第28話 第3王子②

 ホンラード王国……その言葉に俺は覚えがなかった。俺の知らない国である事も考えたが、このような魔樹の多いところがあれば有名でないはずがない。


「俺は王子だけど王位継承権も低いし、エリックって呼んでよ」


「ああ、そうするよエリック」


 俺がホンラードという謎の国について考え事をしながら呼び捨てで、名前を呼んだらエリックは少し嬉しそうにした。


「じゃあ、僕は君のことを君と呼ぶよ」


「あ〜、ぜんぜんいいよ〜」


「で、さっきのことなんだけど俺はトウキョウという国、都市のことは知らないかな。これでも王子の教育はある程度やってるから」


「じゃあ、日本は? 日本! それぐらいは聞いたことはあるだろ! だって日本語喋ってるし」


 俺は半ばそうであって欲しいとの願いを込めて言ったが、今に至るまでの出来事からそれは難しいと考えていた。

 そして俺はエリックの返答を待った。


「すまない。ニホンなんて知らない。 そして今、君は僕たちの使っている言葉をその……ニホン語って言っていたけどこれは共通語のはずなんだけど……」


 エリックはまるで自分が間違っているのではないかのように、謙虚に話してくれた。でもエリックの言っていることは俺の知っていることはまるで違っていた。それこそ世界丸ごとが変わってしまったみたいに。


「じゃあ、この世界は地球か?」


 こんなこと真面目にいうなんて考えもしていなかったが、今はこの質問がとても大切な質問になっていた。


「いや、世界はローリデって呼ばれているよ」


「そうか……じゃあ俺は全く別の世界に来てしまったのか……」


 何となくはそうなんじゃないかとは思っていた。でもそれ以上にどっかで認めたくない俺がいて、必死に屁理屈を考えていた。でもこれ以上屁理屈を考えるのは無理だった。エリックが嘘をついてる可能性もあるが、今の俺にはそんなふうに見えなかった。







 ここが地球でないことがわかって、しばらく俺たちの間には沈黙があったがその沈黙を破るようにエリックが口を開いた。


「少しは整理できたかい?」


「ああ、ありがとう。だいたいは整理できたと思う」


「どういたしまして。で、君に一つ聞きたいことがある……真面目なことで」


 エリックは俺と会ってからずっと笑みを浮かべていたが、急に真面目な顔になりその言葉の本気度はわかった。


「君は、なんのためにここに来たの?」


「それは……」


 馬鹿正直に答えてもいいと思うが、もしエリックが白撫の協力者とかだったらやばい。あのような仕打ち、いやもっと酷い事をされるかもしれない。そもそも白撫が地球人であるかも疑わしくなってきた今、簡単に情報を渡していいものかと……。

 でもエリックは俺の質問にも答えてくれたし、何しろここで渋ったとしても、この状況が停滞するだけだと思う。

 そして数分考えた後、俺はエリックのことを信じて俺の体験したことを話すことにした。







「こうして、俺はエリックに会って今に至るわけだ。だからここには何かしに来たんじゃなくて、来させられたんだ」


 こうして俺は話を終えた。話している最中エリックは、とても興味深いような様子で、話している身としてはとても嬉しかった。そして話終わるとエリックはまた笑みを浮かべて話しかけてきた。


「ところどころ分からないところもあったけど、おおまかな事は分かったよ」


「だから、この世界のことを教えてくれないか。何でもいいから」


「大丈夫か?」


「ん? 大丈夫だけど……」


「本当か? いきなり苦痛を与えられたと思ったら、異世界に飛ばされ、そして夜の森で一人にされたんだぞ」


 先程まで笑顔だったエリックが悲しそうな顔をして心配していた。


「それに……酷だが君はもう帰れないかもしれない。家族に会えないかもしれない。友人に会えないかもしれないんだ」


「確かにね……」


 エリックに言われたことは俺も考えてはいたことだ。でも俺はあえて考えないようにしていて、エリックはその現実を早く分かった方がいいと思ったんだろう。

 俺だって、父さんや母さんと会えないかもことは辛い。

 でも、いまいちそのような感覚になっていなくて、どっかで会えるという楽観的な考えがあった。


「俺って結構いい加減で、今も何とか変えれるんじゃないかと考えているし、それに今はこの世界で生きていかなくちゃいけないから」


「君は、強いんだね。俺もそんなふうにできるかな……」


「俺の事を、こっちの世界ではって言うんだぜ!」


 そう言って俺は何となくドヤ顔をして、親指をエリックの方に立てた。


「いや、ローリデでも言うよ」


 ドヤ顔しなければ良かった……。

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