第6話
廊下を全力で走っていると、莉亜に謝らなければいけない、という思いがどんどん膨らんでいくだけで、足がもつれる。いつもぶっきらぼうだった。直接的な言い回ししか出来なかった。そんな不器用なところが莉亜の長所でもあるのに、突き放してしまった。寄り添うと決めていたのに、傷つけた。
「菜緒!」
私の名前が聞こえたのとほぼ同時に、腕に尖ったものが何か所も食い込み、掴まれる。鋭い痛みが腕にびりっと走る。振り向くと、やはり莉亜は私の腕をがっちりと掴んでいた――爪を立ててまで。列になって並んだ四つの真新しいくぼみがそれを証明していた。赤紫色にえぐられた傷の周りには、剥けたてのほの白い皮膚が不格好に巻かれている。
「菜緒のこと探してた。さっきはごめん。菜緒の気持ち考えないまま、自分の考え押しつけた」
そう言って、莉亜は私を横から抱きしめる。私の目頭が熱くなり、莉亜のスカートのチェック柄がぼやけては白む。ぽたぽたと二滴、莉亜のブレザーに滲みがじわじわと広がっていった。
「私こそごめん。卒業式、出るよ。どうしても、見てもらいたい人がいるから」
「うん。知ってた」
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