銀色のメモリー ~断罪予定の異世界のびのび生活~
蒼鳥マウス@ネコ耳
第一章 少年期 王宮編
その1 二度目の物心。
夢の延長線。
未だ覚めぬ夢。
まとまらない思考。
物心がついたその瞬間を、覚えている人はどれだけいるだろうか。
長い長い夢から覚めたような、
そして目覚めて自分で考えることを知っていく時間。
その時はそれを自然と受け入れていたものだった。
けどそれが2度目の体験となればどうだろう。
長い長い夢から覚め、小さな手足を見る。知る。
綺麗な女性と男性が笑顔で僕を見ている。呼んでいる。
マリウス、マリウスと僕の名前を呼んでいる。
立ち上がって、おぼつかない足取りで二人に駆け寄り、抱き上げられる。
女性に駆け寄ったことで抱き上げられなかった男性がちょっと不満そうな顔をしつつ、
それでも僕の頭を撫でてくれる。
しかし僕はそんな年齢ではなかったはずだ。
学生服に身を包み、勉学に励む年齢だ。
そもそも名前も違う。
はず。
だから、これは夢なんだろうな、とそう思った。
しかしこの長い夢は、覚めない。
1日、2日。
眠って起きて。
夢の中なのに睡魔に襲われて眠って。
夢の中なのに目覚めて。
1週間が過ぎても同じ景色の同じ人たち。
寝ても覚めても、覚めない夢。
そして流石に理解する。
あぁ、これは夢ではなく現実なんだ、と。
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僕には父親と母親が居る。当たり前だけど。
そして、妹がいる。
セレクトという名前の、僕と同い年・・・だけど双子ではない妹が。
別に母親や父親が違うわけではない。
同じ年に母親が僕も妹も産んだのだ。
僕は早生まれで、妹は遅生まれ。
妹は未熟児として生まれてしまい生まれた当時は危険な日々が続いたらしいけど、
今では元気に僕と一緒に駆け回れるくらいになっている。
父親はバーナード侯爵家の若き当主で、国王の信も厚い上位貴族。
金髪でイケメンで果敢勇猛で気遣いもできて忠誠心も厚くて優しいとか、無敵超人だ。
母親は元伯爵令嬢の娘さんで、父上の父親と、母上の父親は元々親友同士だったらしく、
元々好き合う仲で結ばれたみたいで今でもすごく仲睦まじい。
そんな母方の貴族家はグリバディ伯爵家という
何故か城下町の真横に大きな領地を持っていて、
王国に1つしかない魔獣牧場の運営者でもある。
なお、母上は水色の流れるような髪の美人なんだけど、
なんというか気さくな感じで配下にも気軽く接していた。
それにしても、
これが本当に夢ではないのであれば、
僕は一体どうしてこんな状況に置かれてしまっているのか。
もしかして、学生だった僕はどこかで死んでしまったのだろうか。
そうしてここで新たに生まれたのだろうか。
人が死ぬとこうして新しい世界で生まれ変わるということなのだろうか?
しかしそうなると、当然僕以外の皆もそうだということになる。
セレクトや他の皆にもそういう記憶があってしかるべきだろう。
なのに、そんな素振りはまったく見えない。
やがて物心を持つに至っているだろうセレクトにも、
僕のように過去の記憶があるようには見えない。
にーさま、にーさま、と僕にくっついてくる妹に、
過去の記憶があるようには、うん、見えない。
というかあったらそれはそれでなんかやだ。
くっついてくる妹が実は僕の生前より年上のおばあちゃんとかだったりとか。
ないよね?
そうして数年の時を過ごせば、流石に夢ではない事は改めて嫌でも自覚する。
そして生前の過去の記憶を持つのが現時点では自分だけだということも理解してしまう。
ふと、
学生だった頃と違う生活環境に違和感などを覚えないものかと思った時期もあった。
水洗トイレなんてものは存在しないし、
風呂だって薪をふんだんに使ってはじめて利用できる贅沢行為だ。
幸い各都市に公衆銭湯が用意されており、
ある意味ではお風呂は身近なものといっていいかもしれないけど、
個人が持つには娯楽といっていいほどの贅沢品であることに変わりはない。
ただ、物心つく前までもその環境で生活していたからだろうか、
それが既に当たり前だという考えが、僕の中に刷り込みされていた。
水洗トイレやボタン1つで沸くお風呂やシャワーがあったら
便利だろうなぁとは思うものの、思うだけ。
無いのが当たり前のこの世界でまったく困っていない。
文字や言葉もそう。
まだ学んでいないので書けるわけではないし、読むことも出来ないけど、
なんとなくこの文字はそういう意味かな?と絵本の文字なんかはぼんやり分かる。
多分物心付く前に何度も読み聞かせてもらっていたものだからだと思う。
過去の日本語も分かるのだけど、思考する際に用いる言語はこの世界の言語が基本だ。
それを日本語に翻訳して考えている。
そしてこちらの世界の言語に脳内で翻訳している。
思考の基礎が既に日本語ではないという事実があった。
そうして物心が付いてから5年の年月が過ぎれば、
色々なことを知識として吸収していく。
過去の記憶があることが幸いしてか、この世界のことを学ぶのが楽しい。
ふつうは嫌がるものであろう学問を貪欲に求めこなす僕に、父も母も大満足。
そんな僕を見て真似る妹もまた、学問を僕と一緒に学んでいく。
その過程で文字を知り、歴史を知る。
そして地理を知り、国名を知る。
そして様々な事柄を学び知った僕は1人絶望する。
この世界が、僕の知るとあるゲームと同じ舞台、同じキャストであることを知って。
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