その2 ゲームの世界

偶然の一致を期待した。


しかし知れば知るほど一致が多すぎた。


僕が生まれた侯爵家の家名であるバーナード。

妹の名前、セレクト。

同じ学園に通う予定の第二王子アルフレッド殿下。

その双子の妹でありゲームの中では僕の婚約者になるらしい第三王女アンジェリナ殿下。

グランデールという王国名。

14歳で行くこととなる学園。

そしてその学園名。


すべてが何もかも僕の知る・・・というか聞いたゲームと一致した。




なお、ゲームの名前は知らない。


本当に知らないんだ。

なにせ、僕はそのゲームをプレイをしたことがない。


なら何故知っているのか。


生前の僕の友人がこれでもかと僕に報告してくるからだ。

やれヒロインがかわいいだの、

やれライバルがうざいだの邪魔だの。


事細かく報告してくる上に

ちゃんと聞いていたか確認までするために嫌でも覚えてしまった。


しかし実際にプレイしていないために細かいところはわからない。

そんな曖昧な記憶から分かっているのは、



僕が学園卒業式の数日前に断罪を受けるということ。



正確には「マリウス」という人物が、

起こしまくった学園での非道な行いを断罪されるのだ。

陰湿ないじめというレベルではない暴力行為。

ヒロインたちに対する常軌を逸した執着、或いは恫喝行為などなど。

あと妹への虐待の話もあったかな。


ともかくそれらが暴露されて、

結果、良くて国外追放、それ以外は死刑。

そのうえバーナード侯爵家は例外を除いて爵位の剥奪。

地に落ちてしまう。



例外というのは、ゲームの主人公が妹と結ばれる場合のみ。



ちなみにゲームは選択式シナリオノベル系の恋愛ゲーム。

というものらしい。

主人公の男の子が学園のヒロインの誰かしらと仲を育み攻略するもの。

いわゆるギャルゲーと呼ばれるものだそうだ。


いちいち報告してくる友人が何度か貸そうかと言ってくれたものの、

まったく興味のなかった僕がプレイすることはなかった。




今はそれが悔やまれる。



どうすれば僕が断罪されるという事態を回避できるのか。

それがまったくわからない。


1つだけ確かと言えるのは、

僕自身がそんな非道な人間にならなければいい。

ということだけ。




----------------------------------


 -マリウス8歳 セレクト7歳 王宮の中庭-


僕は年に1,2回ほど父上に連れられて、

王都の屋敷に数週間ほど滞在する。

その際に幾度も通っている王宮の中庭で二人の男女と語り合っていた。

もちろん僕だけではない、妹のセレクトも一緒だ。


父上は国王陛下と話があるらしく、ここには居ない。


「それでマリウス、剣の腕は上がったのか?」


「領地に居るバーナード騎士団の団長さんに見てもらっているけれど、

 どうも僕には剣の才能は無いようだよ」


「兄さまはいつも怒られてます」


「そうなんですの?マリウス様」


「稽古は真面目に受けているけどね」


僕たちと話している相手は、この国の王子と王女。

少し前に名前が挙がっていると思うけど、その二人だ。


双子の兄妹の兄、第二王子のアルフレッド殿下。

その妹である第三王女であるアンジェリナ殿下。


僕と妹にとっては幼馴染ともいえる相手であり、

父上が王城に呼ばれるたびに遊び相手として僕たちは二人の相手をしていた。


ちなみに、僕はアルフレッドをアルフ。

アンジェリナのことをアンジェと呼んでいる。

二人は僕のことをマリウス(様)とそのまま呼ぶけど、

妹のことはセーレと呼んでいる。


「そういうアルフこそどうなの?」


「私は強くあらねばならないと毎日のように言われているからね。

 才能のありなしに関係なく鍛え続けられているよ」


ふんすと胸を張って力こぶをみせようと腕を突き出すアルフだけど、

ほそっこい8歳児の力こぶなどまるで見えない腕がそこにあった。

そんなアルフをじとっと横目で睨むアンジェ。


「お兄様?嘘は宜しくありませんわ?」


「う、嘘など言っていないぞ!」


「先日稽古をサボって逃げられたではありませんか」


「ま、まてアンジェ!その話は」


「しかも本日はその分も含めて稽古を付けられると

 騎士団長様に言われているにもかかわらず、

 マリウス様やセーレを口実に逃げましたのよ?」


やれやれと首をふるアンジェに反論できず言い訳を考えるアルフ。

僕と妹が呆れた表情でアルフを見る。


「アルフ・・・」


「・・・」


「ま、待て!ち、違うんだ!」


「何が違うというんだ?馬鹿者めが」


語り合う僕たちの横からシブ目の声がかかり、

こつんとアルフの頭にげんこつを落とす男性。

全く痛くはないだろうけど いたいっ、と頭を抑えるアルフ。


「陛下」


国王陛下の登場に、僕と妹が慌てて椅子から降りてその場にひざまづこうとし、

よいよい、と陛下に止められる。


「バカ息子と娘の遊び相手になってくれていることにいつも感謝しているよ、

 マリウスにセレクト」


「恐れ多い事です」


「恐縮です」


父上も一緒のようで、どうやら話しは終わったようだ。

いつもより早い気がするけど、一体何の話をしてきたのだろうか。


「それでだ、

 そんなバカ息子をしつけるよき手段として・・・・というわけではないのだが。

 実はお前たちにも報告したき事があってな」


「報告、ですか?」


その言葉に僕は父上の顔色を伺う。

話の内容はどうやら僕たちにかかわることらしい。

父上が少しシブい顔をしてセレクトを見ている。


あ。

もしかして僕たちというより、妹に関することかな?

そうだとしたら1つしかない。


「アルフレッド」


「はい」


「おぬしに婚約者を宛がうことにしたぞ」


「・・・え」


突然のことに驚きの表情で陛下を見るアルフ。


そういえば今までアルフには

そういった話はなかったのだろうか?

候補者は居るんだろうけど、

確定には至っていなかったのかな。


けど、

父上の様子を見るに、その相手は。


「セレクト=バーナード。

 そなたをわが息子、

 アルフレッド=バース=グランデールの婚約者としたい。

 よいか?」


陛下がセレクトのほうを見てそう告げる。

口調は優しく、子供に対するやわらかい言葉だけど、

どこか否とは言わせない雰囲気を感じた。

僕なら多分気圧されて頷いてしまうだろう。


だから妹は。


「嫌です!!!」


そう即答していた。








・・・って、え?


「「「「えっ???」」」」


思わず僕、アンジェ、父上、陛下のそんな返答が重なった。

なお即答で嫌だとフラれたような状況のアルフに至っては

驚愕の表情な上にちょっと泣きそうだった。


「せ、セーレ・・・?」


「私は!

 兄さまとけっこんするんです!!

 だから絶対に嫌です!!!」


・・・はい?


「えっ????」


いきなり何言ってるのこの妹。




*** *** *** *** ***

ゲーム本来のキャラクター紹介


ここではお話の終わりにシナリオ内ではほぼ出てこない

本来のゲームでのキャラクターの位置づけなどをご紹介します。

興味のない方はぜひ飛ばしてください。

*** *** *** *** ***


名前:マリウス=バーナード

性別:男性

学園入学時年齢:14歳


バーナード侯爵家の嫡男。

他者を見下し暴力を振るうことすら厭わないという乱暴者。

ゲームの主人公とは悪い意味でのライバル関係である。

婚約者であるアンジェリナ王女殿下に対してもその態度は変わらない。

その上妹であるセレクトに対し虐待行為も行っており、

妹は彼に恐怖しか抱いていない。

それを諫めようとする婚約者に対し恫喝し、

更に行為をエスカレートさせていく。

おまけに他のヒロインにも何かしらしてこようとするため、

どのルートでも必ず主人公と関わることになる。


なお全ルートのハッピーエンドで彼は断罪を受け処刑される。

国外追放となるのは主人公が誰とも結ばれないノーマルエンドのみとなる。

なおこのゲームにバッドエンドは存在しないため、

マリウスの立場で言えば、ノーマルエンドによる国外追放か、

断罪を受け処刑されるハッピーエンドのルートしかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る