第30話 王子の提案①

「あぁぁ〜」


 俺が目が覚めた頃にはすでに朝日が登っていた。初めて野外で寝たが、疲れていたのですぐに寝れたが、いかんせん背中や肩が痛いので、俺は起きると同時に凝り固まっていた背中を伸ばしながら思わず声を出した。すでにエリックは起きているようで、何やら焚き火の近くで作業している。


「おはよう、起こしちゃったかな?」


「いや、全然。ところでなにしてんのさ?」


「さっき、兎がいたから狩ったんだ。これを朝ご飯にしようと思って」


 そう言ってエリックは木の枝に刺してある二羽の兎を焚き火で焼き始めた。他にも内臓とかも焼いていた。俺はそこまでグロ耐性があるわけでもないが、初めて見る解体現場にそこまで気持ち悪くなかった。と言うよりも、昨日の夜はチョコしか食べていなかったのですごく腹が減っていて、食材にしか見えなかったからだ。







 エリックは兎を俺にもくれた。初めて兎を食べたがとても美味しかった。空腹と環境という、スパイスが加わってか今まで食べた物で一番美味く感じた。さらにレバーが苦手な俺でも内臓が美味しいと感じられた。また、ウサギ特有のクセがあったがなんだかサバイバル飯って感じで、良かった。

 

 てか、塩だけでこんなに美味しく出来るエリックがすごいと思ったわ。王子やめて、料理人になれば?とか思ったわ。


 そんな初めての体験が終わり俺たちは昨日の夜できなかった話をすることにした。


「ご馳走様。マジで美味かったよ。本当に王子なの? 料理人じゃなくて?」


「褒めてくれて嬉しいよ。でも本当に王子だから! で昨日の話の続きだけどさ、家に、ホンラード王国に来ないかい?」


 俺は兎を食べて元気になった頭で真剣に考えようとしたが……

 

 考える必要ないよな、俺は今、身分も力も人脈もないに等しいし……なら答えは決まっているな!


「確かに君は、不安かもしれない? でも、昨日交わし……」


「いいよ! てか、お願いします!」


 何かエリックが喋っていたようだが、俺はすぐさまホンラード王国に行きたい事を伝えた。エリックは驚いたように見えたけどすぐに顔をクシャっとさせた。


「じゃあいこうか! 我がホンラード王国へ!」


 そう言って俺は、焚き火やらを片付けてからエリックの後について行った。







 すっげ〜〜〜疲れた。


 マジですっげ〜遠かった。


 出発したのが、エリックの持っていた懐中時計では8時だったのに、ホンラード王国の端っこのカラリヤって都市の門に13時にやっと着いた。改めてこんな遠い場所に来てる王子はおかしいと思った。


「これを羽織ってくれないか?」


 俺はエリックから頭まで隠れれるローブをもらった。


「君の格好は目立つし、今後のことを考えれば君がここにいたことを知ってる人がいたら困る」


 俺もこの世界の人たちにゲートから来た人間とは思われるとまずいと分かるから、大人しく着ることにした。


「さてこれから中に入るけど、誰にも目を合わせないようにしてね」


 そうして俺は異世界初の都市に入ることになった。







 カラリヤに入る時はエリックが何やら派手な短剣を門の守兵に見せていた。それを見た守兵はすぐにエリックに敬礼をして、中に入るように促した。その時に俺のことを聞かれたがエリックが上手く受け答えして、やり過ごした。


 初めて見る異世界の都市はとても新鮮だった。


 入って一番最初に目に入ったのは、中央に噴水がある大きな広場だった。そこの近くには色々な屋台があり昼飯の時間だからか、いろんな人が並んでいた。


 中でも一番気になったのは、大きな目玉焼きの入った焼きそばのようなものだった。目玉焼きは俺が知っているやつの3倍くらいデカかった。


 他にもフルーツジュースや、肉の串焼きなどあってエリックのことを完全に忘れて勝手に見回ってしまっていた。


「少しここで買っていこうか」


 そう言われて、俺はエリックのことを思い出した。エリックは俺の様子を見てか、少し屋台の物を買うことにした。


「王子が歩き食べしていいのか?」


 俺たちは屋台でいくつか食べ物を買って、歩きながら食べていた。


「王子でも歩き食べは出来るからね。時間は有限だよ」


 そう言いながら俺たちは串焼きを食べ進めた。


 俺が気になっていたビッグ目玉焼きの焼きそばは持ち運べなかったので諦めることにしたが、機会があれば絶対に食べようと思う。


「で、どこに向かってるの?」


 俺は串焼きを食べ終わり串を口に咥えたまま、そう聞いた。


 エリックについて来たが、まだどこにいくすらも聞いていない。それというのも、例の件で声を出すのも禁止にされたからだ。


 そういう約束なのに、俺は盛り上がって屋台の方に行ってしまったが……


「う〜ん、そうだね。まずは君のことを伝えてもいい人に会いにいく……って喋っちゃダメだよ。誰が聞いているか分からないからね」


「分かったよ」


 人がいないタイミングで話しかけたが、それでも“念には念を”のことで黙った。


 しばらく歩くとめちゃくちゃでかい家、いや屋敷に着いた。そしてエリックはその屋敷の門番の一人に話しかけた。


「こんにちは、チャーデオ-ミルコ殿はいらっしゃるか?」


「すみませんが、急な来訪の方は受け付けてはいません」


 エリックはそう言われて、カラリヤに入る時にも見せた短剣を見せた。すると門番は目の色を変えたが、態度は変わらなかった。


「……! こ、これはエリック様でしたか。でもなおさらここを通すわけにはいけません。今は原因不明のゲートが魔樹の森にて発生し、それに向けて調査の予定ですので」


「え〜、せっかく僕が先に魔樹の森に行って調査して来たのに?」


 そう言うと、門番は驚いた顔をして門を開けた。


「な、何をなさってるのですか? 一人で魔樹の森なんて危険ですよ! 今すぐ中に入って診てもらって下さい! 領主様からは私の方からお伝えしますので! 失礼します!」


 そう言ってエリックは門番の人に抱えられた。その様子を見ていた俺だが、なぜか俺も抱えられてしまった。


「ええ、俺も⁉︎」


「いや〜、ミルコ州の男の人は力持ちだな〜」


 そうして俺とエリックは門番の人に抱えられながら、大きな屋敷に入っていった。

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