第29話 第3王子③

「さて、君はこれからどうするつもり?」


「それも考えてなかった……」


 エリックは俺のドヤ顔については深く言及してこなかった。なぜならそれ以上に俺の存在が希少で危うげだったからだ。


「はっきり言って君が異世界から来たということはホンラード王国にとっては、いやローリデにとってもあまりいいとは言えないんだ」


「その〜、何か問題でも?」


「今、ローリデは結構なピンチでね。 至る所で戦争が起きているんだ」


「戦国時代ってわけか」


「確かにローリデでも色んな国同士で戦っていた時代があった。でも今はある1つの勢力と戦っているんだ。ローリデ全ての国が」


 俺が三国志みたいなのを想像していたが、このローリデという世界では違うようで強国相手に一致団結してる感じかな?


「それで話が戻るんだけどその相手って言うのが、俺たちがゲートと呼んでいる黒いものから、ローリデ各地に攻めてきているんだ」


 エリックの話を聞いて、俺はすぐに勘づいた。


「確か、俺もここに来るときに黒い何かにやられたけど……それってエリックの言うゲートってやつ……もしかしてそれか?」


「そう。俺たちの世界は今そのゲートから出てくる謎の軍隊と戦っているんだ。そして君はそのゲートらしき物から出てきた。もう分かるだろ?」


「確かに俺は要注意人物だな。そのゲートから出てくる敵っていうのついて他に知っていることは?」


 少し話を変えるために、俺は質問したがエリックは何も言わず俺の質問に答えてくれた。


「現状分かっていることは、相手は魔物を使役していることだね。種類も多いし、この世界で見ない魔物もいるようだし。他には最近になってゲートの発生というのが事前に分かるようになったこと、そしてパターンがあることかな?」


「そうか、だいたい分かったけど……二つほど質問がある。一つ目は、さっきエリックが言ったように魔人って何だ?

 二つ目は、ゲートの予測ができるならなぜ俺は軍隊やらに囲まれてないんだ?」


 俺はエリックの話とエリック自身の動きがおかしいと思う。だって王子が一人でここにいるのはおかしいし、危ない。

 その疑問や最初の会話が訳分からなかった。


「一つ目のやつは……言えない。ローリデにおけるトップシークレットだから。二つ目はゲート自体は感知できたけど、今までのパターンでなくて、なおさら国の比較的そばにあったからと、魔樹の森の中だから多少は時間稼ぎが出来るからかな」


 どうやら俺がこの世界に来たゲートはホンラード王国にとっては予想外のものであったっぽい。でもエリックがいる理由になってないよな……


「じゃあ、何でエリックはここにいるんだ?」


「それりゃあもちろん、勝手に来たんだ!」


 エリックが自信満々に言うもんだから俺は少しの間動きが止まってしまった。


「なっ、お前は王子だろ! 何やってんだよ!」


「でも、来なかったら君とは会ってなかっただろ?」


 エリックは整った顔をクシャっとして笑った。


「男に言われるのは少しやだ」


 なんか口説かれている感じして俺は少しエリックから距離を取った。


「いや、俺も少し後悔したかも……でも、この出会いは無意味じゃないと思う」


「無意味じゃない……か。エリックは俺のこと怖くないの?」


「なんのこと?」


 エリックはそう言って惚けるが、さっきのことを話しているエリックはとても真面目でいて、事態への本気が見られていた。だからこそゲートから来た俺はとても怖いと感じるはずだ。俺ならそう思うし。


「いや、俺、ゲートから来たんだぜ? ローリデ中が恐怖している謎の軍隊の一人かもしれないじゃん? それこそ魔人ってやつ?」


「でも君は、嵌められてここに来たんだろ?」


「嘘かもしれないじゃん」


 俺自身、嘘はついていないがでもそれは俺だけにしか分からないことで、エリックからしたら全くもって分からないことだ。だからこそ、得体の知れない俺という人物はとても奇妙に見えるはずだ。


「はは、そんな訳ないじゃん」


 エリックはまたクシャっとなって笑った。


「俺には、嘘かどうか分かる特技がある! 特技っていうか体質? まあ、それで君が嘘をついてないことぐらい分かるんだ」


「でも、それでも俺はお前たちにとっては得体の知れない奇妙なものだろ?」


 俺がしつこくもエリックに言うが、エリックはそのクシャっとなった顔のまま自分の話をした。


「いや〜俺もさ、こんな能力があって、王子っていう立場で結構きつかったんだよ。その貴族ならではのストレスってやつ? 嘘が分かるからなおさら、人は近づかないし、近づてくる奴らは本当は馬鹿にしてるのに媚びてくるとか色々あったんだよ」


 エリックの能力は普通の生活でも苦労するだろうが、なおさら王子と言う身では辛いと思う。


「俺も、3年ぐらい前まではなんかいつも疲れていて、何もやる気が起きなくてね。それに人間不信って感じだった」


「でも、今のエリックはそんな感じに見えないけど?」


 何かあったんだろう。俺がここ最近あったことみたいに。


「3年前に、婚約者と顔合わせする機会があってさ。その時の彼女の言葉で僕は生まれ変われたんだ。生意気な感じだったけどね」


 エリックはそう言いながらも嬉しそうに顔をクシャっとして笑っていた。


「当時人間不信だった僕に、こう言ったんだ。“あなたが人間不信なのは、あなたが他人を信じられないからじゃなくて、自分を信じられないからよ!” ってね。最初は何言ってんだ?とか思ったけど、その言葉を言われてからずっと考えたんだ。でも分からなかったから実際にやってみたんだよ。食事会とかで。それで何回もやっていくうちになんか治っていたんだよ! 結局のところ、僕が必要以上に他人を怖がっていただけだったって話」


 エリックの話が終わり、俺はなんだか呆気にとられていた。


「長くなちゃったけど、僕が言いたいのは人はまず信用してみよう!ってこと。実際にヤバいやつもいたけど、なんだかんだで上手くいったし」


 エリックがそう言って話を締めた。そんな話に感化されてか俺も少し考えすぎもあったのかもしれない? さっき俺は能天気など言っていたのに。と言うよりも俺自身、混乱しているのもあるかもしれないが。


「そうか、助かるよ」


「別にさ、それに王子である僕にお前って言う友達は少ないからね。時折だけど」


「お前も最初は俺呼びだったけど、今は僕になってるじゃねーか」


「あ、そう言えば。少しオラオラ感を出そうと思ってね」


 そうやって話していたが、俺の疲れのピークが来たのか、すごく眠たくなっていた。俺は最初は警戒していたが、このまま寝てもいいと思い始めて横になり始めた。


「すまない、もう眠気が限界なんだ。横にならせてもらう」


「もう横になってるじゃん。 僕も眠くなっていたところだしね」


 エリックもそう言って俺と焚き火を挟んで横になった。その様子を見て俺は目を瞑ったが、本来の話をするのを思い出した。


「そういえば、俺がこれからどうするかというの……」


「あ、そうそう。それはうちの国に来ないかって言おうと思ってたんだ。でももう眠いから明日に話そうよ」


 俺の声に被せながらエリックは欠伸をしながら言った。返答はしなかったけど俺はそれに賛成だったので、寝ることで賛成を示した。


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