」


「えぇ」


アルフがレミエリア嬢に手を差し伸べ、

恐る恐る、その手を取るレミエリア嬢。


さ、行きましょうと声をかけて歩いていく二人を見送る僕とメイドのリーナさん。

・・・あれ?あなたは一緒に行かないんです?


「・・・あ、あの、あなたは一緒に行かれないので?」


って先に言われちゃった。


「あぁ、ここはアルフに任せたほうがいいかなと。

 ああいった礼儀作法は僕よりアルフのほうが確かなので。

 あと僕は侯爵家の子息なのでそんなに怯えなくて大丈夫ですよ?」


「い、いえ、それも十分雲の上の爵位ですから・・・」


先ほどのお嬢様の為ならという態度も消え失せて、

完全にただの怯えるメイドさんになってしまっている。

いや別にいいのだけど。


ただ、アルフにはちょうどよかったかも知れない。

今回の出来事も、

レミエリア嬢の案内も、

僕の妹のことで思い詰めていたアルフのいい気分転換になるのではないかと、

そう思ってもいた。






その後、一通り王宮を回ったアルフたちが戻ってきて、

なんで一緒に来なかったんだとちょっとふてくされたアルフが面倒くさかったくらいで、

特に何も問題は起きなかったようだ。


なお待っている間、メイドのリーナさん(めんどくさいから以後リーナさんと呼ぼう、うん)に紅茶を入れてもらって飲みつつ、

だいぶ落ち着いたリーナさんからレミエリア嬢の話を聞くことができた。

ちょっとわがままだけど可愛らしく家の人たちには愛されているらしい。

ただ、先ほどの高慢な所を指摘すると、

少々甘やかされているところがありますので・・・と目を逸らして言葉を濁していたけど。

それ、おとなになる前に治したほうがいいと思うよ?



*** *** *** *** ***

ゲーム本来のキャラクター紹介


ここではお話の終わりにシナリオ内ではほぼ出てこない

本来のゲームでのキャラクターの位置づけなどをご紹介します。

興味のない方はぜひ飛ばしてください。

*** *** *** *** ***


名前:アルフレッド=バース=グランデール

性別:男

学園入学時年齢:14歳


金髪碧眼のよく乙女ゲームに出てきそうな美男子。

ゲーム内では主人公といい意味でのライバル関係となる。

レミエリア公爵令嬢と婚約関係を結んでいる。


事あるごとにマリウスとぶつかり、双子の妹に諫められる。

しかし妹を粗末に扱うマリウスを嫌い、断罪を行うことを決意する。


マリウスを断罪するときにその陣頭に立つのが彼。


最終的に主人公を全面的に認め、

ルート(僕たちずっ友だよねルート)によっては近衛などに取り立てる。


なおルートによってはレミエリア侯爵令嬢と婚約を破棄することになる。

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