第31話 王子の提案②
いや、すっげ〜よ!
この門番、俺たちを背負って屋敷まで走って来たよ!
門から屋敷まで200メートルぐらいあるのに、走っても息が少ししか乱れてないよ!
フルプレート着て10代の男二人の重さがあってこんな早く走れるなんて……何気にこれが初めて異世界の凄さを感じたかもしれない。そのぐらい驚いたわ!
その門番は屋敷に入ってすぐに俺たちをベットに寝かせて、“すぐにお医者様呼んできますので”と言ってどこかに行ってしまった。
「なあ、ローリデの人たちってみんなあんなことできるのか?」
「いや〜、ミルコ州の人はできるかもしれないけど、普通の人は出来ないよ」
「よかったわ。俺はあんな人たちと競い合うと思うとちょっと不安だったから」
背負われたときに門番の腕に包まれてしまった。その時に、思ったより筋肉がパッツンパッツンじゃなくて、一般的な細マッチョ的な感じだった。それでこの膂力は驚きだった!
「競い合うって、君、漁師でもなるの?」
エリックが結構驚いたように言う。
そう言えば、エリックには俺が強くなろうと思っていることは伝えてないことを思い出し、改めて伝えてみた。
「そ、そうなんだ。一瞬君も、チャーデオ殿みたいになるかと思ちゃって……」
エリックがそう言うと、ちょうど医者の人が来た。そして俺たちはその人の検査で2時間ほど時間が取られた。
俺たちは検査という時間の束縛から離れて、客室に待たされていた。
「いや〜、長かった。てか何を検査していたのさ? 普通怪我くらいじゃないの?」
俺はあまりにも長すぎる検査に文句を言いながらも、エリックにやる意味があるのかと問いかけた。
「実は僕たちのいた魔樹の森はすっごく危険で、迂闊に入ってはいけないんだよ。そして未だに魔樹の森全体を把握できてないから、未知の毒とかあるかもしれないからこんなにも検査が長引いたんだよ」
「そうか、そりゃあ〜空気感染の毒ってのもあり得るから慌てるわけだな!」
「「……」」
「え? お前それ知っておきながら魔樹の森に入ったのか? やばいだろ。もっと王子としての自覚持てよ!」
「いや〜、好奇心に負けてしまって……」
そう言って、エリックは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「好奇心があることはいいが、まずは力をつけなきゃな!」
「「……!」」
俺たちの会話に入って来たのは、肌が日焼けで黒くなっていて、スキンヘッドの格好をした厳ついおっさんだった。
「初めまして、エリック・ホンラードです。急な来訪に対応していただきありがとうございます。チャーデオ・ミルコ殿」
最初は驚いていたエリックだったがすぐに切り替えて、まるで王子様のような(いや王子様なんだけど!)綺麗な挨拶を返した。
「これはこれは! 丁寧な挨拶を。私こそチャーデオ・ミルコでございます!」
チャーデオさんは、なんかすごく大袈裟ぶって挨拶を返した。
「いつもみたいで結構ですよ。公の場でないので」
エリックがそう言うと、さっきみたいな大袈裟な態度から近所のおっさんみたいな態度に変わった。
「そうか、そうさせてもらうわ。しっかし、大きくなったな〜 前はこんなにちっちゃかったのに」
そう言って、チャーデオさんは腰あたりのところに手を合わせて笑っていた。しかしその表情は続かなかった。
そしてすぐに表情が真剣なものになり、エリックを問い詰め始めた。
「で、本来なら歓迎したいところだが……お前、勝手に魔樹の森に行ったんだな?」
「そうです」
エリックは悪びれもせず、ただ単に無表情でそう言った。
「「「……」」」
エリック杯言葉にしばらく沈黙が続いたが、チャーデオさんは何度も頷きながら喋り始めた。
「うん、うん。やっぱり男なら冒険しなくちゃな! 今度は森じゃなくて海に連れてってやる!」
そう言ってエリックは怒られずに済んだみたいだ。なんだか見た目どうりに豪快な人っぽくて面白かった。
「それで、こいつはお前の従者か?」
チャーデオさんは、エリックに俺のことについて問い始めた。実際のところ、どう受け答えするかはエリック次第だがことが落ち着くまで従者にしておいた方が良いと俺は思ったが…………。
「いえ、彼は僕の従者ではありません。件のゲート関係者です」
「ゲートか……本当に行ったんだな?」
ゲートの話題が出てすぐに二人はフランクな関係から、貴族の関係に変わったように見えた。
「はい」
「……さっきは男なら冒険するべきとは言ったが、ゲートのことだけは別件だ。魔樹の森に入ろうが、別大陸に行こうが、他国に不法入国などはいいが、ゲートだけは絶対にダメだ! 分かったか?」
「肝に銘じます」
二人のオーラというのか分からないが、凄みを感じて俺は少し貴族ってすごいって思った。
でも、不法入国はダメだろ。
「ま、結局は無事に帰ればそれでいいんだけどな。それでそいつはゲートの被害者ってことか?」
話題が再び俺になったことで俺も真剣な顔してチャーデオさんと向き合った。
「いえ、ゲートから出て来たみたいです」
「おおぉ〜〜〜い!」
エリックは見事に俺の予想を裏切ってきた。
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