その3 兄妹で結婚はできません。

妹が何を仰っているのか理解するのに時間がかかった。


アルフとの婚約を拒絶。


あろうことか僕との結婚を希望。


あれこれ僕やばくない?

色んな意味でやばくない??


「セレクト、ちょっとおちついt


「兄さまは黙っててください!!」


「はいっ!すみませんッ!!」


凄まじい剣幕でそう言われて思わず謝罪して頭を下げる。

怖い!

いまだかつてない迫力の妹が怖い!


「セレクト、本気で言っているのか?」


そんな剣幕にも一切動じず父上がそうセレクトの頭をなでながら問いかける。

そんな手を即座に払いのけてざざっと後ろに引く妹。

流石にこの行動に父上が淑女にあるまじき行動だと怒る・・・より早く。


「お父様も黙っていてください!!!」


妹が噛みつかんばかりの形相で

後退りしながら興奮しながら父上に怒鳴っていた。


「わ、わかった、

 わかったからそう興奮するんじゃない」


多分一度も見たことのない妹の怒りに

流石の父上もたじたじになっていた。


・・・なんかちらっちらっと僕のほう見てるけど。

いや父上、目で僕に訴えかけないで?

僕だって嫌だよこんな状態の妹に触れるとか。


そんな僕たちの状態に、

国王陛下が妹の前に移動して屈み、妹と目線をあわせる。

そんな陛下に流石の妹も噛み付いたり睨みつけたりはせず、

不満100%な状態ではあるけど落ち着きを多少取り戻してくれた。


「それほど、嫌なのだな?」


「はい!絶対に嫌です!

 だってアルフ様って情けないし頼りにならないしたまにいじめてくるし

 手が汚れているのに洗わずに触ってくるし弱虫だし結婚は嫌です!!!」


と、妹がアルフを指さして国王陛下の目を真っ直ぐ見て言い切った。

すごいね。絶対僕言えないよそんなこと。

その言葉に国王陛下も流石に困ったような表情をアルフに向け・・・・


「・・・・・・・・」


当のアルフは泣きそうな表情をしていた。

アルフってそんな弱虫でも頼りにならないこともないと思うんだけどなぁ。

確かに手を洗ってくださいとよくお付きの人に言われてるけど。


なんて考えていると、妹が今度は僕の方を指さした。

え、なに、僕なにか言われるの?


「兄さまは優しいし頼りになるし分からないことを分かるまで教えてくれますし

 夜怖いとき一緒にいつもそばにいてくれますし守ってくれますから!」


・・・めっちゃ褒められた。

だから僕と結婚したいの?妹よ。

なんかすごく僕の評価高いけど、そこまでなのかい?

照れるを通り越して呆然とする僕と、そんな僕を羨ましそうに見てくるアルフ。

そこで僕を睨んだりしていないのは流石アルフだけど。


アルフ?

直そうと思えば直せるところは幾つかあったよね?


「セレクト嬢、それほど我が息子との婚姻、婚約は嫌かい?」


「はい」


逡巡することなく否定の言葉を出す妹に、頭を抱えて溜息をつく父上。

国王陛下なんて苦笑してるし。

大丈夫?バーナード家取り潰されたりしない??


なんてちょっと心配していると、横から声がかかった。


「セーレはマリウス様が大好きなんですのね」


「うわ、いつの間に」


いつの間にか僕の横に移動していたアンジェが僕にそっと呟いていた。

ある意味避難してきたと言っていいかも知れない。

というか僕だって妹がここまでとは思わなかったよ・・・?


「・・・まぁお気持ちはよく分かりますけど」


「え、何か言った?」


ぼそっとアンジェが呟いたのを聞き逃したけど、

え、なに?僕なにか悪いことした?


「いえ何も。

 それでマリウス様はどうなのですか?」


「どう・・・って?」


このタイミングでどう、と聞かれても・・・。


「セーレと結婚したいですか?」


あぁ、なんだその事ね。


「いや?」


アンジェのその問いかけに何の迷いもなく否定の言葉を出す僕。


なおこのやり取りは小さな声で行っているので、

今も国王陛下と話しているセレクトには聞こえていない。

たぶん。

そして僕の即答にちょっと驚いた様子のアンジェ。


「そう、なんですの?」


「セレクトはかわいい大事な妹だけど、

 結婚したいとまでは思ってないよ」


その言葉に安堵したような、

ほっとしたような表情のアンジェ。

流石に僕そこまでシスコンこじらせてないよ。

というか全然シスコンじゃないし。

流石に血の繋がった妹と結婚したいとはこれっぽっちも思っていない。


「そ、そうなのですね。

 では誰か結婚したい相手などがいらっしゃるとか・・・?」


アンジェが珍しく突っ込んでくる。

こういう機会だからかな。

アンジェも色々気になるんだろうと思う。

でも結婚したい相手、ねぇ。


「そういうアンジェは?」


「え・・・?」


「アンジェはそういう相手、いr


「兄さま!

 なんで私をほっといてアンジェと親しそうに話しているんですか!!」


僕とアンジェがひそひそと話していることに気付いてしまった妹が、

僕のほうにずんずんと地響きでも立てそうな勢いのある足取りでこちらへとやってくる。


超怖い。

思わず背にアンジェを庇う体制になりつつも身構えてしまう。

アンジェを盾にしようとしなかった僕を褒めたい。

だけどかえってそれが妹の怒りを買ってしまったかも知れない。


妹は僕たちの目の前に立ち、腰に手を当てて僕を睨んでくる。


「兄さまは私よりアンジェのほうが大事なのですか!」


「・・・」


怖くて何も言葉が出ない。


「私は兄さまが大好きなのに私のことはどうでもいいのですか!!」


「・・・」


ああ、妹の怒りが有頂天に達そうとしている。

違う頂点だ。

有頂天じゃただの阿呆になってしまう。

じゃなくて。


「答えてください兄さま!!!」


「・・・」


怖くて何も答えられない僕に、

セレクトの表情が徐々に険しく、そして涙目になっていく。


「あ、あの、セーレ」


「なんですかアンジェ!」


「先ほど兄さまは黙ってて、とセーレが言ったから

 マリウス様は何も喋ってくださらないんですわよ?」


確かに言われた。

言われたけどそれで黙ってるわけでは・・・

単純に怖くて何も言えなかっただけです、うん。


けどそのせいで喋ってくれないと思ってくれたのか、

おかげで妹が少し冷静になってくれたんだろう、

怒気が和らいだ気がする。

少しバツが悪そうに目を伏せて、頭をふってから顔を上げる。


「・・・ごめんなさい。黙らなくていいです」


「う、うん」


「それで、答えてくださいますか?」


妹の怒気がだいぶ落ち着いている。

冷静になってくれたようだ。しかし、

先ほどの質問に答えてほしいようだけど・・・。


僕が妹よりアンジェのほうが大事なのか。

そんなわけがない。


どっちのほうが大事、はどちらも大事な妹と友達だ。

優劣なんかつけられるわけがないから答えようがない。


だけど妹のことなどどうでもいいのか、なら答えられる。


そんなわけがない。


「セレクトは大事な妹だよ?」


「・・・本当ですか?」


「僕がセレクトに嘘なんて言ったことある?」


「・・・たまにしかないです」


たまにあったっけ。

いや流石にどこかで嘘の1つや2つは口に出てるかな。

まぁたまにしかない、という評価なら大丈夫だよね。うん。


とにかく僕のその言葉が偽りではないと信じてくれたんだろう、

妹の表情が何かを期待するようなものに変わっていく。


「じゃあ、私と結婚してくれますか?」


答えを期待する妹に、僕は。


「無理」


「!!」


迷いのまったくない否定の言葉を出す。

それを聞いた妹が驚愕の表情で僕を見た後、

肩を震わせて目に涙を貯め始める。


このまま泣かれてしまっては収拾がつかなくなる。

そう思った僕は慌ててセレクトの両肩を掴んでじっと妹の顔を見る。

肩をつかまれてびくっとしながらうるんだ瞳で僕を見返す妹。


「セレクト」


「な、なんですか兄さま・・・」


僕は、妹に言い聞かせるように

なるべく優しく諭すような声色を心がけながら口を開いた。


「兄妹では結婚は出来ないんだよ」


「・・・え?」


僕の言葉に目を見開いて

どういうこと?と言わんばかりの表情をする妹。


・・・ちなみに兄弟姉妹では本当に結婚はできない。

この世界でも近親婚はたとえ王侯貴族であっても認められていないんだよね。

これは国の法律でもきちんと定められていることだ。

そのあたりもちゃんと知識として僕は学んでいる。


ただ、それだけでは多分妹は納得しない。

だから、もうすこし踏み込んで話しておこう。


「う、嘘ですそんなの・・・」


「本当だよ。ちゃんとした理由もあるんだ」


「理由って・・・?」


「兄妹で産まれる子供は奇形が高い確率で多くなってしまうんだよ」


「・・・きけい?」


「・・・」


「・・・・・・・・へ?」


僕の言葉に妹だけではなく、アンジェやアルフ、

国王陛下や父上までもが僕のほうを何言ってんだこいつという目で見てくる。


変なことを言ってる自覚はあるけど

まだ続くんだからちゃんと最後まで聞いてほしい。

きっと妹にとっては大切な理由になるはずだから。


「歩けない子供になってしまったり、

 耳や目が不自由な子供になってしまったり、

 普通の人とは違う姿になってしまう場合だってあるんだ」


「・・・」


確か虚弱体質になってしまったり、

未熟児みたいな感じなまま大人になってしまう場合もあるんだっけ?

流石に詳しいことは分からないけれど、

そういった割合が圧倒的に多くなってしまうために

近親婚は認められていない明確な理由がちゃんとある。

過去の統計からそうなる確率が高いと確定したために

定められたと本には書かれていた。


「セレクトは嫌でしょう?

 自分の子供がそんな不自由な生き方を強いられる子になってしまうのは。

 目が見えない子供だったらセレクトの大好きな本が読めないんだよ?」


そう、きっと妹にとって1番重要な部分がこれだ。

本が読めない体になってしまう。

本の虫である妹にはクリティカルヒットのようで、

それこそ驚愕の表情で首をぶんぶんと横に振っていた。


「そ、それは可哀そうです・・・!」


「そういう子供が生まれる可能性が極めて高くなってしまう。

 だから、兄妹では結婚できないんだよ。

 そうですよね、父上」


いきなり話題を振られた父上が、

俺か!?と言わんばかりに肩を跳ね上げていた。

でもすぐに咳払いをして落ち着きを取り戻すあたり流石父上。


「ん、お!?

 あ、おほん、そ、そうだな、その通りだ」


「そ、そうなのですか・・・」


父上が肯定したことで完全に信じてくれる妹。


「だから僕は、

 嫌、でもなく、

 ヤダ、でもなく、

 『無理』って言ったんだよセレクト」


「・・・兄さま」


そう、

正直に言ってしまえばかわいい妹から結婚したいなんて言われて、

嫌がる兄はそういないと思う。

気持ち悪がる兄は居るかもしれないけど。

それくらい好かれているんだっていうことだから、

僕だって嬉しいのは嬉しい。

こういう場でなければ。


だけど。


結婚は無理だ。


先ほど言ったこともそうだけど、

それ以上にセレクトは妹だ。

そういう相手として見ることは、僕には絶対に出来ない。


掴んだ肩を離して頭をなでると、

ぽろぽろ泣きながらごめんなさいと連呼する妹。

結婚は出来ないけど、大事な妹だということは伝わっているはず。


・・・無理じゃなければ結婚したいくらい好きって意味合いで取られてるかもしれないけど、

まぁ別に問題ないよね。







後日改めてこの話をしよう、ということになり、

その場は国王陛下の一言で解散となった。


そして王都にある館に戻ったその日の夜、僕は父上に呼び出しを受けていた。


「すまん、助かったぞマリウス」


「いえ・・・しかしてっきりセレクトは

 アルフが好きになってると思っていたんですけど・・・」


「俺もだ。

 まさかあんな反応をされるとはなぁ・・・」


館に帰るまで、妹はずっと僕にべったりだった。

流石に食事や湯あみなどでは離れていたけど、

どうも結婚出来なくても好きだということが通じたと思っているのか、

なんかこれまで以上に僕を大好きになってしまったようで・・・。


なおそんな妹は、

此度の婚約騒動の首謀者の一人・・・になるのかな?

の父上のことはまったく視界にいれないようにしていた。

あからさま過ぎて父上も僕も肩をすくめたけど。


「ただ、別にアルフが嫌いではないと思うんですよね。

 そういう相手としてまだ見ていないだけで」


「・・・ふむ」


そう、別に嫌ってはいない、はず。

むしろ好いているくらいだと思う。

ただ、結婚したいと思うほどではないというだけで。


「まぁ、セレクトに関してはしばらく様子見だな」


「というより相手出来ないんじゃないかな・・・あれは」


「・・・はぁ」


僕が第一である以上、なにか大きなきっかけでもないと

僕以外の誰かを好きになったりしなさそうだ。


それこそ、ゲームの主人公が相手とか・・・?


「で、だ」


「・・・?」


「お前は、どうなんだ?」


「僕ですか?

 僕は別にセレクトとは・・・」


「そうではない。

 お前は婚姻を結びたい相手はいるか?」


「・・・」


そう問われて考える。

僕が結婚したい、相手?


っていうか。


「あの」


「なんだ?」


「そもそも僕が知り合ってる女の子って、

 アンジェくらいしか居ないのですが」


「・・・」


僕も妹も、茶会のような貴族同士の顔見せの集まりみたいなものは

未だに一度も参加したことがない。

興味がないといえばそれまでなのだけど、

そもそも父上も母上もそういうものを企画することも参加させることもしていないのだ。


「・・・そのうち、茶会でも開くか?」


「めんどくさいんでいいです」


「絶対言うと思ったぞ。

 まぁ俺もそうだったから同意はするが」


お前らそれでいいのかとか言われそうだけど、

父上も僕も面倒事を引き込みそうなことはしたくないで共通している。

まぁだからこそ僕はともかく

セレクトは本の虫のようになってしまったのだろうけど。


「まぁ・・・僕は僕が好いた人と結ばれたいと思っています」


「・・・恋愛結婚を望むということか?」


「はい」


「貴族という立場でそれが許されると思っているのか?」


「父上だから許されると思っています」


僕がそういうと、

まったくこいつは・・・と苦笑しながらわかった、

と僕の頭を撫でながら承諾してくれた。



後日、妹も同じ約束を取り付けたようで、

以後僕や妹に対する婚約願いや見合いの誘いはすべてシャットアウトされることとなった。






ちなみに余談なのだけど。


「・・・・・」←妹


「・・・・・(汗」←父


「・・・・・(目逸らし」←僕


「おい、マリウス。なんとかしてくれ」


「無理です」


妹の父上ガン無視キャンペーンが3日ほど続いたのは、

まぁ何の相談もなく勝手に婚約を決めようとしていたのだから自業自得だろう、

と思うことにした。


なお僕にべったりキャンペーンもおなじく3日ほどで解消された。



*** *** *** *** ***

ゲーム本来のキャラクター紹介


ここではお話の終わりにシナリオ内ではほぼ出てこない

本来のゲームでのキャラクターの位置づけなどをご紹介します。

興味のない方はぜひ飛ばしてください。

*** *** *** *** ***


名前:セレクト=バーナード

性別:女

学園入学時年齢:14歳


マリウスの妹。

マリウスが早生まれでセレクトは遅生まれのため、暦上は同じ年齢である。

水色のさらさらと流れるようなロングヘアーで、スカイブルーの瞳。


ヒロインの1人でありマリウスの妹。

幼いころから暴力を振るわれ、いつしか酷い虐待となり、

兄を恐怖の対象としてしか見ることができなくなる。

従順に従わなければ暴力を振るわれると刷り込まれており、

一挙一動に至るまで兄のいるところでは気を使い、

必ず言いつけ通りに従うようになってしまっている。


主人公がその行為を見咎め、彼女を庇うようになると、

今度は標的を主人公に切り替えるようになる。


彼女のルートの場合、

マリウス断罪の後に主人公は彼女と結ばれ、バーナード家を継ぐこととなる。

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